奈央vs4人

「そうそう、裕太、かず兄、よっちゃん、すえ君、いい加減口紅返してよ!!」

 わたしが4人に詰め寄ると彼らは澄ました顔をして

「「「「なんのこと?」」」」

 と全く知らないふりをする。

「わたしから口紅奪ったでしょ?早く返してよ!」

 わたしは彼らの前に手を突き出して催促してみる。

「どうせまた悪戯でもするんでしょ?」

 一翔が疑わしそうな表情でわたしに言う。残る3人も「どうせ悪戯するんでしょ?」と言うような顔つきでわたしを見つめている。

 ああ…こりゃ多分暫く返してくれないな。


「絶対に悪戯しないから!!ねえ、お願いこの通り反省してるから!!」

 わたしは自分の顔の前で手を合わせて4人に許しを乞う。

 そんなわたしに対して季長が呆れ気味な口調で言う。

「本当に反省しておる者は自分で反省しているなど口にせん。」

 返す言葉が無い…。

「お前って反省してるとか言う時に限ってまた繰り返すんだよな。」

 裕太が言わなくても分かってますって感じで言ってのける。

 確か小学校3年の頃。わたしの家に遊びに来た裕太に対してお母さんがわたしの分と一緒におやつを準備してくれていたのだけれどその時。間違えて裕太の分のおやつまで食べてしまって

「なんで食べたんだよ!!」と怒る彼に対して「反省してるから、ごめん」って言ったのに今度彼が遊びに来た時にまた裕太の分のおやつを食べてしまったからな…。


 どうやら彼はその時の事を未だに覚えていらしいのだ。


「だからそんなこと言わないでよ!!わたし反省してるから!!」

 困った表情で4人に詰め寄るわたしに里沙が困ったかのように笑いながら

「何があったの?」

 とわたしに聞いてきた。

「4人がわたしの口紅を返してくれないの!!」

 わたしが彼女にそう告げると今度は奈央が大袈裟な口調で彼らをわざとらしく非難する。

「うっわ〜ひっどーい!!人の物を奪うなんてあり得なーい!!それ泥棒のする事よ?分かっているのかしら、そこの4名様。」


「少しは黙らぬか!!」

 義経が鬱陶しそうに言うが奈央には全くの逆効果である。

「黙れと言われて黙れるわたしじゃないの。それとも何かしら?そこの猪武者さん?」

 猪武者ねえ…。逃げることが大嫌いな義経にぴったりなあだ名だ。

「誰が猪武者なのだ!?」

「誰ってあなたしかいないでしょ?引くことを知らずに前に突進していく、これを猪と言わないで何って言うの?」

 奈央が勝ち誇ったような表情を浮かべる、そんな奈央に対して義経は

「戦は突き進んでこそ勝ったときの喜びは大きいものではないか?」

 それを聞いた奈央はさぞ可笑しそうな表情で

「誰も戦の話なんてしていないのだけど!?猪君♪」

「猪か鹿(カノシシ)かは知らぬが、別に我は猪武者でも構わん。」

 唐突な彼のダジャレに「!?」となったけれどそんなのお構いなしに勝ち誇った笑みで奈央が言い放つ。

「それ、面白いと思って言っているのかしら?盛大に滑っちゃってるけど?」

 トドメを刺されたのか彼は黙り込んでしまった。

 わたしの隣では美晴ちゃんがお腹を抱えて笑っている、正直わたしも笑いそうだ。

「いい加減言い過ぎじゃないの?」

 横から一翔が奈央に口出しするのだが

「顔と頭だけが取り柄のメガネ君が何の様かしら?」

 と彼を一蹴。

「全く煩いんだよな、この女は。」

 裕太が奈央に言い放つけれど彼女はそれをものともせずに

「あんた達みたいに反対言葉ばっかり喋ってる謎の生物よりマシでしょ?」

 謎の生物、その一言に裕太は

「は?お前馬鹿じゃね?俺たちちゃんとした人間だけど?それに俺たち反対言葉なんか喋ってねーし、俺たち素直だし。」

「そうそう、僕達素直だし。」

「「我ほど素直な人はそうそう居ないぞ?」」

 4人の一言に和室中が静寂に包まれる。美晴ちゃんは声を押し殺して笑っているし由里亜さんなんか顔を真っ赤にして笑いを堪えている。

 わたしなんか今にも爆笑しそう。


「ふ…ふふふ…アハハハ!!」

 奈央は涙を浮かべながら爆笑している。

「素直なの?何処が素直なのかしら?それとも自分自身、素直だと本気で思い込んでいるのかしら?

 ならごめんなさいね!!残酷な現実を突きつけちゃって!!」

 勝ち誇ったかのように言い放つ奈央に明らかに拗ねている4人。


 奈央を恨めしそうに睨みつけてプイッとそっぽを向く4人を不覚にも可愛らしいなと思ってしまった。


 もうずっとこのままで良いのに…。











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