素直になあれ

「じゃあ、わたし達は暫く此処を出ていくわね〜」

 そう言って美晴ちゃん、奈央に由里亜さんが和室を後にする。残ったのはわたしと4人だけ。

 奈央に見事なまでに打ちのめされた4人になんて声をかけたら良いのか思いつかずに気まずい空気が流れる。

「なんか凄く言われていたけれど大丈夫?」

 わたしは無表情で座り込んでいる4人にそう声をかけてみる。

「…」「…」「…」「…」

「なっちゃんも悪気があった訳じゃないから許してあげてね。」


「「「「………。」」」」

 完全に奈央にやられたらしくすっかり意気消沈しているらしい。


「俺たち素直じゃないのかな?」

 口を開いたのは裕太だ。その問いかけに一瞬なんて言おうか戸惑ったけれどわたしは正直に言った。

「うん、全然素直じゃない。正直4人って誤解されやすいと思う。」

 正直に言って4人は容姿だってかなり良いし、身体能力だって高い、性格は男気もあって決して悪くはないと思う。


 ただ裕太は喋り方がぶっきらぼうだし、一翔、義経、季長は面倒な会話はしないタイプだから第一印象は無愛想だとかキツイだとか思われやすいらしい。


 暫く沈黙が続いていたが裕太がその沈黙を破る。

「俺さ、両親いないじゃん?実はさ両親、事故で死んだんだよ。」

 裕太、一翔には両親がいない、でもまさか交通事故で亡くなっていただなんて……。

「遊びに行く最中に逆走してきたワゴン車に衝突されて…僕と裕太は助かったけれど、父さんと母さんは僕と裕太を庇って…死んだ…。」

 一翔と裕太が両親の事を語るときの表情は凄く辛そうでわたしも胸の奥がギュウっと締め付けられるような感じがした。

「「でも…犯人は、犯人は責任能力がないとかで、不起訴、無罪放免になってしまって…」」

 そう語る二人の声は微かに震えていて、瞳もほんのり潤んでいるように見える。

 最愛の両親を奪った犯人は刑事責任能力がないとかで実質無罪放免で犯人は裁かれない、やり場の無い怒りはいつしか自分自身に向けられていっただろう、2人はずっと「あのときこうしていれば」とか思い続けていたに違いない。


 そう言えば裕太、一翔が感情を表に出さなくなったのは丁度両親が亡くなった頃だし、義経が感情をあまり表に出さなくなったのは父親の死を知らされた頃、そして余計に感情を表に出さなくなったのは平泉に下る最中に平家の人を斬り殺して以降、季長が感情を表に出さなくなったのは領地争いで破れてから。


 色々な悲しみ、後悔、罪悪感、何もかも背負い込んでしまったからだろうな、きっと。


「たまには愚痴ることも大事だと思うよ?わたしで良かったらいつでも聞いてあげるから。」

 わたしがそう言うと4人は応えはしなかったが何やら考えているようだった。

 ふと頭の上で温かい重みを感じる、なんだろうと思ったら4人がわたしの頭の上に手を載せていた。

「ちょっとどういうつもり!?」

 わたしが彼らにそう尋ねても何も答えてくれない、しかも4人共明らかに顔を赤らめている。

 なんであんた達が顔を赤くさせてる訳!?こっちが恥ずかしいんですけど!?


 いきなり頭の上に手を載せられてどうしたら良いかわからないでいると和室の障子が開き奈央が戻ってくる。

 その様子を見た奈央はおかしそうに笑いながら

「あらあら〜それはどういうつもりかしら?」

 と言った。

「ベ、べべ別に何でもねーよ、ただ髪の毛をボサボサにしてやろうと…。」

 顔を赤くさせている裕太がそっぽ向いて答える。何それ酷い、裕太の意地悪。

「さ、ささ、さあね〜何でだろうね。」

 一翔が急にしどろもどろになる。

「な、何故であろうな…」

 義経が急に焦りだす。

「と、特に特別な意味はない…。」

 季長がバレバレの言い訳をする。

 かなり動揺気味の4人に対して奈央は更に攻めてくる。

「随分と動揺しているじゃない〜?」

 奈央に指摘をされたのが気に入らなかったのか4人はわたしの頭から手を離した。

「明日美ちゃん、どうやら4名様はそう言う意味らしいから素直に受け取ってあげな。」


 奈央にそう言われたが、そう言う意味ってどういう意味?


 女子の頭を男子が撫でるって特別な事なのかな?

 何よりあの4人にされたことが未だに信じられずわたしはまだ4人の温もりが残っている頭を必死に働かせてみるが奈央の言っている言葉の意味が分からないままだった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る