ごめんね
遥と美晴を迎えに行かなきゃ!そう思いながら走った美帆、しかしうっかり小石を足先で蹴飛ばしてしまった。
カツン…。灰色のソラの下で小石がぶつかる音が煩いくらいに響いた。
右往左往していたゾンビ達はその音を聞き逃さなかったのか覚束ない足取りで美帆に向かってやってくる、不快な腐臭を強烈に漂わせながら。
あっという間にヤツらの大群が美帆を包囲した。
見えているのか分からないような白く濁った瞳で彼女を見据えている。
そしてヤツらが腐敗して唇が欠落し、ジュグジュグに腐った歯茎と変色した歯を剥き出しにした口を大きく開けて美帆に噛みつこうとした。
もう此処で死ぬのだな、愛する娘と夫を置いて死んでしまうのだな、そう思った。
死を覚悟したその時であった。
「美帆ー。」
聞き慣れた声が自分の名前を呼んだ途端に一体のゾンビが倒れていた。
頭がかち割れ、腐敗した脳みそを露出させている。
誰が助けたのだろうかと思い目の前を見ると30代後半くらいのスーツ姿の男性が金属バットを手にして立っていた。
それは…夫の康介であった。
ヤツらは怯んだのか散り散りになっている、今のうちにヤツらの隙間を素早くくぐり抜ければ行ける…。
康介は美帆の手を取って走り抜けた。
愛する娘を迎えに。
しかし、運悪く割れたアスファルトに躓いてしまったらしく二人は転んでしまった。
固い地面に膝を強く打ち付けたらしく激しい痛みが身体を駆け巡りその場で動けなくなってしまった。
それをヤツらは見逃すはずもなく何体ものゾンビが二人に覆いかぶさってくる。
聞こえてきたのは肉を噛み千切り咀嚼する音、その音がする度に身体から温かい液体が流れる感触がする。
こんな所で死んでたまるかと二人は思ったがその意志に反して段々と意識は薄らいでいった。
どうか無事で…美晴、遥…愛してる…。
消えゆく意識の中で二人が思っていたのは愛する娘の事であった…。
ヤツらのうめき声、それはまるで終焉の始まりを告げた音楽のように灰色のソラの下で奏でられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます