4人の過去…その1
2014年の春の事、今日は隣の県へ遊びに行く日だ。
「裕太、一翔、早く準備なさい!!」
階下から母の呼ぶ声が聞こえる。俺達は元気よく「はーい」と答えると急いでお小遣いの入った財布を手に取り階段を駆け下りて両親の元に行った。
母の名前は山崎爽子。綺麗な黒髪ロングがトレードマークで、陶器のように白くて艷やかな肌、整った眉に凛々しさを感じさせる切れ長の目。その瞼から伸びている長くて黒ヶとしたまつ毛。整った形の唇は桜色でとても四十路に近いとは思えない程で美しいと名高い芸能人やモデルすらも太刀打ちできないくらいの美貌だった。
父の名前は山崎一成。スラリとしたスタイルに整った顔立ちで俳優さんだって言われても納得してしまうくらい。
俺も兄もそんな両親が大好きであり自慢でもあった。
準備が出来て父の自慢の愛車に乗り込む。俺と母は後部座席、兄は助手席に座る。
「何処に行こうかしら?みんなは何処がいいとかある?」
母さんが俺達に尋ねると
「スーパーカーでも見に行くか?」
父さんの提案に俺と兄が目を輝かせる。車とかの乗り物は興味があったし大好きだった。
「え?スーパーカー?見る見る、絶対見る!!ランボルギーニとかあるかな?」
兄が目を輝かせながら言った。その後ろで俺も負けじと車種の知識を披露する。
「メルセデス・ベンツのGTとかも!!」
目をキラキラに輝かせて好きな車を語る俺達の姿に父さんや母さんの目には大変微笑ましく映ったことだろう。
「さあそろそろ着くぞ〜」
父さんがそう言った矢先だった向こうからワゴン車が逆走して来たのは。
「危ない!!」
父さんと母さんの悲鳴が響くと同時に何かに包まれるような感覚がしてから重い衝撃が伝わってきた。それを最後に俺の目の前は真っ暗になった…。
10分くらいして目を覚ますと辺りはパトーカーや救急車のサイレンと野次馬で溢れかえっており辺りは騒然としている。
それに母さんは俺を、父さんは兄をキツく抱きしめていた。
何がなんだか俺達には分からない、一体何があったのかなども。なぜ両親は俺達を抱きしめているのかも。
無残にも砕け散ったフロントガラスが目に入り、俺達はやっと事故にあったのだと悟った。
幸い俺と兄は大きな怪我もなく特に身体に痛みもなかった。
助かった事に胸をなでおろし自分を抱きしめている両親に声をかける。
「母さん?」「父さん?」
しかし母さんも父さんも意識を失っているようで一切反応しない。それに母さんは頭から血を流しており、父さんの背中や肩には大量のガラスの破片が突き刺さってその背中は血でぐっしょりと濡れていた。
「母さん!!目を覚まして母さん!!」
「父さん!!僕だよ!!ねえ父さん!!」
必死に両親に呼びかけるが2人は反応しなかった。それに母さんの桜色だった唇が青ざめており、身体から少しずつ体温が奪われてゆくのがハッキリと残酷なまでに感じ取れた。父さんは顔面蒼白になっており既に呼吸をしていなかった。
救急車のタンカーが此方に到着し、隊員が俺達家族を救出する。
それからどうしたのかは覚えていない。ただハッキリと覚えているのが病院に運ばれて3日目くらいのこと。
両親は沢山の管に繋がれてベッドの上に眠っていた。
この間まではビッピッピと規則的に音を鳴らしていた心電図が不規則になり、ピーーーと心電図が煩いくらいに病室に木霊した。
医師と看護師が飛んできて心肺蘇生を施すものの助からず医師がチラリと腕時計を見て苦しそうに言った。
「5月4日、午前2時16分37秒ご臨時です…。」
その時、何かが俺達の心の中で崩れた気がした。
「そんな母さん、父さん」
兄が大粒の涙を目に溜めて呟いた。気がつけば俺は大声を上げて泣いていた。
「「うわああああ」」
真夜中の病室で俺達は抱き合っていつまでも泣いていた…。
それから二人は母方の祖母に引き取られて今に至る。
あの時、感情は捨てた筈だった。あの時、両親を守れなかったことが何よりも辛かった。
明日美と一緒に居ても以前のような楽しさは全く感じられなくなったし、ご飯を食べる気もしない。誰かと喋る気にもなれず数カ月は無気力だった。
逆走して来た加害者は責任能力が無いと判断されて無罪放免になってしまった。
それから暫く感情は押し殺して生きてきた。ずっと無表情でいた。唯一明日美の前では笑顔になれる事はあったが未だに心から笑えたことはない。
感情を素直に口に出さなくなってからいつの間にかそれが染み付いていったのだろう。明日美に褒められても甘えられても思わず思ってもいない事を言ってしまう、つい素っ気なくしてしまう自分が居た。
こんな事になった今、明日美を俺達が守ってあげなきゃいけないけれどこんな自分なんかに守れるのか分からない。
それにこれ以上何かを失うのが、大切な人が目の前からいなくなるのが何よりも怖かった。
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