別行動

 どうしよう…。夕菜に見つかったから…。この先きっとわたし達を狙って来るに違いない、殺されてしまうかもしれない。


 みんな何処かへ逃げなきゃ命が危険だ。

 夕菜はゾンビを使って生物兵器の実験をしていると言っていた。


 わざわざ神奈川県という都市圏で生物兵器の実験をするのはやはり人口が多いからであろう。


 人口が多ければ多いほど生物兵器の実験は効果が分かりやすいと聞くから、都市圏が実験台として選ばれたと考えるのは極々自然な事である。

 夕菜は一応わたしのクラスメートだったのだから裕太の家くらいは知っている。


 あの女に見つかったからには家でゆっくりしている暇などないだろう…。



 それにこんな大人数で居たら目立ってしまうと言うことでそれぞれ別行動する事に決定した。


 一組目は奈央、里沙、美晴、友里亜。

 二組目は義盛、忠信、継信、弁慶。

 三組目は明日美、裕太、一翔、義経、季長、お母さん、お父さん。


 美晴ちゃんはわたし達と同じ組が良いのでは?って思ったけれど人数的に厳しいので奈央達と行動することになった。

 状況が状況だから文句なんか言っていられない。


「別行動、寂しくなるわね、やっとあなた達に会えたと思ったのに。」

 里沙が寂しそうな口調で言う。

「たまには素直になりなよ、裕太君、一翔君、九郎君、五郎君♪」

 奈央はこんな時でも4人の事をからかっている。

「俺たち充分素直だし…。」

 裕太が奈央に対して何やらブツブツ言っているが残念ながらわたしには聞こえていない。



 こちらでは義経とその家臣が別れの言葉を交わしていた。


「殿、どうかご無事で。」

「弁慶こそ無事でな。」


「いざというときは必ず殿をお守り致す。」

「継信…。」


「必ずまた…。」

「忠信…。」


「必ず生きて戻ってくる。」

「ああ勿論だ、義盛。それに弁慶も忠信も継信も必ず生きて帰って来い。」

 本当に家臣と仲が良いなと思い、しんみりしている中、美晴ちゃんがいきなりわたしに抱きついてきて言った。


「わたし、明日美ちゃんと別れるなんてイヤだよ…。」


「わたしだって美晴ちゃんと離れたくないよ…。」

「わたしは明日美ちゃんが大好き。だって初めて出来た本当の友達だもの。」

 美晴ちゃんがクリッとした黒目がちの瞳に溢れんばかりの涙を溜めてわたしにそんな事を言う。


 美晴ちゃん、そんなにわたしの事を思っていてくれたんだ…。

 その言葉が嬉しくて嬉しくてつい泣いてしまいそうになる。


「わたしも美晴ちゃんの事が大好きだよ。」

 わたしが正直に伝えると美晴ちゃんは無理に笑顔を作る。


「明日美ちゃん、絶対に生きてね!!生きて生きて生き抜いてね!!

 わたしも絶対に生きて帰ってくるから!!約束だからっ!!」

 美晴ちゃんはそう言いながらわたしに対して小さくて可愛らしい小指を向けてくる。

「約束の証に指切りしよう。」

 わたしも小指を美晴ちゃんに向けて彼女の小指にわたしの小指を絡ませる。


「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った!!」」

 指切りげんまんを終えて小指を離すと美晴ちゃんが最後に一言。

「約束、破ったら許さないから…。」

 そう一言発した美晴ちゃんの表情が寂しそうで思わず胸が締め付けられる。


 次に奈央と里沙がわたしに近づいていき別れの言葉を告げる。

「明日美ちゃん、わたし、あなたの事が好き。

 幼なじみとして、親友として好き、大好き。だから死なないでね。」

 里沙が悲しそうな表情で言う。

「うん、死なない、絶対に生きて帰ってくるから。」


「もう暫く明日美ちゃんと裕太君、一翔君、九郎君、五郎君のやり取りが見られないなんて寂しくなるわね。

 正直に言ってわたし、5人のやり取り好きだったな。」

 奈央が心底寂しそうな口調で言う。

「生きてね、絶対に生きてね。」

 わたしがそう口にすると奈央と里沙はそっと優しく微笑んだ。

「「絶対に死なないから。」」


 それからわたし達はそれぞれ別の場所へと向かって行った。


 またみんなで会える事を信じて…。









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