第33話   結果発表!!

 宴と肋介がのっとっていた、陣取り合戦のルールとは、得点制であった。宴いわく、まず最大点が得られる条件は、陣地内の『ぬし』を倒すこと。だいたいこれで百点満点中、七十点が取れるため、主を倒されたらほぼ負けが確定するのだという。ついでに陣地も壊れることが多く、その時点で試合終了の合図となる。


 次に得点に繋がるのが、兵士を大勢倒すこと。半分以上も倒されていたら、百点満点中、五十点近くなり、なかなか危ないのだそうだ。今回はあの大きな骨の手が兵士であり、宴はこれを倒していないので得点には繋がらない。


 最後に、相手の陣地内のあちこちを破壊して、己が広範囲に陣取ること。宴は六本生えている桜のうち、一本をおのが陣地に染めた。

 おまけとして、挑戦者の宴がほとんど無傷であることも点数に加えられる。瀕死で勝利しても、場合によっては認められずに、引き分けとされることが多いそうだ。


 以上をもって、三分以内で、陣地内の主を倒し、桜の木一本分を自分の陣地に変え、草鞋の破損以外はほぼ無傷である宴は、大ざっぱに換算しても八十点以上は固い。


 審判役は、店員が務めた。以上の換算は彼が行ったものであり、宴はそれに解説を付けてスミレに説明していた。


「まー、あのー、じゃあ、宴くんの勝ちってことでいいね。肋介くんはおでこを負傷してるから、無傷の宴くんよりは得点が低いよ」


「チッ」


「審判に舌打ちしない。誰も文句が出ないなら、以上を決定事項とするよ。いいね」


 宴がうなずいたのを見て、スミレもうなずいた。肋介は……おもしろくなさそうなジト目で店員を見上げていたが、無言なので、文句はない様子だ。


 嫌がる肋介に、スミレが念の為にと渡した絆創膏は、スミレが目を離した隙に、肋介がおでこに貼っていた。


(なーによ、やっぱりおでこ痛いんじゃない)


 どうにも素直でない少年である。野良猫ジーナも、出会ったばかりの頃はスミレの見ている前ではエサを食べなかった。


 肋介は絆創膏の粘着部分に巻き込んでしまった前髪を指でいじっていたが、やがてあきらめて、咳払いした。


「これからは俺様とこの山が、お前の身元の保証人だ。お前なら心配いらねーだろうが、年単位でどこか修行しに行くとか、別の場所に拠点を移すとか、どうにもならねーケンカ売られて困ってるとか、とにかくなんかデケー案件があったら、俺様に言えよ」


「了承した。右も左もわからぬ故、よろしく頼むのだ」


「ええ!? 宴が勝ったのに、なんで宴が子分になるのよ」


「なんでもも何も、そういう約束だったではないか」


 そう言えばそうだったとスミレは思い出すが、でも、だって、納得がいかない。子分になるための試験で圧倒したのは、宴なのだから。


「私も晴れて、この山の一員にして一部と認められた。これからは、私の身元はこの山であり、名乗るときはこの山を姓に。縄張りも肋介をかしらにこの山と定め、有事の際はこの山を中心に、この周辺一帯を護ると誓おう」


 そこまで言い終わった宴が、ほっと息をついた。


「運が味方したとはいえ、いつ負けていてもおかしくない勝負であった」


「え? 残り一分は宴が圧倒してたじゃない」


「そう見えたのなら、幸いだ。肋介には他にも、手の内が数多あったであろう、もしも他の策を講じられていたら、実践経験の乏しい私が、読み負けていたかもしれない」


「もう、たとえ運だろうとマグレだろうと、宴が勝利したんだから。今回はあなたの勝ちよ」


 勝ちを強調されて肋介の目尻がつり上がったが、スミレも引かずに、火花を散らす。彼氏の宴がデコピン(?)で吹っ飛ばされた衝撃は、簡単に消えるものではなかった。


 あ、と肋介が何かを思い出して、宴に視線を移した。


「で、お前の陣地はどこにするんだよ。あんま広く取るなよ」


「それについてだが、私は山のどこでも構わないのだ。なんなら陣など無くてもよい。自宅が天界にある故、ここに屋根を持たなくても困らぬ」


「えー? じゃあ俺様が勝手に決めるぞ」


「了解した」


 どうやら、陣取りで勝つと本当に陣地がもらえるらしい。スミレは彼らの独自のルールを、ただ見守るしかなかった。肋介は宴の陣を、どこに設置するつもりなのだろう。


「この山の麓に畑があるだろ? あそこの家にはジジババしか住んでねーから、様子見も兼ねて、近所に陣地を張ってくれ」


「わかったのだ」


 即答する宴に、木陰で見守っていた店員が慌てて歩いてきた。


「ちょっと待って。宴くんの珍妙な霊力が、お年寄りには毒になるかもしれない」


「珍妙とな?」


「珍妙だよ。そんな戦い方する人に会ったのは、僕の途方もなく永い人生で二人目だよ」


 宴が青い目をぱちくり、びっくりまなこで店員を見上げていた。


「私の母を、知ってるのか?」


 ……店員の目玉が右往左往、失態に戸惑っている様子であった。


「その……ごめん、なんでもないよ。適当なこと言った。ともかく、きみが人間に近づくのは、まだいろいろと早いよ。きみは優しいようだから、良かれと思って実行したことが、お年寄り夫婦を困らせてしまうこともあるだろうからね」


「竈で米ぐらい炊けるぞ?」


「今は炊飯器の時代なんだよ。きみは人間に近づく前に、もっと今の時代にある道具を勉強しなさいね」


 それはスミレも、賛同せざるを得なかった。今の宴に、見ず知らずのご老人の手助けは無理だろうと思われる。


「じゃあ、やっぱお前が決めろよ。言っとくが、山のてっぺんは俺様のだからな」


「わかったのだ。私はー……山の中間あたりの、どこかにいようか」


 宴は地上に張る陣地に無欲なせいか、具体的なことが何も決められず、とりあえず陣地制作は保留ということになった。


「これで明日もみんなと遊べるな。私には、それで充分なのだ」


 宴にとっては、それだけが最重要課題だったようだ。


「また明日も一緒に遊びたい。皆と――もちろん、スミレともだ」


 無邪気に喜ぶ宴に、不覚にもちょっと照れてしまうスミレなのだった。


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