口紅騒動
午前4時。
まだまだ外は夜中同様だがいつもの習慣で裕太、一翔、義経、季長は起床して布団を畳んだ。
顔を洗いに行こうと洗面所ヘ向かおうとした時にふと気がついた事がある。
「兄さん、唇どうしたんだよ?それに義経さんに季長さんも。」
第一発見者の俺は思わず驚きの声を上げてしまった。
「そう言う君だって唇が真っ赤だよ?」
兄が俺の唇を指差す。そんなまさか…。
慌てて洗面所の鏡で義経と季長は自分の使っている鏡で顔を確認する。
普段は淡い色をしているはずの唇が紅葉のように真っ赤になっていたのである。
嘘だろ…。
俺達は自分の顔を見て静かな絶望を感じた。
取り敢えず手拭いで拭いてみたり、水で洗ってみたりするが口紅は取れる気配はないばかりか口の周りに広がって見るも無残な姿になってしまっている。
犯人は間違いなく明日美。
あの野郎…人が寝ているときに好き勝手しやがって…。
俺達は静かに怒りを燃やしながら髪の毛を整えてから着替える、あの二人が目を覚ましたら文句の一つでも言ってやろう。
そう思って和室を覗いて見るが二人は心地よさそうに眠っている。
「まだ起きてねえのかよ…。」
もう6時過ぎているのに全く起きる気配のない二人に思わず文句を垂れてしまう。
「もう卯の刻にもなるぞ?起こされては?」
季長がいつまで経っても起きる気配のない二人に呆れた口調で言った。
このまま放っておいてもぐーすか眠るだけだろうし何よりも勝手に口紅を塗った事に対する文句を言いたかった。
俺達は遠慮も無く和室にズカズカと入った。俺は心地よさそうに眠っている明日美に近づくとその掛け布団を引き剥がす。
その効果はテキメンで明日美は眠い目を擦りながら目を覚ます。おまけに美晴まで目を覚ました。
「もう少し優しく起こしてよ…。」
「優しく起こしてもお前、起きねーだろ、それよりなんで俺たちの唇がこんな事になってるんだ?」
明日美はああ口紅を塗った事がバレたんだなとでも言いたげな顔をした。俺らの顔を見上げた瞬間明日美は思わず吹き出しそうになる。きっと綺麗に塗った筈の口紅があちこちに広がって唇だけでなくその周りを真っ赤に染めていたからだろう。
美晴は隣でクスクス笑っていた。
まるでピエロみたいだと思われているに違いない。
「「「「どうしてくれるんだ?」」」」
普段よりも声のトーンを下げてわたしと美晴ちゃんに迫るけれどピエロみたいな口元のせいでイマイチ迫力に欠ける気がする。
俺達のマヌケな姿に明日美たちはとうとう笑いだしてしまった。
「何がおかしいんだよ!?」
自分でも怒っているのか困惑しているのか分からなくなってくる。
「面白いからそのままで良いじゃない?」
「お似合いですよ?」
明日美と美晴は爆笑しそうになるのを必死に堪えているらしく、顔を真っ赤にさせている。
「お前ら揃い揃って頭でもイカれてるんじゃねーの!?」
ついむかっ腹が立って明日美達に怒鳴ってしまう。
「洗っても洗っても取れないんだけど?」
兄は本当に困っているみたいだ。
「こんな姿じゃ外に出れん。」
義経がそう口にする。別に外に出る予定はないけれど。
「拭いても拭いても取れぬ!!」
季長が慌て始める。
そんな俺達の様子を見て観念したのか、明日美は仕方なくメイク落としクリームを出して一人一人の口紅を丁寧に落とす。
ピエロみたいになっていた口元もすっかり綺麗になった。
明日美はリュックから口紅を全て取り出して手に取ってみる。いつの間にこんなに買い溜めをしていたらしく、赤だけでなくピンク、青、オレンジ、シルバー、紫、ゴールドとポピュラーな色から珍しい色まであった。きっと今夜は何色にしてあげようかな?と考えているに違いない。その隙を見計らって俺達は明日美の手から口紅を奪い取った。
俺は赤とピンクの口紅を兄はゴールドとシルバーの口紅、義経は紫の口紅、季長はオレンジの口紅をわたしから奪うとそれぞのれ懐に仕舞う。
「「「「これは暫く預かっておく」」」」
「あっ何するのよ!!返して!!」
「誰が返すかよバーカ。」
「君が持っていたら絶対にまたやるから。」
「どうせまた我を使って悪戯でもするつもりなのだろう!?」
「明日美殿が持っておったらろくな事にならん」
「裕太、かず兄、よっちゃんにすえ君、酷い!!それ泥棒だよ!!」
「「「「酷いのはどっちだ?!」」」」
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