大ピンチ

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ来るなぁぁぁぁ。」

「きゃああああぁぁぁぁ助けてぇぇぇ。」

 街中に響く助けを求めてる声がわたし達の鼓膜を揺さぶる。

 こっちはたったの6人しか居ない。武器を持っているのなんてそのうちの5人のみだ。

 しかもマトモに戦える人物は4人しかいなかった。

 残酷だけれど、この人数で助けられる人は限られてくるだろう。

 美晴ちゃんは怖いのかわたしの腕をずっと掴んでいる。

 パシーン……

 近くからガラスが割れたような乾いた音が響く。

「誰かの家にヤツが侵入したかも知れない。助けに行くぞ。」

 祐太の合図で自分逹は音のする方へと向かった。

「明日美ちゃん……怖いよぉ。」

 美晴ちゃんがわたしの腕を痛いくらいに強く握った。

「大丈夫だって。四人の背後にいれば安全だって。」

 祐太や一翔、義経、季長を盾にしてる感があるけれど、戦えない美晴ちゃんはそれが一番安全だろう。

「ぇぇぇ、四人の背後にいくの!?恥ずかしいよ!!」

「そんな事言ったってそれしかないの!」

 美晴ちゃんは恥ずかしそうにしながら四人の背後に近づき、

「あ……あのぅ。」

 美晴ちゃんが声をかけと、祐太達が怪訝な表情で振り返った。

「後ろ、お邪魔させて頂いてもよろしいですか?」

 美晴ちゃんがモジモジしながら言うと、四人はコクりと頷いた。

これで美晴ちゃんから解放されると思ったけれど、彼女はわたしの腕を一向に離してくれない。

「ねぇ、出たらどうするの?怖いよ……。」

「いつ状況が改善するのぉ~。」

 焦ってる美晴ちゃんに向かって祐太が一言。

「うるさい、静かにしろ。」

「でもぉ、出たらどうするんですか!?」

「わたし、死にたくないです。」

 慌てる美晴ちゃんに向かって義経と季長がキツイ一言。

「静かに致せ、下品なおなごは嫌いだ。」

 確かに美晴ちゃんはうるさいし、とても上品とは言えないかも知れないけど、4歳年下の女の子に向かってその言い方はないだろう。そして一翔がトドメの一言。

「言っとくけどさ、君がうるさいせいでヤツが集まって来るかも知れないから、静かにしてもらえる?

 そうなったら僕達四人が一番苦労するからね。」

 流石の美晴ちゃんもここまで言われると静かにしなくてはならない。

 黙り込んだ美晴ちゃんは少し、しおらしく見えた。

「ごめんね、美晴ちゃん。アイツら少し機嫌が悪いみたいなんだ……。」

 わたしがそう言うと、美晴ちゃんは

「うるさくしてごめんなさい……。」

 とポツリと言った。



 そして、歩くこと僅か数分。目の前に一つの平屋の日本建築の家を見つけた。

ーガラスが無惨にも割れているー

 さっきの音の正体はここだろう。中から何やら貪り喰うような咀嚼音が聞こえてくる。


 ヤツがいるに違いない、そう思ったわたし逹は家の中に入ろうとした。

 玄関の引戸を開ける。どうやら鍵はかかっていないみたいだ。わたし逹6人は意を決して中に入った。

 入った途端に死体が腐った腐敗臭と、血生臭いニオイが6人の鼻をつく。


「臭いよ…。」

 美晴ちゃんが今にも吐きそうな顔をしている。

 4人だって整った顔を不快そうに歪ませていた。わたしも今にも吐きそうだったが、必死に吐き気を我慢する。

 ムシャムシャ……。

 何かを咀嚼するような音が奥の台所の方から聞こえてくる。

 咀嚼音がするたびに一層と臭う血生臭いニオイ。

 この場所で何かが起こっていることは明らかであった。

「様子を見て参る。」

 義経がわたしにそう告げると、4人とも台所の方へと行ってしまった。

 


 俺達が台所に行くと、まず目に飛び込んできたのはお婆さんの死体だった。

 顔半分の肉が無惨にも貪られ、血にまみれている。その時に溢れ出た血液がお婆さんの白髪を真っ赤に染めていた。

 そして、少し離れた所に白濁し始めた眼球が転がっていた。

 それに、お婆さんの頭はぱっくりと割れ、中からシワまみれの脳ミソが溢れだしている。

 その溢れでた脳ミソをサラリーマンのゾンビが貪り喰っていた。

 あまりのグロさに俺は今にも叫んでしまいそうだった。戦場で討ち取られた死体などを見慣れた義経や、季長ですら、気分が悪いのか口を手で塞いでいる。


 ヤツを倒さなきゃ……。


 そう思うけれど、あまりの凄惨な光景に思わず手が震える。下手すれば手元が狂ってしまい、俺達もヤツの仲間になるだろう。


 美晴と明日美を台所に連れて来なくてよかったと心底思った。

 騒がしい美晴がこの光景を見てしまえば大声で叫んでしまうだろう。それに、明日美のような大切な人の心にトラウマを植え付けるだなんて絶対に嫌だった。

 この状況が終われば、明日美と一緒にまた笑い合いたい。


 俺も兄も季長も義経も同じことを考えているうちに、ヤツはこちらの存在に気が着いたみたいだ。

 新しい獲物を狙ってヨロヨロとこちらに向かってくる。

 義経が太刀を抜き、素早くヤツの首を切り落とした。

 それから腐って黒ずんだ血液の付いた刀を懐紙で拭くと、素早く鞘に収めた。



「遅いねぇ…。」

 美晴ちゃんが彼らの帰りが遅い事を気にしていた。

「確かに、なんかあったのかな?ちょっと見てくる」

 わたしが行こうとすると、美晴ちゃんがわたしの腕を掴んで

「わたしも行く。」

 と言って着いてきた。

 台所に行くと、物陰からだれかの脚が見えた。思わず気になって近づこうとすると

「見ちゃダメだ!!」

「見てはならん!!」

 祐太と季長が緊迫した声で言った。

 私たちは何のことかわからないまま、わたしは季長に、美晴ちゃんは祐太に目を塞がれた。

 そしてそのまま玄関まで連れて行かれ、外へ出た所でやっと目を塞いだ手を話してくれた。

「ねぇ、一体何があったの?」

 わたしが質問しても詳しくは言ってくれない。ただ、

「すげーグロかった。」

 裕太曰くかなり凄まじかったらしい。

「吐きそうだったよ。」

 あのいつも冷静な一翔でさえも吐き気を催す程だったみたいだ。

「まさに阿鼻叫喚だった。」

 義経ですら阿鼻叫喚だと言うほどとは一体どれ程の光景だったのだろうか…?

「地獄絵図のようだ。」

 季長が簡潔な感想を口にした。

 あまり詳しくは言ってくれなかったけれど、祐太に一翔はもちろん、義経に季長までそう思うってことは相当凄まじかったに違いない。

 目を塞がれたのもトラウマを残さないようにという彼らなりの優しさだったのだろう。わたしは心の中で彼らに感謝した。


「きゃああああ、殺さないでぇぇぇぇ。」

「うわあぁぁぁぁ、やめろ、やめてくれぇぇぇ。」

 近くから男女2名の悲鳴が聞こえた。


 ー助けなきゃ……ー

 そう思い、声のする方へ向かうと、十人くらいの中年の男がナイフを持って色んな人を切りつけていた。

「どうせ、世界は滅ぶんだよぉ、だからやりたい放題だ、子どもの頃からずっと俺達、人を殺してみたかったんだ、ひひひ……。」

 この男達は明らかにイカれてる……。怖いほどに見開いた目に、口から垂れているヨダレ。

 ゾンビも怖いけれど、それ以上に人間の方が怖い……。

 わたし達の存在に気づいた十人の男達はナイフを握り締め、こちらに向かってきた。

「よぉ、兄ちゃん、姉ちゃん、」

 男達の顔には不気味な笑みが浮かんでいた。

「若造とガキ共、その綺麗な顔を思う存分切り刻んでやるひひひ。」

 男達は人間だけれど人間じゃない。まるでホラー映画に出てくるような化け物みたいだった。

 今にもわたし達6人を切り刻ざもうと鋭利なナイフを振り上げる。


 ー嘘、自分逹、こんな奴等に殺されるの?ー






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