幼馴染みと崩れる日常
彼らと出掛けるのって、どんな感じなのだろうか?それに後で確認してみたら、里沙と奈央も行くと言っていた。ますます今週の土曜日が楽しみになる。早く土曜日来ないかな?
お風呂に入り歯を磨いて、ベッドに横たわる。気づいたら朝まで寝てしまっていたようだ。
「明日美~起きろ!」
階下から、父の呼ぶ声がした。ああ、しまったなと思った。昨日の夜、目覚まし時計をセットしないで寝てしまったから。
慌てて、時間を確認すると、目覚まし時計の針は7時15分を指していた。
ーー大変だー。
大急ぎで、ご飯を食べる。そして、歯を磨いて、セーラー服に着替えて、7時40分に家を出る。
ーー間に合ったーー。
まだまだ十分余裕があるので、ゆっくりと自転車を走らせる。
すると、川の近くの橋に、祐太、一翔、義経、忠信、継信、義盛、季長が立っていた。
ーーだからその格好で出たらヤバいでしょーー。
わたしは呆れた表示で彼らの方を向いた。彼らはすぐに気が付いて、こちらに手を振ってくる。
わたしも、自転車のハンドルから手を離して、彼らに手を振り替えした。
次の瞬間だった。そのまま、バランスを崩し、自転車ごと川へダイブしたのだ。
ーーザッブーンーー。
すごい音がした。今は十月だから水の中に入るには寒い季節だ。それに川なんて余計に寒い。
突然の出来事で、祐太たちはキョトンとしている。
やっと状況が理解できたのか、今度はわたしを助けようとする。
「おーい、上がってこれるか!?」
祐太に声を掛けられ、上がろうとするけど、セーラー服が大量の水を吸って、思うように体が動かない。
「うん、今上がる。」
しかし、足を滑らせてまた落ちてしまった。
ーーザブーンーー
「明日美ちゃん、大丈夫?引き上げようか?」
一翔に聞かれ、
「うん、引き上げてぇ 、、、。」
と、みっともない声で言ってしまった。
引き上げてもらい、一応お礼を言う。でも、寒い、寒過ぎる。
自分でスカートの水を絞りながら、ぶるぶると震えている。
ーー朝からろくなことがない。ーー
「もう、なんでわたしばっかりついてないの・・・。」
「まあ、頑張れ。」
「朝からこれだもの。頑張る気力皆無だよ。」
はぁー。どうしよう、このままでさ風邪を引いてしまう。
「ねぇ祐太、タオル持ってない?」
「持ってないなー。」
「じゃあよっちゃん、タオル持ってる?」
「たおる?何だ、それ?」
あっまたやってしまった。義経の時代にタオルなんてある筈がない。
だいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?と心の中で思わずどくづいてしまう。
「これから、どうしよう・・・。」
「とりあえず一回家へ帰るか?送っていくよ。」
「えっ!?祐太にかず兄、学校はいいの!?」
「まあ、後で良い言い訳を考えるから。」
なんでわたしって人に迷惑ばかり掛けちてしまうのだろうか・・・?そんな自分に嫌気がさす。
わたしのせいで、祐太と一翔は、学校に遅れるし、わたしは見事に風邪を引いた。
ーーだいたい、そちら様が手ぇなんかこっちに向かって振るからでしょ!?ーー
そんなことを思ってしまった自分。
友達に向かって手を振るのは当たり前だ。幼なじみなら尚更である。
わたしって、酷い奴だな……。
ベッドに横たわりながら、そんなことを思った。
熱も出てるし、土曜日は行けるのかな?
すると、コンコンとドアが優しくノックされた。お母さんだ。
「明日美、奈央ちゃんと里沙ちゃん来ているよ?」
「うん。部屋に入れて。」
暫くすると、お母さんが奈央と里沙をわたしの部屋に連れてやって来た。
「大丈夫?熱はない?」
里沙が聞いてくる。
「うん。微熱。」
「じゃあ、これ食べて元気出してね。」
渡されたのはクッキー。
「美味しそう。ありがとう。」
「後ね、祐太君たちなんか言っていたよ?」
あのときは慌てて、助けてくれたくせに…!!本当に何なのだろうか?
「うん、明日美ちゃんらしいってみんな言ってたよ。」
はぁー。後で文句の一つや二つでも言っておこう。
「みんなって誰が?」
「祐太君に、一翔君に、佐藤さんに、伊勢さんに、九郎くん(義経)、五郎くん(季長)、みんなそろって言っていたよ。」
彼らがなんて言っていたのかは容易に想像がつく。
祐太なんかやっぱりドジの女王とか、一翔は明日美ちゃんらしいやとか、義経は、やはり明日美殿は鈍いとか、季長は猪娘とか言ってそうだ。
「うん。確かにそう言っていた。」
里沙は今にも吹き出しそうな顔をしていた。
「早く元気になってね。」
「ありがと、奈央。」
「私達、塾だからごめんね。」
「うん、じゃあね。」
二人も帰って、正直暇だった。
「あぁ~誰か食べ物持ってこないかなー。」
ふと独り言が口から漏れてしまう。
「さっきから何、独りで言ってるんだよ。」
聞き慣れた声にびっくりしてドアの方に顔を向けると、4人が立っていた。祐太に一翔に義経に季長が。忠信に継信、義盛はいないみたいだ。
すると階下からお母さんの声がする。
「いい忘れたけど、祐太君たち来てるわよ。」
でも、ナイスタイミングだ。何か食べ物でも持ってきてくれていたらな…。
すると、祐太がなんでもお見通しとでも言うように
「なんだよ。さっきからニヤニヤして気持ち悪ぃ。さては、なんか食べ物持ってきてくれたとでも思ってるんだろ?」
す、鋭い。
「な、なんで分かったの!?」
「明日美殿のことだから。」
義経にしれっと言われた。
「お前、食いしん坊だもんな。」
そう言って、祐太が抹茶チョコレートを差し出してくる。
「受け取りなよ。」
一翔は如何にもお高そうなココアを差し出してくる。
「はい、明日美殿。」
義経は紙袋に入れられた干し柿を差し出してくる。
「早く良くなれよ、明日美殿。」
季長は市で買ってきたであろうイワシの干物を差し出してくる。
「あ、ありがとう・・・。」
全部わたしの好物を持ってくるなんて、さすが幼なじみ
「あっ、もうねだったって俺たちなにも持ってねーからな。」
祐太に冷たく言われて、
「はっ!?最初な~。」
「でも、お前の表情からして、何か欲しそうにしてたけどな。」
なんでわたしの気持ちがこんなにもわかってしまうのだろうか?
「そりゃ、保育からの付き合いだからね。明日美ちゃんの気持ちくらいわかるよ。」
一翔って堅物かと思ったら意外と気さくだもんね。
「あっ、そろそろ。」
「えっ!?もう帰っちゃうの?」
「あぁ。あまり長く居たら、忠信たちに心配されるからな。」
「じゃあな、明日美。早く治せよ。」
「じゃあね。」
彼らも帰って、もらった物を食べていると、
「明日美、晩御飯よ。降りてらっしゃい。」
「うん、今すぐ行く。」
「もう、自転車ごと川へダイブするなんてね。」
お母さんが面白可笑しそうにに言う。
「明日美お前、幼馴染みとばかりじゃなくて他の子とも仲良くしろよ。」
「まっそこそこ仲良しの子もいるよ。」
「そうか、ならいいが。」
そして、次の日の朝。体調はすっかり良くなっていた。
学校に着いて、自分の机に向かっているとクラスの女子が、
「ねぇ明日美ちゃん、この前一緒にいた純和風のお兄さん誰?」
「祐太君や、一翔さんと一緒に明日美ちゃんの家を訪ねていたよね?」
と目を輝かせながら聞いてくる。彼女の名前は江本夕菜でクラスメート。女子に対しては素っ気ないのに、男子に対してはぶりっこだから彼女のことは苦手だ。
「なんか、教科書で見るような、鎌倉時代の服装だよね。格好はあれだけど結構カッコいいじゃん。」
あぁ........................。義経たちも面倒臭いのに目をつけられちゃったな。
「ねぇ、一体誰なの?」
幼なじみですって言ってしまっても大丈夫だろうか?
「幼馴染みだよ。」
「明日美ちゃんずる~い。アタシにも紹介してぇ~。」
何となくとんでもないことになってしまったようだ。
案の定、噂は広がっていた。みんなに和風のお兄さん誰?って聞かれまくって大変だ。
「お……幼なじみです……。彼氏じゃないよ。」
結局正直に言うしかなく、言い訳には苦労する……。
「明日美殿。」
ふと、窓の方から聞き慣れた声が聞こえた。もう、一体何なのと思って見てみると、
直垂姿のわたしより少し歳上の男の子が居た。
「ちょ、ちょっと……よっちゃん!?なんであなたが此処にいるのよ!?」
ちょうど義経達のことが噂になっていたので、案の定みんな大騒ぎだ。
「あっ!!噂のお兄さんだ!!」
「噂すればなんちゃらっていうのは本当みたいね。」
「すげー!!本当に大河で見るような格好してるー」
「あの人、絶対女装似合うよね?」
女装か……。確かに、義経は女子、男子どちらとも取れる顔立ちだし、色白だし、髪の毛だって長いから(当時は男性でもロングヘアーは普通。)絶対似合うよ……。
裕太や一翔だって結構似合いそうだし、別にうちが男の娘に興味がある訳ではないけれど……。
「ねえ、なんで来たの?」
彼に小声で聞くと、
「明日美殿がどこで学問しているか気になっただけだ。」
そんな事、気にしなくても良いのに…。
「すごーい!!明日美ちゃんのボーイフレンドってみんな豪華だよね、羨ましい!!」
そして彼が帰ってからの事。
「キャー、喋っちゃった!!」
と夕菜はご機嫌モードらしい。
「えー、夕菜じゃなくてわたしが喋りたかった……。」
他の女子が夕菜に直接文句を言う。
「ダメダメ~美晴ちゃんなんかじゃダメだよ。
やっぱり有名人と話すのはこの夕菜じゃなきゃ!!」
「いつも夕菜ちゃんばっかり……」
やはり夕菜の事は苦手かもしれない……。
そして授業も終わり、下校の時間になった。
「明日美、大変だな。」
「何かあったらいつでも言ってね。」
里沙、奈央、裕太がそう言ってくれるだけでも凄くありがたい。
すると、建物の裏から変な物音がする。きっと気のせいだろうと通り過ぎようとしたその時。
わたしは、道に落ちてる小石を蹴ってしまった。
その小石がまさか悪夢の始まりだなんて誰も知らずに。
カッ!!微かな音がした。すると、何かがまるで重い何かを引きずるような音を立てながらこっちに向かってくる。
それに、なんか臭い。まるで肉が腐ったかのような臭いが鼻を突いてくる。
「ねえ、なんか臭い。」
「確かに臭いな。」
「うぅ、なんかくるみたい。」
すると遂にソイツが姿を表した。それは、ワンピースを着た若い女性だった。
でも、それは生きている人間じゃなかった。
肌は腐敗して変色し、眼球は白く濁っている。明らかに腐敗臭は彼女から漂っていた。
まるで、ホラー映画で見るようなゾンビそのものだった。
「何よ!!これ!?」
「知らないよ!!なんでこんなのが横浜にいるの!?」
いつもは大人びている里沙と奈央でさえ恐怖に怯えていた。
「ねぇ、祐太、剣道と居合道の大会優勝してるよね?」
「でも、いまは木刀とか武器になるのは持ってないぞ。」
そんな............。どうしたら..........。
わめいてる間に女は近づいてくる。明らかにわたし達を狙っている。
こういう時に義経や季長、佐藤兄弟や伊勢君がいてくれたなら。
でも、そんなに都合よく彼らはいない。
武器になるような物は何も無く、身を護る術もない。
わたし達はどうすれば良いのだろうか?
何やら鈍い音がして気が付くと、女は倒れていた。
背後にはおじさんが立っている。どうやら彼があの女を殴ったらしい。
「大丈夫か!?怪我はないか?」
「ありがとうございます。」
助かった、と思ったのはつかの間。女はおじさんを見えているのかわからない白く濁っている眼球でおじさんを見据えていた。
女はよろよろと立ち上がり、おじさんにつかみかかった。
そして、おじさんに噛みついた。おじさんの腕から赤い鮮血が飛び散る。
おじさんは苦悶の表情を浮かべながらも、
「お前たちは逃げろ。おじさんなんかに構うな!!」
「えっでも・・・。」
「いいから行け!!」
おじさんに強く促されて、私たちは逃げた。
誰か、助けて・・・・・・。
「明日美殿!?」
聞き慣れた声がふと聞こえる。そこには、義経が立っていた。
わたしは思わず彼の腕を掴んでいた。
「な、なんだ?」
突然腕を掴まれて驚いている彼。
「ねぇ、怖い。助けて............。」
私たちはまだ知らなかった。これは悪夢の始まりにしか過ぎなかったのだということに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます