揺れる心

 美晴ちゃんの両親は亡くなったんだと伝えるべきか否かで悩み続けて半時間くらいが経過した。

 美晴ちゃんは両親の無事を心から願っているようだ。


 言うべきか言わないべきか。

 ずっと悩んでいるし、美晴ちゃんの胸中を思うと胸のあたりがズキズキ傷んだ。

 裕太たちだって彼女の両親が既に亡くなったって事に全く気がついていない。

 だからいつでも助ける気満々だし彼女の力になりたいと心から思っているようだった。


 美晴ちゃん悲しむだろうな…。

 裕太たち自分を責めるだろうな…。

 美晴ちゃんのことが、あの四人のことが頭に浮かんでしまって必死にそれをかき消そうとするが未だに頭から離れない。

 だからせめて遥ちゃんだけは無事でいてほしいし遥ちゃんまで失ってしまったら美晴ちゃんが壊れてしまう。

 自分勝手なことかも知れないが正直に言ってわたしは誰にも悲しんでほしくない。

 避難所のイザコザで散々大切な人を悲しませたわたしがこんな事を思う資格すら無いのかもしれないけれど。

 世の中の人は気軽に嫌なことが起きたなら深い仲の友人や家族に相談しろ、助けを求めろとか言ってくれるけれどそれが出来たならあの時だってあんなに深刻化していない。

 大切な人を自分のせいでイザコザに巻き込む、そんなのイヤだ。

 現にわたしが木下と藤宮に暴力を振るわれたときみんな怒ってたな。

 お母さんにお父さん、一翔、裕太は逮捕覚悟で二人を懲らしめようとしていたし、義経と季長は自害覚悟で二人を殺ろうとしていた。

 あの時の彼ら彼女らは間違いなく本気だった。

 奈央に里沙だって怪我したわたしにずっと寄り添ってくれたから。

 あの時、ああわたしってこんなに周りから愛されていたんだなって気がついたっけ。

 わたしがもう少し強かったら誰も傷つかなかったはずなのに…。


「お父さんとお母さん、遥に早く逢いたいよ…。」

 ふと隣で美晴ちゃんが今にも泣きそうな声色でそう呟く。


 もうお父さんとお母さんは居ないんだよって言いたくても言葉が支えて何も出てきやしない。

 彼女の言葉が胸に突き刺さって今にもわたしは泣き出しそうだった。


 でもずっと隠し通しても良いの?

 それで余計に彼女を傷つけるかもしれないんだよ?

 こんな事でいいの?

 って自問自答を繰り返しても無駄だって分かってはいるけれどでもどうしても言えないままだった。


 大切な人を失うってちょっとやそっとじゃとても癒えるような傷なんかじゃない。

 でも言わなくちゃいけない。

「あのね美晴ちゃん、もう美晴ちゃんのお母さんとお父さんはね…。」

 そこまで言いかけてわたしは結局口を噤んでしまった。

「なあに明日美ちゃん」

 美晴ちゃんがつぶらな瞳をこちらに向けてくる。

 裕太に一翔たち4人も振り返って此方を見ている。

 わたしは辺りをみんなとは目を反らして少し長めの前髪を指先で弄りながら

「やっぱりなんでもない。驚かせてごめんね。」

 そう言ってから誤魔化すように作り笑いを精一杯浮かべた。

「「「「嘘だな。」」」」

 裕太に一翔、義経、季長が口を揃えて言った。

 まずい、見抜かれてる!?

「お前さ、嘘ついた後は絶対わざとらしい笑みを浮かべるんだよな。」

 裕太が分かってますって感じで言う。

「それに明日美ちゃんって嘘をつくときに必ず前髪をイジるよね。」

 一翔がわたしの癖をズバリと言い当てる。

「明日美殿は空言を言うときに限って言いかけてやめるからな。」

 義経がなんでもお見通しですって感じて言ってのける。

「それに何か隠しているときに限って某から目をそらすから分かりやすいものだ。」

 季長に図星を突かれた。

「で?隠し事はなんだよ?とりあえず俺らに話してみな、怒らないからさ。」

 裕太にトドメを刺されてしまったわたしはどうしていいか分からなくなった。

 言った方がいいのか?でも美晴ちゃんの悲しそうな顔が頭に浮かんでしまって言葉が出ない。

 でも彼らに隠し事をしていることがバレてしまっている以上隠し通すことは大分難しい。


 (どうすればいいの?)

 言ったら言ったで美晴ちゃんに軽蔑されないか、4人に嫌われないかと思い怖くて本当の事を話す勇気が出なかった。

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