みんなの約束

 日々避難所の人数は膨れ上がるばかりで、両親や奈央、里沙は忙しそうに色々なことをやっていた。

 かなり忙しいのか、わたしは、両親、奈央、里沙とほとんど一緒に過ごせなくなっていた。

 おまけに佐藤兄妹や伊勢君だってヤツらを倒しに行ってるし、わたしは祐太達4人と過ごしていた。

 とは言っても4人だって居ない時の方が多く、一人ぼっちの日が段々と増えていった。


 今日は珍しくわたしの隣に居る4人が立ち上がって何処かへ行こうとした。

「何処行くの?」

「ゾンビ狩り。」

 一翔が弓と木刀を持って答えた。わたしは大鎌を手に取った。

「待って、わたしも行く。」



 外は依然としてヤツらで溢れていた。ソライロは濃い灰色で、絶望を写したかのようであった。

「アアアアアアアアアア…。」

 空気が漏れでるかのような弱々しい呻き声。思わず大鎌を握る手に力が入る。

 わたしは、目の前のゾンビに狙いを定めて、歩き出した…。筈だった…。

 グキンッ…。思いっきり足を挫いた上に、何かに躓いて前のめりに倒れてしまった。

 ガタンッと大きな音を立てて大鎌が倒れる。

 その音に気が付いたのかヤツらがわたしを狙って群がってくる。

 腐敗が進み、一部白骨化したゾンビが馬乗りになってくる。

 そのグロい姿と酷い腐敗臭に恐怖と気持ち悪さで頭がどうにかなってしまいそうだ。

 ガツッ

 誰かがわたしに馬乗りになっているゾンビを蹴り上げたようだ。

「お前の相手はその子じゃない。俺たちだ。」

 祐太がゾンビに言い放つ。

 ゾンビはすぐにわたしを標的から外し、祐太に向かって襲いかかる。

 腐り果てて、筋肉が無くなりかけた顎を動かしながら襲いかかってゆく。

 普通の人ならパニックになりそうだが、は冷静だった。

 祐太と一翔はそこら辺の人なんか相手にならないくらいの実力者だし、肝のすわりかたも違う。

 義経と季長なんか祐太や一翔よりも強いし何より現代人には無いような覚悟がオーラから滲み出ている感じ。

 戦闘などになったら凄まじい殺気を感じる。もう殺気だけで素人は逃げ出すのではないか。

 それに比べたらわたしはダメダメで、弱くて、へなちょこで、役立たずだ。いつもみんなに迷惑を掛けている。いっそ噛まれて死んでしまいたいくらいだ。

 でも、死んじゃいたいなんて家族や幼なじみなんかには恐ろしくて言えやしない。

 もしもわたしがヤツらに噛まれてしまったら誰がわたしを殺すのか。

 お母さんでも、お父さん、奈央、里沙、祐太、一翔、義経、季長、佐藤君に伊勢君。

 大切な人に殺されるのならわたしはそれで構わないよ。

 思わずわたしは武器を捨ててヤツらの大群に痛む足を引きずって突っ込んでいった。


 ガシッ!!腕を誰かに思いきり掴まれ、ヤツらの居ない所まで引っ張られた。離そうにも力が強くて離れない。

「何のつもり?」

 一翔の声がした。

 どうやら彼がわたしの腕を掴んでいたようだ。

「痛い!!離して!!」

 そんなことを言っているといつの間にあのゾンビの大群は全滅していた。きっと残りの3人に違いない。

「お前、一体何をやってたんだ!?」

 祐太に問い詰められるが、答えられない。答えたくない。


 

「歩けるか?」

 と季長に聞かれる。

 足を挫いたので、歩こうにも右足に少しでも体重が掛かると酷く痛む。


「あ、歩けない…かも…。」

 わたしが正直に答えると、彼はわたしの腰に手をまわし、太ももの下側を持ち上げ、わたしはお姫さま抱っこの形になった。

 わたしは彼の肩に手を回す。

「すえ君、わたし、重くないかな?」

「大丈夫だ。そんなことより、さっきのは一体何のつもりだ?」

「ちょっと言いにくい…。」

「後で話せ。」


 そのまま抱き抱えられて、わたしは避難所に着いた。

 避難所に入ってからは抱き抱えられているわたしを何人かの女の人が凄くガン見しているので、その視線が刺さって痛い。

 それもそのはず。季長は端整な顔立ちでそこら辺の男子よりもカッコいい。

 

 元居た場所へ戻ってきてやっとわたしは下ろして貰えた。

「で?なんであんなことしたの?」

 祐太に問い詰められて一瞬口をつぐんだ。

「わたしさ、もう嫌になったの。」

「何が、イヤになったの?」

 一翔に聞かれる。わたしは重い口を開いた。

「自分自身のことが。イヤになったの。人に嫌われて、いっぱい嫉妬されて。周りから変な目で見られて。木下と藤宮の件で周りに悪口を言われる。だから、もう疲れちゃった。もういっそ、ヤツらの仲間になっちゃおうかなんて…。

 それで、裕太かかず兄、すえ君、よっちゃんがわたしを倒す。だからわたし、あなたの気持ちなんか考えてなかった。ごめんなさい…。」

 彼らはわたしの言葉を黙って聞く。

「木下と藤宮が脅威を奮っていたときは、みんなわたしを白い目で見ていた。

 でも、木下と藤宮が落ちぶれた途端、みんなわたしに同情し始めた。一年前だって同じだった。だから、もう大切な人以外信じられなくなっちゃった。」


「「「「辛かったな。」」」」

 彼らは本当にズルい人間だ。普段はぶっきらぼうなくせにこういう時だけ優しくなる。

(ズルいよ…。馬鹿…。)

 そんな話をしているうちに両親、奈央と里沙、佐藤兄妹、伊勢君が帰ってきたみたいだ。


「あのさ、みんな、お願いがあるんだけど…。」

 みんなが一斉に振り向く。

「死なないで。絶対に。」

 それがわたしの素直な想いだ。

「明日美?あなたは死んじゃダメよ?」

 お母さんの言葉を聞いて胸の奥がズキンと痛む。

「お父さんもお前を育てて15年も経ったなんて今でも信じられないよ。」

 そんなことを言いながらお父さんはわたしの頭を撫でる。

「明日美、お前は絶対に死んじゃダメだ。」

 祐太がわたしの両肩をがっしり掴む。

「分かった。わたし、みんなと約束する。絶対に死なない。生きる。」

 わたしは生きる。生きて生きて生きる。そして、またみんなと笑い合うんだ。

「もしも、我が死んでもだ。」

「え?よっちゃんはきっと生きれる筈だよ?」

 わたしがそう言うと彼は何も言わずに微笑んだだけだった。


 大丈夫…。友里亜さんがいった通り、わたしたちのチームは強い。

 だから、みんな死んだりなんかしない。みんな、死んだりなんかしないって約束したんだ。


 








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