第27話 解決策

私達は一旦離れて対策を練ることにした。


「で、どうする? おねぇ。あの人、このままだと騎士の人たちに殺されちゃうよ!」

「無いことはないんだけどね」

 歯切れが悪い。

 何を躊躇っているのだろうか。


「カミリア、数日前のあの薬持ってる? ほら、感染止めの薬」

「あ、う、うん。持ってるよ。あれだよね。患者さんの細胞の感染を抑えるワクチン」

「そう! それそれ!」

「確か、持ってきていると思うよ」

「ほんとに!?」


 カバンの中身を探ってみる。


 ガサガサガサガサ


 中身を探っていると、試験管のような硬くて長いものに手が触れた。

 もしかしたら……。


 そう思い、手を引いてカバンの中から取り出す。

 ビンゴだ!


「そう! これこれ! これが欲しかったのよ!」

 紫色の液体が入った試験管を取り出した。


 数日前、パラサイトに冒されたルン・マイクさんの細胞を取り出して作ったワクチンだ。

 結果は、撃沈だったが……。

 それでも、やらないよりはマシだったろう。


「でも、おねぇ。これだけだったら、あのほぼ全身に汚染された細胞を破壊することなんてできないよ」

「そうね、出来ないわ。だから、この薬を増やすことができるようにするのよ」

「どういうこと?」

 私は、おねぇの話を聞いた。


 どうやら、おねぇはこのワクチンに増殖作用と呪いの浄化作用を付与させるつもりらしい。

「この細胞は、あの怪物の細胞の劣化版なんでしょ?」

「うん。そうだけど……。それがどうかしたの?」

「ということは、増殖能力も引き継いでいるということよね。ということは、その能力だけ強化して、呪いの浄化作用を付与すれば……」

「あの化け物を退治することができる!!」


「そういうこと!!」

 さすが、私の姉だ。

 頭が良い。


 だが、それには一つ問題がある。

「増殖能力を強化するのは私たちに出来そうだけど、呪いの浄化を付与するのってどうするのよ? あれは教会のシスターや神父くらいしか身につけていない魔術のはずよ」


「チッチッチッ」

 おねぇは私に人差し指を振って見せ、

「おねぇちゃんを侮ってはいけませんよ。何かをなしとげる人っていうのは、誰も見ていないところで一番努力をするのよ。実はね、アタシ、フクシアが見ていない所で浄化魔術の練習をしていたのよ」

「え、ええっ!? おねぇ使えるの!?」

「もちろんよ!」

 バンッ、と右手の拳で胸を打ってみせる。


 マジか。

 そんなの初耳なんだけど。

 いや、私に秘密にしていたわけだから知らないのは当然か。


 とするとあとは、

「増殖能力を強化するだけね。でも魔術の強化なんてどうやってやれば……」

「おねえ、なにか知らない?」といった風な表情で見つめる。

 おねえは、「いや、知らないわよ」と言いたげに眉を顰ひそめる。


「って、なんで私たち無言で会話してんのよ」

「さ、さあ?」

 二人で笑い合う。


「おねえ、強化魔術とか使えないの?」

「アタシは使えないわよ。師匠から習って無いし。それに、本で読んだことはあるけれど勉強する気は起きなかったわね」

「なんで?」

「な、なんでって言われても……」

 難しい顔をして考え込む。


 桜色の小さな唇を開ける。

「そうね。あえて言うなら、私には必要ないと思ったからよ。強化魔術って、確かに凡庸性は高いし便利な魔術だけど、医療魔術にはあまり関係ないからね。やっぱり、勉強しておけば良かったな。やっぱり、世の中何が起こるのか分からないものだね」

「うん。本当にね」

 さて、問題はここからだ。


 どうやって、強化魔術を使える人材を探すのか。

 そういえば……。

「エリックは強化魔術を使えたよね」

「まあ、確かにそうだけど……。でも、ここにはいないわよ」

 そう。

 エリックは今もあの島にいる。


「それじゃ、どうするのよ。おねえ」

「う、う~ん」

 考えろ。

 頭をフル回転させるのよ! 

 フクシア!!


 その時、後ろから聞き覚えのある声が――――。

「僕のことを呼んだかい?」


 振り返ると、あの島にいたはずのエリック君が立っていた。

 太陽の光に照らされてストレートの金色の髪が、鮮やかな色に染まる。

 もう、驚いたとかそんなレベルじゃない。


 心臓が飛び跳ねそうだった。

 突然、幽霊が出てきたのかと思った。

 話の流れ的には似たような状況だけど。


 おねえなんて口を開けたままポカンとしている。

「え、え、え、エリック君!? な、なんでこんなところにいるのよ!!」

「い、いや~~」


 彼は頭をポリポリと掻いて、

「実はね、僕は『ノアの十字団』の一味じゃないんだ」

「どういうこと?」


「僕には妹がいるんだ。その妹を彼らに人質に取られていてね。『言うとおりにしないと、お前の妹が酷い目に遭うぞ』って脅されて。それで、彼らの言うとおりにするしかなかったんだ」

 彼の表情を『猛禽眼』で観察する。


 どうやら、嘘は吐いてはいないようだ。

「おねえ、大丈夫。今のエリック君は味方だよ。少なくとも、嘘は言ってないよ」

「カミリアがそう言うのなら事実なんだろうね」

 私たちは渋々受け入れた。


「ていうか、なんでエリック君がここにいるの?」

 そう。

 それが一番の謎なわけで――――。


「あ、それな。実は、君たちが空間転移するときに実は一緒にいたんだよ」

「え、え、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「マジなの!?」


「うん。まじ」

 それに気づかなかった私たちって一体……。

 落ち込む私達を見て、

「い、いや。僕あれだし。気配を消すルーンを使うことができるから」

「な、なるほど。ルーン魔術なのね」

 今、私達は何で励まされたんだろう。


「僕に何かやってほしいことがあるんじゃないの?」

 私とおねえの顔を交互に見る。

「そうそう。エリック君、『強化』のルーンを使えたわよね」

「うん。使えるけど、どうかしたの?」

「実はね、細胞の増殖能力を強化して欲しいんだけれどできる?」


「なんだ。そんなことか。どれを強化したら良いんだ?」

「これだけれど」

 右手で持っている試験管を彼に渡す。


「なるほどな。分かった」

 彼は人差し指で何やら文字を描いた。


「出来たぞ」

「え、今ので出来たの!?」

 一瞬だった。

 本当に効果があるのか疑わしい。


「本当はでたらめなんじゃない?」

「なわけあるか!! 僕はやることはきちんとやったからな!」

 あーあ、怒らせちゃった。


 でも、一見すると試験管の中身は変化が無いように見える。

 正直、不安だ。

「そんなに不安なら別に信じなくていいけどな」

 あ、拗ねた。

 可愛いところもあるんじゃん。


 でも、ここは彼を信じるしかない。

 あとは、これをどうやってあの化け物の体内に注入するかだけれど……。


「それはアタシにいい案があるわ」

 おねえが手を挙げて言った。


 それじゃ、一先ず彼女の話を聞くとしよう。

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