灰色のソラの下で

 わたしは走って走って走った。息が切れても足がじんじんと痛んでも止まることはなかった。

 でもよく考えたら明日美ちゃんも山崎君達も誰も悪くはない。

 それなのにわたしときたらあんな最低な事を叫んで…。


 きっともう嫌われた…。呆れられた。わたしの為にずっと一緒に居てくれたのに…。

 今更になって気がついた、明日美ちゃん達の傍に居ればそれだけで落ち着くことが。

 わたし明日美ちゃんに一杯優しくされたじゃない。…一年前に学校で孤立していたわたしに手を差し伸べてくれたじゃない。山崎君たちや源さん、竹崎さんだってこんなわたしを受け入れてくれたじゃない。家族を探してくれたじゃない…。


 それなのにわたしはあんな酷い事を…。


 今更また傍に居させてくれなんて虫の良すぎる事なんて言えっこない。どうすればいいのだろう…。


 それにお父さんもお母さんも、もう居ないんだ…。

 そう改めて思うと涙が次から次へと溢れ出してくる。

 あの時わたしは明日美ちゃんに向かって許されない事を言ってしまった…。でも、もしわたしが明日美ちゃんで明日美ちゃんがわたしの立場だったら包み隠さずに全てを伝えられるだろうか?


 無理だよね。絶対に傷つけたくないって思って戸惑う筈だもの。それと一緒だ。明日美ちゃんは悪くない。

 悪いのはわたしだ、あんなワガママ言っちゃったから。


 もうわたしは彼ら、彼女の傍に戻る資格なんてないに違いない。


 自力で遥を迎えに行こう。


 すると視界の隅で何かが蠢いていた、それは土気色に変色した肌、ガスでパンパンに膨らんだ身体、明らかにゾンビだった。


 今まで誰かに守られてばかりだった彼女はどうすればよいのか分からずにただ泣き叫ぶばかり。

「いやああ、来ないでえええ…。」

 わたしはパニックになりながら走った。

 あいにくゾンビはわたしよりも動きが鈍いらしくあっという間にヤツとの距離は開く。


 でもわたしは断層になったアスファルトに躓いて転んでしまった。

 強く打ち付けた膝から血液が溢れ出す感触が生々しいくらいに肌で温度で伝わってくる。


 アアアアアア…。

 迫りくるうめき声、迫りくる腐敗臭。


 ああ、わたしは死ぬのだな…。ごめんね遥…お父さん、お母さんごめんなさい、明日美ちゃん、山崎君、源さん、竹崎さん、ごめんなさい。

 そう最期を覚悟した時であった。


 ドサッ

 何かが落ちる音がした。振り返るとヤツは倒されていて薙刀を手にした女の子二人、それにとても大きな薙刀を手にしている頭巾を被った大柄な男性が立っていた。

 どうやら助かったみたいだ。

「大丈夫?美晴ちゃん。」

 薙刀を手にして少女…奈央ちゃん、里沙ちゃんに助けられた。

 でも隣の頭巾姿の男性は誰?

 その男性を観察してみる、体格はゴツくどちらかと言えば細い山崎君たちや源さん竹崎さんとは大違い。

 容姿はそれなりに整った顔立ちをしているが山崎君たち4人とはまた違ったタイプ。

 彼らが男性的な美しさ、女性的な美しさを併せ持っている顔立ちなのに対してこの男性は男性らしい精悍な顔付きをしている。

「あの、どちら様ですか?」

 わたしが男性に話し掛けると男性は低い声で答えた。


「我の名は武蔵坊弁慶…。」



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