わたしの思い

ヤツに襲われている女性を助けて早数十分が経過。

取り敢えず避難所に向かって一直線のわたし達。


女の人を救えたのは良かった、誰かの命を救えたから。

でも、わたしはお母さんとお父さんを助けられなかった…。

4人は自分の責任だって思っているみたいだけれど全部わたしのせいだ…。

わたしが余所見なんかしているから。

裕太と一翔が悲痛な表情でわたしに何度も何度も謝っていたこと、義経と季長がわたしに何度も謝った挙げ句死を以って詫びようとしたこと。


それらを思い出すだけでも胸が酷く痛む。

女の人を助けたのだって結局は自己満足なのかも知れない。

世の中には自己満足は所詮、偽善だと批判する者、自己満足でも誰かを救えたのならその人は立派な人だと称賛する者が大勢いる。

どれが正しくてどれが間違いなのかはまだまだ子供のわたしには分からない。

分からないからこそ双方の意見を必要以上に真に受けて、一人で傷ついたり、一人で優越感に浸ったりするだろうな。


ひょっとしたらわたし達のやった事だって世間の人からしたら自己満足だって批判されることもあるだろう。


でも、冷たい世間の人にいちいち反応する必要なんてない、自己満足だっていい、偽善だって非難されてもいい。

わたしはわたしの信じる道を大切な人達と歩んでゆくのみだ。

そんな事を考えながら歩いていると女の人がわたし達に話しかけてきた。


「本当に助かったわ、ありがとう。言い忘れていたわね、わたしの名前は塚原沙耶、よろしくね。」

女の人が柔らかく微笑みながらそう口にする。

「「「「「此方こそ」」」」」


「あっそうそう、まだあなた達の名前聞いてなかったわね。

いきなりこんな事聞いてごめんね?イヤならわざわざ言わなくてもいいわよ?」

女の人はそんなふうに言ってくれたが向こうが名乗ったからには此方も名前を明かさない訳にはいかない。

「本山明日美です。」

「山崎裕太です。」

「山崎一翔です。」

「源義経と申す。」

「竹崎季長と申す。」

義経と季長の名前を聞いた瞬間、女の人は一瞬目を見開いて驚く素振りを見せたが二人の服装からして嘘じゃないと判断したらしい。

女の人は優しく微笑むと

「教えてくれてありがとう。みんな良い名前ね…。」

まだ出逢って数十分だけしか経っていないけれどこれだけはハッキリと言える、沙耶さんはいい人だ。

わたし達のことを頭ごなしに否定なんかしないですんなりと受け入れてくれる、そんな心の広さを持っている。


こんな良い人の命が救えて本当に良かったと心底思った。


両親のことは出来るだけ考えないでおこうと心に決めたはずなのに、どうしても両親の笑顔が頭に浮かんでしまってかき消そうとしてもまた浮かんでは消えてを繰り返すだけ。

わたし、なんでもっと両親に優しくしなかったのだろう?

なんでもっと話さなかったのだろう?と後悔が波のように押し寄せてきてわたしを苦しめる。


確か友里亜さんが本当に大切なものは失ってから気が付くものだって言っていたっけな。


でもお父さんもお母さんもわたしなんかよりも強いからきっと助かっているはず。

今はそう信じてまた会える日を待とう。


「なんかごめんね、年上なのに世話を掛けちゃって…。」

沙耶さんは申し訳なさそうな口調で言う。

「そんな事ないですよ。」

沙耶さんがあまりにも申し訳なさそうに言うから逆に申し訳ないと思えるくらいだ。

「お腹空いたわね。」

沙耶さんがポツリと零す。そういえばわたし達丸1日何も食べてない。

4人なんか結構忙しなく動いているからこれ以上空腹が続けばどうなるかはお察しの通り。

何かないかなあと辺りを見回すと、近くの公園で桑の実を発見。

桑の実はぶどうを小さくしたような外見で味も甘くて美味しい。

それに此処にはヤツが居ないから割と安全である。


「ちょっと用事があるから此処で待ってて。」


わたしが4人にそう言うと、裕太が面倒くさそうな口調で言う。

「お前の用事っていつも長いから困るんだよなもう俺たち先に行っとくぞ?」

それに残る一翔、義経、季長までもが

「「「お先に」」」

とか言う始末。

女の子を置いていくとか有り得ない!!とついイラッとして一言。

「先に行きたいなら勝手に行けばいいじゃないの、この薄情者!!」

わたしの一言を聞いた沙耶さんは困ったような表情で笑っている。



わたしは公園へと入っていき、桑の実を出来るだけ袋に詰める。

袋の中に桑の実が溜まっていきずっしりとした重みを感じるようになった頃。

(もういいかな。)

公園から出ようとしたとき、入口付近で4人がわたしを待っているのが見えた。


なーんだ。結局待っていてくれたじゃないの。


先に行く気満々だったくせになんだかんだ言いつつも待ってくれるのだな。

ついそれがおかしくなって

「へえー結局待っていてくれたんだ?」

とわたしが言うと一翔、義経、季長が一言。

「「「別に待っていただけ。」」」

続いて裕太が

「別に心配だから待ってやった訳じゃねーし、暇だから待ってやっただけだし。」

そんな彼らの様子を見ている沙耶さんは今にも吹き出しそうな顔をしている。




取り敢えずみんなで桑の実でも食べよう。






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