第32話 ゾンビ戦
無数のアンデッド達が徐々に距離を縮めてくる。
「おねぇ、このままじゃ囲まれちゃうよ」
「そうね。囲まれてしまうわね。それじゃ、私が魔法を打ち込むからフクシアはその後に暴れなさい」
「分かった」
地面を蹴る。
おねぇが詠唱をする声が聞える。
「空気よ。形を成し、宙を舞え。その力を持って敵を討て。かまいたち」
空気で生成された斬撃が敵に向かって飛んでいく。
鈍い音がしたかと思うと、ゾンビたちの首が床に転がり落ちた。
が、体は動いている。
「やっぱり、かなり厄介ね」
鞘から剣を抜く。
――――水平斬り。
首ではなく、敵の胴体を斬った。
一気に三体。
が、斬ったはずなのに敵の体は動いたままだ。
まだまだ敵はいる。
波の如く、骨や皮だけの集団が押し寄せてくる。
取り敢えず、敵を斬らないとこっちがやられちゃう。
胴体を、首を斬り、胸骨を、腰椎を、頭骨を踏んで、叩き斬って、剣先で穿って破壊する。
敵が動かなくなるまで。
もう、動けなくなるまで何度も何度も何度も何度も何度も何度も――――。
その間、おねぇは私を後方支援する。
主に風の魔法を使い、時に飛ぶ斬撃が敵を斬り付け、時に風の大砲が敵の体を吹き飛ばす。
氷の魔術を使うときは、地面を凍らせて敵の動きを止めたり、氷の塊を空中に作って落としたりして敵を討つ。
一つの集団をやっつけたと思ったら、次の集団が現れた。
「くそ。切りが無いわね」
そう愚痴を零す。
けど、愚痴を零しただけでは敵の数は減らない。
倒さねば、殺さねば敵の数は減らないのだ。
それだけは絶対だ。
実力では私達の方が多いに上回っている。
でも、数が圧倒的だ。
私達の体力と魔力が尽きるか。
それとも、敵が全滅するか。
それで私たちの勝敗は決まるのだ。
そう。
だから……。
諦めた時が私たちの敗北だ。
失望し、断念した時が私たちの死だ。
それまでは私達はまだ生きている。
諦めないことが私たちの生に繋がる。
「おねぇ。もう一つ来るわ」
「ええ。分かっているわよ」
直後、私の横を豪速で飛び去るものがあった。
風圧で髪が揺れる。
――――直後。
目の前の壁に深々と突き刺さった氷の剣が目に入った。
が、その氷の剣に突き刺さっているのは壁だけでは無かった。
骸骨の頭骨が貫通していた。
それだけの速さで氷の剣を飛ばしたという事。
驚きが隠し切れずに思わず後ろを向いて、
「お、おねぇ。これ……」
そこには、得意顔で立っているおねぇの姿。
「ふふふ。フクシア、びっくりした? 実はね、氷魔術と風魔術を融合した技よ。凄いでしょ。氷魔術で武器を作って、それを風魔法で速度を付ける。まだまだ、微調整は難しいけれど、凄い破壊力でしょ」
「うん。凄すぎるよ」
「もう、これ以上時間かけてもいられないからね。本気で行くよ。フクシア」
「分かった」
剣を強く握りしめて敵の集団へと切り込んでいく。
そのそばを、おねぇの作った武器たちが驟雨の如く空を切っていく。
ゾンビや骨野郎等のアンデッド達に、無数の氷で作られた武器が襲う。
敵の数が一気に減っていく。
正直助かる。
内心、ホッとする。
正面の骸骨をの頭骨を縦断。
続けて、水平斬りを繰り出し、助骨を切り裂く。
左方から骨の剣が上段から振り下ろされる。
すり足で左斜めに移動しながら攻撃を受け流す。
続けて、両手に力を入れて敵の首元を剣先が穿つ。
直後、氷結の剣が胴体に突き刺さり壁まで深々と貫通した。
その敵は動かなくなった。
おねぇの後方支援のお陰で大分敵の数が減った。
私も動きやすい。
「はっ!!!!」
左足を大きく踏み出して剣を大きく水平に薙ぎ払う。
敵の空っぽの体に斬撃の跡が残り、真っ二つに割れる。
――――跳躍。
その直後におねぇの風魔法と氷魔法の融合技が炸裂する。
氷と骨の欠片が周囲に飛び散る。
「せいやっ!!」
奥の方に隠れていたゾンビを倒した。
でも、部屋の中に変化は無い。
可笑しい。
「ねぇ、おねぇ。もしかして私達この部屋の中に閉じ込められたんじゃないの?」
「ま、まさか……」
苦笑いを浮かべる。
死体の異臭。
目は先ほどの戦闘で慣れて、かなり良く見える。
敵はいない。
その時、地響きが響き渡った。
奥の壁が崩れ、化け物が現れた。
身長は二メートル越えのスケルトンの騎士。
純血の瞳が不気味に光る。
なんか、ボスキャラっぽいのが出て来た。
「オオオォォォォ!!」
さっきの雑魚より何倍も強い。
気が違う。
でも、やることは今までと一緒。
私が前衛。
おねぇが後衛をする。
敵の巨大スケルトンが右手に持っている大剣を振り上げ、間合いまで来ると一気に振り下ろした。
これは受け止めきれない。
右へ飛ぶ。
轟音。
何とか受け身を取って怪我をせずに済んだけれど、こんなのを何回も攻撃されていたら堪らないよ。
地面に剣を振り下ろした跡が生々しく残っている。
こうなったら、短期決戦で行くしかない。
『猛禽眼もうきんがん』を使うしか……。
その時、頭の中で私の知らない声が響いた。
誰かの声――――。
『それなら、私の力を貸してあげる』
幻想だろうか。
目の前に背中を生やした人が――――妖精がいる。
いや、違う。
これは私のイメージだ。
「貴方は誰?」
『知っているはずよ。私は貴方が生まれた時からずっと一緒にいるんだもの』
「貴方は何を言って……」
『そんなのは今はどうでもいいわ。貴方、このままだったら死ぬわよ。だから、私の力を貸してあげるって言っているの。今度はほんの少しだから。暴走はしないわ。心配しないで』
「ちょっと、待って……」
言い終える前にその人は消えていった。
手を伸ばしてみたが、その手は彼女に届かない。
次の瞬間、私は現実に引き戻されていた。
――――力が漲る
「これって、もしかして魔力?」
私は覚えていない。
けど、私の体は覚えている。
この感覚。
――――魔力だ。
「なんで、私に魔力が……」
が、今はそんなことを考えている暇はない。
今は目の前の敵を倒すだけ。
地面を氷漬けにしてその上を滑る。
敵は大振りで薙ぎ払う。
跳躍。
さらに、剣を足場にして飛ぶ。
両手を振り上げる。
――――魔力解放。
天井近くまでの巨大な氷の剣が出来る。
縦断。
二メートル近くあるスケルトンは真っ二つに割れ、消散した。
一瞬の出来事だった。
二メートルもある巨体は儚く灰と化して消えていった。
「フクシア」
名前を呼ばれて私は振り返る。
「貴方、目が青いわよ」
「え、うそ」
「ほんと。それにさっきのは魔術よね」
「う、うん。なんでいきなり魔術が使えるようになったのか分からないけれど。何か、この目のことと関係があるのかな」
一瞬、おねぇが目を逸らした気がした。
「さ、さあ。あ、ほら。もとに戻れるわよ」
「あ、本当だ」
私達は元来たところへ戻ることにした。
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