打ち明ける

 4人が何処かへ行った後わたしは口紅をあちこち漁って探していた。

 探して探して探しまくるが見つかる気配はない、相変わらず隠し上手だなあとちょっと感心する。

 あの4人が物を隠すと本当に見つけられないから本当に困ったものだけれど。


 ああもう!!この騒ぎが解決したら力づくで取り返してあげるんだから!!

「口紅見つからないね。」

 隣で美晴ちゃんが4人の荷物を漁りながら言う。


 もういくら探しても探しても見つからない…。

 いい加減探すことが馬鹿らしくなってわたしは畳の上にペタリと座り込んだ。

「わたし、ちょっとトイレ行ってくる。」

 美晴ちゃんはお手洗いに行ってしまい、実質一人ぼっちの状態。

 すると障子がすっと開いて義経が一人入って来た。

 彼は黙ってわたしの隣で胡座をかく。背中を丸めてだらしなく座っているわたしと背筋を伸ばして座っている彼、なんだか凄くアンバランス。

「明日美殿、少し話したい事がある。」

 相変わらず冷静な口調ではあるものの彼の横顔が少し悲しげであるのをわたしは見逃さなかった。

「なあによっちゃん?」

「いや、ずっと話しても良いのか一人で迷っておった、もう何年も。」

 何年も迷っていた事ってなんだろう?わたしにはとても想像がつかない。

「黙っておってもいずれ明らかになる事だが話しておかなくてはと思ってな。」

 そんなに話しておかなきゃならない事なんてあっただろうか?


「話したら明日美殿は我を軽蔑するかも知れぬ、いやきっと軽蔑するであろう。」

「絶対に軽蔑しない、約束する。」

 わたしがそう言うと彼はポツリポツリと過去の事を語り始めた。

「今から数年程前のことだ我が金売りの吉次殿に奥州へ連れて行ってくれと頼んで平泉へ向かっている最中のこと、馬が蹴り上げた泥が自分の着物に振りかかった、それにその馬を引いていたのは平家であった。

 母上と父上の仇だと思って考えもなしに斬りつけてしまった…。」

 わたしは黙って聞いていた、昔の事を語る彼は凄く辛そうでわたしは思わず胸が苦しくなった。

「相手は斬りつけられてその場で死んだ…それから暫く経って酷い後悔に苛まれた…お地蔵様を建てて供養したがこの罪は消えまい。」

 いつもはクールでポーカーフェイスな彼が辛そうな表情で語るのは見ていてこっちまで辛くなる。

 きっと両親の事もあって正常な判断が出来なかったのだろう、ただ仇を取ることだけを考えていたに違いない。

「もし、我を軽蔑したのならば見捨ててくれたって構わぬ。

 明日美殿が罪を償って死ねと言うのならばこの場で腹を切る。」

 ひょんな事からタイムスリップして鞍馬寺で彼に出逢って早12年。

 そんな昔から一緒にいる人を嫌いになれるだなんてそんなことはできない。

 元々わたしはそういう質なのだ、一度仲良くなった人を見捨てることができないというそんな性なのだ。


「なーんだ、そんな事だったの?」

「!!」

「顔を上げなよ、あんたのそんな様子見てるの結構辛いんだけど?

 大体あんたの腸なんて見たくないし、それにさ、わたしは何があっても裕太、かず兄、よっちゃん、すえ君の味方だよ。」

 わたしがそう言うと彼は忽ち顔を上げる、瞳が少し潤んでいた。

「明日美殿…かたじけない…。」

 少し震える声で彼はそう零す。

 彼が常に冷静な理由は全てそれにあったのだろうか?



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