第2章 冒険編 魔女の山編
第30話 魔獣の森
私達三人は『魔獣の森』と呼ばれるところに入って行った。
鬱蒼とした森の中進んでいく。
時々、野鳥の囀りが聞えてくる。
「このまま真っすぐ行けば貴方の妹の所に着くことが出来るわ」
真昼間の中、こんな森の中を歩いているのは恐らく私達だけなのだろう。
人の気配が一切しない。
が、ここはそういう場所だ。
魔獣がいるから人が寄り付かないのだ。
まぁ、人がいない方が私は静かで好きなんだけどね。
「ほら、この星型の葉を持つ植物。良い痛み止めになるんだよね。あっ、この木の幹も良い薬になるね」
薬になる植物や動物を見ると、なんだか興奮する。
一人興奮して植物を眺めていると、
「もう。こんなところで道草を食っている場合じゃないでしょ。さっさと行かないとエリック君の妹さんの命が危ないかもしれないんだよ。なるべく早く行かないと!!」
たしかに、おねぇの言うとおりだ。
ここで道草を食っている場合じゃなかった。
「分かったよ」
私たちは森の奥地へと奥地へと突き進む。
「この近くの筈なんだけれど」
おねぇが地図を見ながら言う。
周囲に気を配りながら歩いていると、正面に洞穴を見つけた。
「ほら、多分あれじゃない?」
「本当だ!! 早く行こう」
洞窟に近づくにつれて、異様な臭いが嗅覚を刺激してくる。
その臭いは段々強みを増していく。
「な、なんなの? この臭いは」
――――異臭。
どこか甘ったるい臭いも混じっているけれど、それ意外にも変な臭いがある。
火薬に似ているけど、違う臭い。
「バクレツノタネ……」
「バクレツノタネ? 何なんだ? それは」
「その名前の通り、爆発する作用を持つタネの事よ。葉や幹はそんなに何だけど、主に種に爆発作用がある成分が入っているわ。ちょっとした事でも直ぐに爆発をしてしまう危険物よ。この中に罠があることは必須。助ける覚悟は出来てる?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
少し自信無さげだけど、大丈夫だろう。
エリックくんに枝の先に『光のルーン』を使って、簡易的なランプを作って貰った。
ここは慎重に進まなければならない。
でなければ、速攻死んでしまう。
私達は、一つ一つ地面や周囲の壁を調べながら、前進していく。
「う、うわっ!!」
唐突な悲鳴。
「ど、どうしたのおねぇ!!」
「め、目の前にバクレツノタネが……」
背筋がぞくりと寒気が走る。
――――バクレツノタネが天井にぶら下がっていた。
これで、ぶつかった相手の頭を吹き飛ばすという作戦か。なんと、おぞましい……。
それが、この先ずっと続いている。
暗いし、かなりリスクが高い。
しかも、こんな近くで爆発なんかしたら、連鎖反応を起こしてここにいる者は間違いなく全員死んでしまう。
「おねぇ、これ全部氷漬けにすること出来る?」
「うん。出来るよ」
対策としてはこれくらいしかない。
「なんで、氷漬けにするんですか?」
「それはね、衝撃を少しでも抑えて、爆発させにくくする為よ」
念には念を。
おねぇは壁に手を当てて氷魔法を放ち、壁と天井を氷結させた。
「これで、良い? フクシア」
「うん。ありがとう。おねぇ」
私は動物や植物、鉱物担当。
おねぇは魔術担当。
私達はこうやって責任を、担当を分担している。
どうしても、一人の力には限界があるから。
それはどうしてもそうなってしまう。
それは仕方の無いことなのだと私は思う。
だからこそ、協力するということが大切になってくる。
「衝撃を軽減させることが出来たとは言っても、まだまだ油断は出来ないわ。みんな、気を付けて」
「ラジャー」
「分かったわ」
慎重に慎重を期して洞窟の中を進む。
どんな罠があるのか分からない緊張感。
臭いは、ほぼバクレツノタネの臭いしかしない。
だから、例え、他の臭いがあっても正直、気付くことは出来ないだろう。
この臭いはフェイクで何か本命の仕掛けがあるのかもしれない。
冒険に危険は付き物だ。
慎重に、一つずつ確実に進んでいくしかない。
少しずつでも、死なないよりはマシだから。
「ねぇ、おねぇ。どんなかんじ?」
「近いわ。洞窟の中の雰囲気が変わった。…………待って」
おねぇの手が遮る。
ガラッ、と何かが崩れ落ちていく音。
光が照らしたものは――――。
深く深く掘られた堀と、その堀に囲まれた孤島。
孤島には一人の黒髪の民族衣装を着た12、13位の齢の少女が座り込んでいた。
「メイ!」
エリックくんが叫ぶ。
どうやら、あれが彼の探していた妹らしい。
彼は彼女に近づこうとするが、堀があって近づくことが出来ない。
それに……。
「みんな、あれ」
堀の隙間や空中など色んな所に仕掛けられたバクレツノタネ。
このままでは近づくことすら不可能だ。
「おねぇ、堀の上にあるバクレツノタネに付いている糸を風魔法で斬ることは出来る?」
「出来るわよ。でも、それであの子の足場が崩れちゃったらどうするの?」
「大丈夫。それは心配ない。私が保証するわ」
見たところ、この堀はかなり深いし、あの子が座っている所はかなり頑丈だ。
バクレツノタネの威力はかなり強烈だけど、問題はないはず。
「分かった」
彼女は承諾し、
「風よ参れ。風圧斬かまいたち」
おねぇの掌に風魔法が集まる。
手を横に振ると、斬撃が発生し、天井とバクレツノタネを繋いでいる糸を斬ることが出来た。
斬り落としたバクレツノタネは、堀の中へと吸い込まれていき、赤い閃光と爆発音のみを残して闇へときえていった。
さて、後は……。
「私が行くわ。二人は待っていて」
「え……」
私が返事をする暇もなく、おねぇは身体強化と風魔法の応用を使ってエリック君の元へ飛んで行った。
一瞬、冷や汗を掻いたが、無事エリック妹を助けることが出来た。
エリック妹は、黒髪ショートで童顔の可愛らしいお嬢さんだった。
「ありがとうございました。本当にこの恩は返そうにも返しきれません」
「いや、いやいや。そんなの良いよ。お礼なんて。ねえ。おねぇ」
「そうそう。私たちがしたくてやったことなんだから」
ふふふ、とエリック妹は笑って、
「『ノアの死霊団』の方々はどこかに行ってしまいました。私にも彼らがどこに行ったのかよくわかりません。貴方達がこれから行く『魔女の山』はこのけもの道をまっすぐ行けば着くはずです。頂上にはネクロマンサーたちが住み着いているという噂です。その方々はきっと、貴方達の味方をしてくれるはずです」
「そっか。ありがとう」
私たちは握手を交わして別れた。
彼女たちは本当はいい人たちだったのだと私は思う。
彼らは、これから王都で仕事を見つけて二人で暮らしていくのだそうだ。
幸せになって欲しいと暁の空を見上げて私は思った。
「ねえ、フクシア。この森を早く出ないと、この森、魔獣が出ちゃうよ」
おねぇの言葉に心臓が口から出そうになる。
「そ、そうだった!! は、早くこの森を抜けなくちゃ!」
走ってこの森を抜けないと間に合わないよ。
ああ、前途多難だなぁ。
人生って……。
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