4人の過去…その2

 鞍馬山を抜け出して暫く経ったある日のこと。

 金売り吉次に奥州平泉へ連れて行ってくれと頼んでから幾日か過ぎていた。


 父親の源義朝が入浴中に殺されたこと。汚名を着せられたこと、母親が自分を守る為に敵方の妾になった事。思い返せば悲しいことばっかりだった。


 母親が敵方の妾になると決めたときも母親の袖を引いて泣き喚いた。

 その時母親から横笛を譲ってもらった。もう会えないかも知れないからって。

 父上の最期を聞いたときは悲しくてしょうがなくって鞍馬寺の外に出て泣いたっけ。

 それを見掛けた人に「男子がそんなに泣くものではありませんよ。」って叱られたな。

 今はただ両親の汚名を濯ぐ為に頑張ることだけだ。


 そんな風に昔の事を思い出していると向こうから馬を引いた人達が来るのが見えた。


 すれ違いざまに馬が水溜りを蹴り上げてその泥が我の着物に降りかかる。


 しかも相手は平家だった。


 これが別の人なら許してあげるつもりだったけれど相手が平家となれば話は別。

 この者たちも我の両親を貶めた事に関わっているかと思えば激しい怒りが心の底から沸々と湧いてくる。


 ついに怒りが抑えきれなくなり、気がつけば刀を抜いて斬りつけていた。

 いきなりの斬撃に相手は驚きながらも刀を抜いて斬りかかってくるが、剣術の強さは自分の方が圧倒的に上だった。10人近くいた平家は全員切り倒されていった。


 辺りは鮮血で赤黒く染まり、刀も血で赤く濡れている。直ぐに近くの池に立ち寄り刀を水で洗い流した。


 それから5年くらいの時が経過した今、その事を思い出すとなんて愚かなことをしたのだろうかと…。

 後悔先に立たずとはよく言ったもので今では酷い後悔に苛まれている。


 あの時は怒りで自分を抑えられなかった。今考えるとあの平家の人たちは自分の両親のことに関わっていたかどうかなんて分かる筈がないのに。

 お地蔵様を建てたりと出来るだけ供養はして来た、けれどこれが、この事が明日美に分かってしまったらどんな反応をするのだろうか?


 我の事を軽蔑するのだろうか?

 関わりたくないって思われて捨てられてしまうのだろうか?

 だけれど優しい彼女ならそんなことはしないだろうと思ってしまっている自分自身がいる。


 この事を明日美に話すべきだろうか?

 でも勇気が出ない。話すことで打ち明けることで彼女が自分を軽蔑することが。


 鞍馬寺の稚児だった頃の辛いことも彼女がいたからこそ乗り越えてこられたのだ。


 でもこの事を明日美に話すと彼女が遠ざかるような気がして…ずっと彼女には素っ気なく接してきた。

 もし明日美に嫌われても悲しくないようにって。

 けれど打ち明けなくてもいずれ分かってしまうのだろう。そうなってしまうことは絶対に嫌だった。

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