ハイイロの世界
木曜日の昼過ぎ頃。わたし、佐竹美帆は自宅でゆっくりとファッションカタログを読んでいた。
(このドット柄のワンピース美晴に似合いそうだわ〜このスカートとか遥に絶対似合うはず!)
カタログのページを捲りながらそんな呑気な事を考えていると
「あらヤダ!もう3時じゃない!遥を迎えに行かなきゃ!」
わたしは慌てて外に出ていつものように徒歩で遥の保育園へ迎えに行こうとした。
(なんだか空が灰色ね…。雨でも降らなきゃいいけれど…。)
傘でも持ってくれば良かったかななんて少し後悔もしたが今更家へ戻ると時間が掛かるし遥に寂しい思いをさせるに違いない。
雨が降らないように祈りながらわたしは足を速めた。
ふと視界に一人の女性が目に入る。それを見てわたしは腰が抜けそうになった、普通の女性なら別になんとも思わないし驚かないだろうけれどこの女性は明らかに様子がおかしかった。
年齢は20代くらいの若い女性なのだがタイトスカートはあちこちが破けていてボロボロ。そこから伸びている足はまるで腐りかけの肉のように緑がかっていた。
生きている人間ではないのは明らかだ。
「ひっ…」
わたしは思わず声を漏らす。その声が聞こえたのだろうか女性が振り返った。
顔も皮膚が腐りかけの肉のように緑掛かっていて目は腐った魚のように濁っていた。
強いて言えば死んで一週間くらい経過した遺体が動きまわっているかのようだった。
その姿はまるで映画に出てくる恐ろしいゾンビそのものである。
その女性はふらふらと覚束ない足取りで美帆に向かっていく、美帆は逃げようとしたが足が竦んで動けない。
女性はお構いなしに美帆に近づいてゆく、女性が近づくたびに腐りかけた肉の不快な臭いが鼻をつく。
その腐臭はこの女性から臭っているのは明らかであった。
そう、この女性は動く死体…ゾンビに成り果てていた。
(美晴と遥を置いて死ねない…。)
わたしは恐怖で支配されつつある心を奮い立たせ走って遥の待つ保育園へと向かった。
幸い若い女性のゾンビは動きが遅く走ればあっという間に距離が開いて行った。
女性のゾンビは追いつけないと分かり諦めたのかくるりと別の方向を向き新たな獲物を探してふらふらと何処かへ行った。
行かなきゃ…。遥と美晴を危険に晒す訳にはいかない。
周りは腐った死体が歩き回っている。
死後間もないものもいれば死後かなりの時間が経過して皮膚が緑とか青くなって蛆虫を零しながらふらふら動いているものもいる。
だが怖がってはならない。
愛する家族を守らねば…。そうした思いを胸に抱きながらわたしは愛する娘の許へと駆け出した。
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