ナイフ男との戦い

 ナイフを振り上げた男達はわたし達に向かって突進してくる。

 マトモに扱える訳ではないけれど、わたしは、中年男に大鎌を向けた。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁやめてぇぇぇぇぇぇ。」

 美晴ちゃんは恐怖のあまり泣き出してしまう。

 しかし、祐太達は俺達余裕ですって顔をしていた。

 中年男達は祐太達の余裕そうな態度が気に入らなかったのだろう。

 汚い声を荒げて、

「おい、ガキと若造、テメェら何、ヘラヘラしてんだよ!?」

 と怒鳴り散らしながら、ナイフを闇雲にブンブン振り回す。

 その姿が可笑しかったのか、彼らは中年男達を鼻で嗤う。

「こういう時に笑うなんて一体どういう神経してるんですかぁ!!」

 美晴ちゃんが泣きながら言う。

「大丈夫だよ、負けたりなんかしないよ。」

 

 そうだ。いきなりナイフを持って襲い掛かられたから気が動転して忘れていたけれど、祐太は剣道の大会で優勝する程で剣道有段者だし、一翔は剣道.弓道共に有段者で、特に弓道の腕前は折り紙つきだ。

 義経や季長なんて、祐太、一翔ですら比べ物にならないくらいに強い。

 中年男達も、襲った相手が悪すぎた。相手はわたしみたいな素人が見てもわかるくらい、ナイフの扱いがド素人だ。

 途端に中年男達が気の毒に思えてしまうから何とも不思議だ。


「大丈夫だよ、美晴ちゃん。祐太達があんな気持ち悪いおっさん集団に負けるわけないよ。」

 わたしがそう言うと、中年男の一人がそれを聞き付けて、

「おい、クソ女。今さっき何て言った!!」

 と叫びながら、ナイフをわたしと美晴ちゃんにちらつかせる。それを見て美晴ちゃんは再び泣き出してしまった。

「言っとくけど、その子に何かやったら僕達が許さないからね。」

 一翔が中年男に向かって静かに言った。

「本当に弱い者にしか手を出せない愚か者なんですね。」

 祐太が心底呆れた感じでポツリと言った。その言葉に腹を立てた中年男は

「おい、ガキ、馬鹿にしてんのかぁ?」

 と祐太にナイフをちらつかせながら叫んでいた。

 普通ならナイフをちらつかせながらこんなことを言われたら背筋が凍るだろう。しかし相変わらず祐太達は中年男を嘲笑っていた。

「馬鹿を馬鹿にして何か悪いか?」

 いつの間にかいつもの祐太の口調になっている。

 中年男は祐太の言葉に更に逆上した。

「テメェ、ふざけやがって……。」

 男が低い声で言った。かなりお怒りのようだ。

「ふざけてるのはどっちですか?」

 一翔が普段より低い声で言った。一翔がここまで怒ってるのは始めて見たかもしれない……。

「おい、こらクソガキぃ。」

 男達は今にもナイフを振り回して暴れそうだった。

「ふんっ卑しい下衆共が。」

 今にも暴れだしそうな中年男達を義経が思いっきり鼻で嗤った。

「なんだとぉ、若造、ぶち殺されてぇのかぁ!?」

 もはや、ただの逆ギレだった。

「愚か者が愚か者と言われて逆上するとは滑稽だ。」

 季長が半分笑いながらいい放つ。その言葉に中年男達は顔を真っ赤にして怒り狂っていた。

「殺されるかもしれない時に火に油を注ぐような毒舌吐かないでくださいよ!」

 美晴ちゃんが泣きそうになりながら祐太達に言い放つ。

「まっ大丈夫でしょ。」

 わたしは絶対大丈夫だと思った。おっさんたちは絶対に4人には勝てない筈だから。

「おいこらぁ、ガキと若造、もう許さねぇ。」

 おっさんたちはナイフを持ってわたし達に向かって突進してくる。

 祐太は木刀でナイフをたたき落とすと、強烈な胴を叩き込む。

 おっさんは横腹を押さえて、のたうち回っていた。

 一体、あばら骨が何本折れたのやら……。


 一翔はナイフを持って突進してくる男の手を矢で射ぬいた。

 矢は男の手を貫通し、相手は痛さのあまり動けなくなった。

 ナイフを持った男が一人、わたしと美晴ちゃんに向かってきたので足を引っ掻けて転ばしてあげた。

 男は顔面から転倒したのか鼻から大量に出血していた。

 

「テメェ、何しやがる……。」

 男がキレてナイフを突きつけてくる。

「いやあぁぁぁぁ、死んじゃう!」

 美晴ちゃんは泣き叫んでいた。

 でも、鼻血タラタラさせながら暴れる姿は滑稽だった。

「鼻血垂らしながら向かってくるとか……ダッサ……。」

 わたしは一言零すと流石に切りつける訳にはいかないので大鎌の持ち手で暴れる男を殴打した。相手は脳震盪を起こして倒れてしまった。

 


 ナイフを持って大暴れする男を義経と季長は刀で斬りつけた。

 相手は斬られた箇所を押さえて悶絶している。

 おっさん達はあまりにも呆気なく倒され、全滅した。


 ナイフを持った男達に襲われていた人達はこちらを見て、

「ありがとうございます。」

 と丁寧に頭を下げた。


「ねぇ。よっちゃん、すえ君本当に斬りつけちゃって大丈夫なの?」

 死んだらマズイよ!!とわたしが慌てると二人は大丈夫そうに、

「構わん、皮一枚斬っただけだ。」

「あの程度、唾をつければ治る。」

 なら大丈夫みたいだ。かなり痛そうではあるけれど……。

 どうやらおっさん達に斬りつけられた人達はナイフがかすっただけの軽傷のようだ。


 でも、ナイフを持って大暴れしたおっさん十名は重傷だ。


 きっとおっさん達は襲う相手を間違えた……と心底後悔しているだろう。

 (間違えたも何も、大間違いですよ……。)

とわたしは心から思った。


 これで分かったことは、ヤツらよりも生きている人間の方が比べ物にならないくらい恐ろしいという事だ。





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