第33話 淡光晶と魔眼
ゾンビ達に勝って、ネクロマンサーの長がいた空間に戻った。
「二人ともよくぞ戻ってきてくれた」
隆々とした両腕の筋肉を大きく広げて彼は私達を迎えてくれた。
が、正直私は腹の居所が悪かった。せん
「あなたは一体何をしたかったのですか」
最初に一言を放ったのはおねぇだった。
「お前たちを試すような真似をして済まなかった。お前たちの実力を試してみたかったのだ」
「私たちの実力を?」
「そうじゃ。そなたたちの要求は我々ネクロマンサーしか知らない秘境。どこの世界地図にも載っていない。その道のりもかなり険しい。故に、その倫理観と戦闘能力を試させて貰った」
「結果はどうなんですか……」
暫く、沈黙が続いた。
口の中に溜まった唾を呑み込む。
長が口を開く。
「合格だ。お前たちを秘境の
緊張が体全体に走る。
長が立ち上がった。
全長2メートルと言った所だろうか。
首を上げないと目が合わない。
ネクロマンサーに釣り合わない隆々と盛り上がった両腕の筋肉。
ゆっくりと私達に近づいてくる。
一体、何をしようと言うのか。
「そこの銀髪の娘」
「えっ!? 私?」
「そうだ。貴様だ。貴様、その光輝く空色の瞳はなんだ」
「え……」
猛禽眼のことでは無いから。
ということは、ウンディーネの眼のことを聴かれているのだろう。
「虹彩に四つの淡い光が現れた眼のことだ。あれはどう見ても魔眼だ。私はその四つの淡い光がある魔眼を知っている。見たことがある。数百年前、戦争の最中だった。ある男が止めに来たのだ。戦争を紅色のマントを羽織い、いかにも冒険者じみた軽い格好をした男が。その男の瞳は貴様と同じで四つの淡い光があった。瞳の色は虹色でとても美しかった。その男は人智を超えた力でその戦争を止めたのだ。圧倒的であった。貴様はその男と同じ瞳を持っている。その眼はなんなのだ?」
「こ、これは……」
言うべきなのか?
それとも、言わない方が良いのか?
ウンディーネが妖精っていうことは知っているけど、詳しくは知らない。
もしかしたら、ウンディーネのことを教えてくれるのかもしれない。
でも、リスクもあるから言う事が出来ない。
「私にも分からないんです。気付いた時にはもうこの魔眼が宿っていて……」
「そうか。でも、やってみる価値はある。お前たち、連れていけ」
「はっ」
腕をネクロマンサーの一人に掴まれて玉座に上げさせられる。
「ちょっと、今度はどこに私達を連れて行くのよ!!」
「今度は怪しいところではない。君たちに力になってもらいたいのだ。実はな、この奥に――――」
そう言いながら、玉座の奥にある縦長の石英を押す。
すると、石英が奥に押し込まれて空間が現れた。
「隠し扉……」
「そうだ。隠し扉だ。君たちにぜひとも見てもらいたいものがあるんだ」
私達は石畳で出来た階段を降りていく。
この先に一体何があるというのだろうか。
ひんやりとした空気が肌を刺す。
足音と呼吸のみがその空間を支配する。
降りて行くと、広がる空間に出た。
暗黒に染まる空間の中に、淡い水色の光が視界に入る。
そこには、六角柱をした水色の水晶が冷徹に存在していた。
「これは、なんですか?」
「これは、古から存在する魔力が込められた水晶だ。その水晶にはとある力が封じ込められていてな。これを見てくれ」
近づくと、その水晶に何らかの模様が描かれているのが見えた。
「これは文字ですか」
「ああ。そうだ。古の文字だ。俺達では一切解明できない。なんせ、人間が作った文字では無いからな。俺達にも正直良く分からんのだ。が、このクリスタルは世界中に存在しているらしい。世界に派遣している団員に聞いたところ、このクリスタルはとある魔眼に反応をするらしい」
「魔眼ですか。もしかして、私をここに連れて来たのって……」
目の前にいるネクロマンサーの団員の一人が頷いて、
「ああ、そうだ。君のその眼の力でこの水晶に秘められている力を解放できるかもしれない。お願いだ。俺たちに力を貸してくれ」
おねぇの顔を見る。
おねぇの眼は、『やってあげなさい』と言っていた。
「分かりました。やりましょう」
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そのクリスタルは通称その光から《淡光晶たんこうしょうと呼ばれているらしい。
私は淡い水色の光を放つ《淡光晶たんこうしょうに近づきながら心の中でウンディーネに問いかける。
ウンディーネ、出てきて。
お願い。
貴方の力が今どうしても必要なの。
が、何も反応しない。
心の中で自分の声だけが反響する。
仕方がない。
いっちょやってやりますか。
不思議と《淡光晶たんこうしょうを見ていると懐かしい気持ちになる。
自然と一緒にいるような一体感がある。
この世界は私であって、私はこの世界なのだと。
かつて、自分は旅をしていた。
淡い、曖昧な、儚い記憶がぼんやりと脳裏に写る。
自分が体験していないことをまるで体験したかのような感覚に襲われる。
でも、鮮明な映像にはならずに消えていく。
《自分》が曖昧になる。
《自分》は誰なのか。
私は《自分》を探す。
今ここにいる《自分》を。
《記憶》の中から《自分》の欠片を探し出す。
あった。
ようやく一凛の記憶の欠片を掴んだ。
その瞬間、《記憶》のゼンマイが一気に引き戻されて、別の場所に連れて行かれた。
裸の自分。
見下ろすと、乳白色の肌とまだ発達していない胸。
くるぶしまである透明な水が揺れている。
ここは、私の深層心理の中……。
『懐かしいのう。これは』
背中に羽を生やした少女が現れた。
――――ウンディーネだ。
『お主は選ばれた人間じゃ。これが宿命なのじゃろう。運命なのじゃろう』
『あ、あの……』
『お主の目の前にあるものは記憶の欠片じゃ。お主がいつか巡り合う運命の時に備えるためののう。そなたの人生は、運命は予め決められていたのじゃ。分かるかのう。いや、今は分からなくてもよい。いずれは分かることじゃ。そなたは人類の運命を背負う運命。でも、其方ならきっと乗り越えられる』
そう言って、女の子は消えていった。
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現実に引き戻された。
手が《淡光晶たんこうしょうに触れる。
瞬間、目の前が真っ白になった。
落ちていくようなふわふわとした感覚のみを感じていた。
深層の中へ。
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