第23話 水の妖精ウンディーネとの戦い

膨大な魔力がフクシアの体から放たれる。

 とても一人の人間ではない魔力量——。


 地面が凍りついていく。

 島全体が氷の島となるのも時間の問題。


 でも、彼女を止める方法は1つしかない。

 そう。


 水の妖精ウンディーネを封印する事。


 ——人を超越した上位的存在。

 ——4大精霊の一柱。

 ——人の形を成した、人ならざる存在。

 ——世界を「氷の世界」にする事も可能な存在。


 普通に考えれば、太刀打ちなんてとても出来ない。

 だけれど、私なら勝てる。

 対策はある。

 練っている。

 だから、大丈夫なはず。


「人間ごときがこの俺に勝てると思っているのか? ふざけた真似を……」

 地面を蹴る。

 アタシとルーサは左右の二手に別れる。


 氷の槍が正面に出射される。

「クソ」

 足さばきをし、ナイフで何とか受け流す。


 今っ!!

「はあぁぁぁぁ!!」

「この愚か者め」

 ウンディーネは、氷の剣を生成し、水平に薙ぎ払う。


 ナイフと剣が拮抗するーー。

 今がチャンス!


 右ポケットから、フクシアから貰った水色のスロウクリスタルを取り出す。


 これである程度戦況は変わるはず!


 スロウクリスタルをウンディーネに向かって投げる。

 ——スロウクリスタルは、ウンディーネの方向へ放物線を描いた。


 目を見開くウンディーネ——。


 スロウクリスタルが水色に光り輝いた。

 消散したスロウクリスタルの欠片が、ウンディーネに降り掛かる。


「な、何だこれは!?」

 正直、これが妖精にも通じるのかは分からないけれど。

 でも、やってみる価値はある。

 どうだ?


「魔力が薄れている!? そんな馬鹿な!? お、おのれぇ!! この俺に何をした!」

「魔法を掛けたのよ。魔力の質を落とす魔法をね」

「ふん。この程度の魔法を掛けたところで……!!」

 背中の翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。


 逃がすものか!

「マヌ・ルーサーさん! 今です! 結界を!!」

「分かっているわ!!」

 マヌ・ルーサーは、地面に杖を立てて呪文を唱え始める。


「彼の者の司る水の門を閉じよ、閉じよ、閉じよ。彼の者の名の力を封じよ」


 ウンディーネの足元と頭の上に魔法陣が描かれる。

「なるほどな。行動を制限する結界か。その程度の結界を張ったところで、この俺に勝てるとは思うなよ!」


「そのくらいであなたに勝ったとは思っていないわ。でも、動きを封じたことで、私達はかなり有利に立てた筈よ」

「その考えが甘いのだ」

 ウンディーネがそう言ったかと思うと、一瞬にしてマヌ・ルーサーの張った結界が消散した。


「わ、儂の最強の結界を……!!」

「言ったはずだ。その程度で人間が良い気になるなと。貴様らと俺様とでは格が違うのだ。格がな」

 クソ。


 どうすれば良い。結界で奴の動きを封じていないと奴を封印することは難しい。でも、マヌ・ルーサーさんの結界は簡単に破られてしまった。


 これが、人と上位存在との違なのか――。


 断念しようとしたその時、ウンディーネに複数の攻撃魔術が襲いかかった。

「!?」


 森から出てきたのは、レンジャー試験に参加している人達。

「おい、何なんだあの化け物は」

「さっきの氷の武器が空から降ってきたのも、あいつのせいか?」

「おいおい、なんだよあれは。人間か?」

「なんか、あれを倒さないといけない雰囲気っぽいな

 」


 3、5、10――。

 どんどん増えていく。


 恐らく、総勢で15人はいるだろう。

 これなら、いけるかもしれない。

 人と妖精の力の差を埋めることが出来るかもしれない。


 やってみる価値はある。

 やろう。


「みんな、一時休戦といきましょう。今は別の敵――。そう、敵はあの空に浮かぶ人。いや、厳密に言えば、人ではないけれど。あれが今の私たちの敵よ! 敵の名は水の妖精 ウンディーネ。あの四大精霊の一柱よ。やっつけても構わないけれど、動きさえ止めてくれれば私が封印するわ。封印すれば、国からの報酬も期待出来るわ。さぁ、みんないくわよ!」

「おぉぉぉぉ!!」


 レンジャー志望の卵達は、ウンディーネに攻撃をしかけた。

 弓矢、攻撃魔術――。

「くそ、こんなに敵が多いと鬱陶しい。ええい、ハエ虫共が!! こぞってこの俺に攻撃しようなど――」

 ウンディーネは、左手を天に上げる。


 すると、突如として暗雲が現れ、あっという間に空を覆ってしまった。

 これは……。


「一掃してくれる!!」

 左手を振り下ろす。


 雷が、豪雨が地面に降り注いだ。

 島には豪雨のために濁流が現われ、アタシ達を襲った。

「波だ。波がこっちに来るぞ~~! 逃げろ!」


 ここは、水系統の魔術を扱うことが出来る私がなんとかしないと。

 今は、空に浮かんでいるウンディーネを放っておくしかない。



 濁流が私達を襲い、呑み込む。

 それは一瞬の出来事だった。


「ぷ、あぷ……」

 この濁流をなんとかしないと全滅してしまう。

 でも、このまま使うのは危険――――。

 他の人も巻き込まれてしまう。


 でも……このままだと全滅してしまう。

 こうなったらやるしかない。

 右手に魔力を溜め、氷系統の魔力へと変換する。

 そして、魔力を一気に解放する。


 ――――濁流が氷塊へと化していく。


 氷の壁に四方を囲まれて身動きが取れなくなってしまった。

 でも、風魔術を使えばこの程度の氷の壁なんて一瞬で吹き飛ばすことが出来る。


 右手は先ほど氷の魔術を使ったせいで手のひらを天に向けている。

 これはチャンスだ。

 風の魔力を右手に集める。

「突風砲!!」


 掌から空気を圧縮した砲弾が飛び出る。

 砲弾は、氷の壁を崩壊し、砕く――――。

 目の前の氷の壁は氷粒へと砕破する。


「よし、出られる」

 外へと出ると、案の定、地面は氷の世界になっていた。


 さて、アタシ以外に出る事が出来た人はいるのかと辺りを見渡す。

 しかし、この場に立っているのはアタシだけだ。


 と、思ったその時、三メートル先から空へと向けて深紅色の光線が放たれた。

「う、うわぁ!」

 地響きの音がする。


 続いて、ピキピキと濁流を元にした氷の床に罅が入る音がした。

 次の瞬間――――。


 三、四メートルあった氷の床が崩れ落ちる。

「か、間一髪ね……」

 氷の壁はなんとか耐えてくれた。


 今のは、遠距離攻撃魔法。

 それも、こんなに強力かつ、大量の魔力を放つことが出来るのはアタシが知っている限りでたった一人――――。


「全く。いきなり氷結魔術なんてせこいわよ。やるなら事前に言いなさいよね」

「ま、マヌ・ルーサさん」

 彼女の元へと駆け寄り、手を引っ張る。


 彼女は汚れを手で払いながら、「どうも、ありがとう」とお礼を言って、

「ほんと、とんでもないことになったわね。これ、貴方の仕業なんでしょう」

「はい。すいません」

「良いのよ。貴方は最善を尽くしたわ。ああでもしなければ全滅していた。それに、凍ってくれていたら幾らか邪魔が入らなくて良いわ」


「他の人達はどうなんでしょうか」

「多分、氷の中で眠っているのでしょうね。私達でどうにかするしか無いのかもね」

 氷の床をコツコツと鳴らす。


「そ、そんなぁ」

「これはやらなくちゃいけないことなの。私達の運命なのよ。ここで、私達が食い止めないといけないのよ」


 そうだ。

 あれはウンディーネであって、アタシの大切な妹だ。

 助けなくてはいけない。


 いや、助けないといけない。

 大切な人を守る為にも。

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