明るみになる事実

どうか無事で

「それよりも今、ヤツらの大群があたしらを襲って大苦戦してるの。助けに行きましょ!!」

 友里亜さんがわたしに呼び掛けた。すると美晴ちゃんがリュックサックから何かを取り出した。

 それは…分厚いサバイバルナイフであった。

「とうとうこれを使う日が来るなんてね。わたしだって叫んで助けを求めるばかりじゃいけない…。大苦戦している命の恩人を助けなきゃ。わたしだって怖い。でも明日美ちゃん達の力になりたいよ…。」

 怖い、でも自分を助けてくれた人の力になりたいよ、そんな美晴ちゃんの健気さにわたしは心を打たれた。

「うん、そうだね…。わたしだって右足がどうのこうの言っている訳にはいかないね。」

 そして、わたしは再び大鎌をこの手に握りしめる。

 しっかりとした堅さが伝わってくる。

 戦うんだ…。世界を救うために、大切な人を守るために。


 避難所を出た先に広がるのは灰色に染まった死の世界。

 全てが絶望で塗りたくられた世界。

 すると、一体のゾンビが見えた。

 女性のゾンビみたいだ。腐敗して緑色に変色した肉が崩れかけてて所々骨が見えているけれど赤いマニキュアが塗られた手に、茶色く染め上げられた髪、腐敗の経過で体液が染み出て所々変色しているけれど身につけている服はオシャレだ。

 きっとかなり若い女性に違いない。


 可哀相に…。

 もしもこれがユリアさんの言う通り悪の未来人達の実験なのだとしたら言い方はおかしいがゾンビ達も被害者だ。

 元は何処にでもいる普通の人たちなのに、理不尽に命を奪われ、挙げ句の果に死んだ後ゾンビとなり、生きた人を喰らう。

 そんなの本人の魂が浮かばれないよ。

 ゾンビを倒すことは世界を救う、大切な人を守ることだけじゃない。

 ゾンビになってしまった人に対する供養にもなるのだ。


 わたしは大鎌を構えて戦闘態勢になった。

 赤い三日月状の刃が灰色の空の下で鈍く光った。

 若い女性のゾンビはわたしに向かって襲いかかってくる。

 わたしは赤い刃の大鎌を振り回し、ヤツの手足を切り落とした。

 ゾンビは四肢を失い、動けなくなった。

 ただ脳ミソを求めて変色した歯をカチカチ鳴らしている。

 そこに美晴ちゃんがやってきて分厚い刃のサバイバルナイフでヤツの頭を突き刺した。

 分厚い刃はヤツの脳ミソに到達したらしく若い女性のゾンビは動きを永遠に停止させた。

 ゾンビは他には居ないみたい。


「明日美ちゃんとわたし、チームプレイが良いみたい。」

 美晴ちゃんが小動物のような目を此方に向けてくる。

「それはわたしも思っていたよ。」

「わたしさ思ったんだけど明日美ちゃんは良い人だと思うよ。、自分では気づいてないけれどさ。

 奈央ちゃん、里沙ちゃんは非の打ち所がないし、裕太君達4人は顔は良いけれど性格がキツイじゃん。」

 確かに奈央に里沙は非の打ち所のない美少女だし、裕太達4人も容姿はいいけれどやっぱり初対面の人からするとキツイとか取っつきにくいとかの印象を受けるらしい。

「わたしは美晴ちゃんの言うような良い人じゃないよ。

 それよりも美晴ちゃんの言い方だとまるでわたしの幼なじみは性格悪いみたいな言い方じゃん。」

 わたしが少し口を尖らせながら言った。

「だって裕太達達4人が笑った所見たことないじゃん。

 ずっとぶすーとしてるし彼、表情筋でも死んでいるんじゃないの?それにこの前なんか下品なオナゴは嫌いだとか、君がうるさいせいで僕たちが苦労するとか、うるさい黙れとか言われたんだよ!!」

 まあまあそれは実際うるさいから仕方ないないんじゃないの?

 笑わないのは、義経、季長の時代男性は頻繁に笑いのは良くないって言われていたし、裕太一翔はまあああいうキャラだし仕方ないでしょ?

 かと言って全く笑わない訳じゃないし。

 ただ、一定の人物にしか笑顔を見せない、感情を出さないだけだしさ。

「まあ全く笑わない訳じゃないし、頑張って仲良くなってみたら分かるよ。」

「そうかな?仲良くなれそうにないよ。」

「頑張って仲良くなろうとすればあいつらだって仲良くしてくれるよ。」

「どうやって声を掛ければいいの!?」

 美晴ちゃんが慌てふためく。わたしは少し考えてから言った。

「褒めれば?テキトーに褒めちぎっとけばいいでしょ。

 何時の時代も女性に対しても男性に対してもお世辞は効くものだよ。」

 わたしがそう言いながらフフフ…と笑うと美晴ちゃんは少し間を置いて大袈裟に

「うわあ!明日美ちゃん悪女だあ!」

 と言った。

「褒めるって例えば細くて羨ましいです〜とか4人とも女装似合うよねとか女のコみたいとか言えばいいのかな?」

 美晴ちゃんが悪意無さげに失礼なことを言う。

 この場にあの4人が居なくてよかったよ。

「美晴ちゃんそれ言ったら怒られるから。何時の時代も男子に対して女のコみたいは言われていい気分しないから。」

 でもこの場にもしもあの4人が居たらと考えると笑いが込み上げてきた。

 裕太なんか「俺はちゃんとした男だ!」、一翔なんか「僕が女のコみたいってどういう意味?」、義経とか「誰が女子(オナゴ)のようだと!?」、季長「それは嫌味か?(威圧)」ってムキになるだろうから。

 なんて事を考えていると

「明日美ちゃん」「明日美」「明日美殿」

 聞き慣れた声が背後から聞こえた。

 わたしと美晴ちゃんは思わずバネ仕掛けの人形のように飛び上がった。

 振り返ると裕太に一翔、義経、季長が立っている。

「まさかだけどさっきの会話聞いていたの!?」

 わたしが驚いて彼らに聞くと

「会話?なんの事?ああ!まさかお前ら俺たちの悪口でも言っていたんだろ!?」

 裕太が仏頂面でわたしたちに問い詰めてくる。

 ギクリ

「悪口なんて言ってないよ〜ねえ美晴ちゃん。」

 わたしが慌てて美晴ちゃんに同情を求める。

「え、え、う、うん言ってませんよ。」

 美晴ちゃんが動揺を隠しきれていない状態で答える。

「本当かな〜」「真か〜」「じゃあなんでそんなに驚くんだよ?」

 4人が疑わしそうにわたし達の顔を覗き込んでくる。

 それだけで美晴ちゃんは顔を茹でたタコのように赤くしてる。

 そりゃまあ容姿端麗な彼らにこんな事されたら真っ赤かになるよね、物心が付いたときから一緒にいる身じゃ4人の綺麗な顔も見慣れてなんとも思いませんけどね。

「そのカッチカチので頭で考えてみなよ、いきなり背後から声を掛けられたら誰だって驚くでしょうよ。」

 わたしがやや皮肉混じりに言ってやると4人はムッとした表情で黙り込んでしまった。

 やっぱりそういう仕草は普通の男の子だな。

「言わせておけば言いたい放題言いやがって…」

 恨めしそうにボヤいている裕太をスルーしてわたしは美晴ちゃんに話しかけた。

「ねえ美晴ちゃんの家族はどうなったの?」

 わたしがそう聞くと彼女は青い顔をして

「まだ見つからないの…。妹と母と父が行方不明なの…。

 ずっと心配でなんとか連絡を取ろうとしたけれど何の返事もなくて…。」

 わたしの発言で機嫌を損ねてズカズカと先へ進んでいる4人が足を止めて美晴ちゃんに振り向いた。

 4人のすっと通った鼻筋の目立つ綺麗な横顔。

「心配掛けちゃいました?」

 美晴ちゃんが両手の指同士を縺れさせオドオドしながら4人に言う。

「あのさ…。」

 不意に裕太が口を開いた。

「な、何ですか?」

 美晴ちゃんがオドオドしながら言う。

 すると4人が美晴ちゃんに向き直り一言。

「「「「協力させてもらう。」」」」

 唐突に4人がこのような事を言ったから美晴ちゃんはポカーンと口を開いている。

「ダメかな?僕たちが佐竹ちゃんの家族探しを手伝っても。」

 一翔が不意にそんな事を言ったせいで彼女はどうしていいかわからないみたいだ。

 やっと言葉の意味が分かったのか彼女は

「あ…ありがとうございます…。」

 と恥ずかしそうに俯きながら震える声で言った。


 灰色の空の下、彼女の家族探しは始まったのだった。


 どうか無事でいて…。という願いを小さな胸に抱きながら。


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