第20話 真実
おねぇと抱き合っていると、エリックが来た。
彼を見た姉は、目を見開いて声を上げる。
「エリックくん!?」
「や、やぁ」
彼は、片手を上げて挨拶をする。
「なんで、エリックくんがここにいるの?」
「途中で妹さんと会いましたから。あ、でも、勘違いしないで下さいね。僕は、あなたがたと争う気はありませんよ。ただ、少しお話をしたいと思っただけですから」
純粋無垢な笑顔のエリック。
「で、あなた方は姉妹揃って何をしていたんですか?」
「テントに使う枝を探していたのよ」
「て、テント?」
彼は少し驚いた表情で聞き返す。
「ええ。そうよ。テントに使う為の木の棒を探していたの。見つけたから帰るわよ」
いつの間にか、おねぇの手には2メートルほどの木の枝が握られていた。
いつの間にあんなものを……。
「エリックくんも来ていいわよ。食べ物もあるし」
「えっ!?」
いいの?
曲がりにも敵なんだよ。
そんな私の心配は空に消えた。
「あ、ありがとうございます」
エリックくんも同行する事になった。
鬱蒼とする森の中を、私達は進む。
というか、私とおねぇの場合は戻るか。
一言も会話も無く歩き続ける。
正直、しんどい……。
あ、そうだ!!
おねぇに渡さないといけないものがあったんだ。
ポケットの中からスロウクリスタルを取り出す。
「ねぇ、おねぇ。これ……」
「ん? 何これ?」
「スロウクリスタルっていう魔道具。魔法の効果や威力を弱体化させるの。敵や地面に向かって投げて使うんだって。渡すの忘れていたよ。いつ役に立つか分からないから、今渡しておくね」
「なるほど。ありがとう。弱体化ねぇ。不思議な力を持つ魔道具もあるものね。この色が違うのはなんでなの?」
「それは、四大元素で別れているからよ。赤が火、青色が水、黄色が土、緑色が風。紫は医療魔術や薬術やらの特殊魔術、黒が黒魔術、白が白魔術らしいわよ。取り敢えず、全部六個ずつ買ってきたから、半分おねぇにあげるね」
「なるほど。分かったわ。ありがとう」
姉妹の話にエリックくんが割り込んで来た。
「へぇ、そんな不思議な魔道具まであるのか」
来た!
これを待っていたのよ。
その名も、「無言で気まずい空気を和らげよう作戦」!!
「ええ、アクロポリスの薬草屋という名ので売っていたわよ。結構、道の外れたところにあったけれど。この試験が終わったら紹介するわ」
「ありがとうございます」
そんな雑談をしながら私たちは池まで戻った。
辺りはすっかり暗くなっている。
参加者も
「おお……」
私とおねぇとエリックは、目の前の光景を見て溜息を吐いた。
なぜかというと、私達が拠点にしようとしていたところの池が青色に光っていたからだ。
淡い光りを発する池は嘆美的だった。
思わず見惚れてしまう。
「あれ、ニナっていうライトウガの幼虫ね。光りでプランクトンを誘っているんだわ。綺麗な水にしか生きる事が出来ないから、珍しい昆虫なんだけど。こんな所で見る事が出来るなんて……」
心が躍る。
アクアマリンやサファイアなどの宝石を散りばめられたかのような幻想的な世界。
恍惚とした気分にさせられてしまう。
――――ずっとこの世界に浸っていたい。
――――心が満たされていく。
そんな感覚にさせられてしまう。
「見て!!」
おねぇが叫ぶ。
私達は空を見上げる。
「おおお!!」
夜空に満天の星空が輝く。
夜空は明るく、光り輝く。
「そろそろ時間だな――――」
唐突にエリックが呟く。
「時間って、何の?」
別に、何の時間も決められていないはずなのだけれど。
もしかして、別のチームと共闘をしていて、スパイだったとか!?
体に力が入る。
「そんなに慌てなくても良いよ。いや、慌てた方が良いのかな。ほら――――」
そう言って、彼は地面に何かを落とした。
それは、魔力を使って、遠く離れた所から画像を送る機械だった(監視カメラのようなもの)。
そこに映し出されていたものは――――。
――――人形をした魔物が暴れている姿。
――――破壊されていくアクロポリスの町。
――――逃げ回る住民。
――――魔物に立ち向かう国家騎士団と冒険者の人々。
――――燃え盛る家々。
言葉が出ない。
「な、なによこれ。何なのよこれ!!」
絶叫を上げるおねぇ。
「これは、リアルタイムで写しているアクロポリスの町さ」
いきなり口調が変わるエリック。
薄気味悪い笑みを浮かべる。
「このアクロポリスの町は現在進行中でこの化け物に襲われているんだ。君たちのせいでね」
「私達のせい? どういうこと?」
「この化け物はね。君たちが看病をしていた病人なんだよ」
「なっ……!?」
顔が引き攣る。
エリックの言葉に一驚する。
どういうこと!?
あの患者さんが!?
一体、何が起っているの!?
頭の中が真っ白になる。
彼は、ニタリと嗤う。
ペテンだ。
とんでもない道化師だ。
私達はこの少年に騙されたのだ。
「どういうことか説明をしよう。まず、君たちは二つの大きな勘違いをしている」
「勘違い?」
彼は、人差し指を天に向かって伸ばす。
「そう。勘違いだ。一つ目。僕があの患者さんに掛けたルーンは確かに『強化』の魔法だ。でも、それは彼の健康な細胞に掛けたんじゃない。彼の汚染された細胞に掛けたんだ」
目が泳ぐ。
何だって?
この少年。
今、なんて……
「よって、彼の細胞の増殖スピードは上がり、細胞の持ちうる能力も上昇した。そして――――」
中指を立てる。
「二つ目の勘違いは、彼の中にいたパラサイト昆虫のことだ。確かに、あれは君たちの見立て通り、他の健康な細胞を自分の細胞にさせて(汚染させて)、最終的にその人の体を乗っ取るパラサイト。でも、あの昆虫には、僕のルーンを刻んであったんですよ。『促進』のルーンをね。そうすることで、数日で彼を化け物に仕立て上げることが出来た。ありがとう。君たちのおかげだよ」
なぜ、なぜそんなことを。
彼にそれをして何か得することでもあるのか?
「一つ、聞いて良い?」
「どうぞ」
「貴方がそこまでしてこのアクロポリスを襲う理由はなに? この街は世界三大国家の一つ。それほど巨大な国家を敵に回すためにはそれなりの理由があるはずよ」
「理由。理由か……。はは、ははははは!! そんなの決まっているだろう。アクロポリスの王宮に隠されている魔道書を盗むためさ!」
「魔道書?」
「そう。魔道書さ。僕は下っ端だから知らないけどね。僕達の組織の目的を果たす為には必要なんだよ。そう。必要なんだ」
嗤っていた顔がいきなり悲しみの表情へと変わる。
「やるしかない。僕はこれをどうしてもやり遂げなくてはいけないんだ!」
風が吹く。
不吉な風だ。
森に住んでいる鳥や魔獣が騒ぎ立てる。
風は、彼の羽織っているマントを捲る。
すると、彼の腕が露わになる。
その腕には、入れ墨が彫られていた。
それは――――。
ドクロが十字架を噛んでいる様子を描いた入れ墨だった。
「僕達の名前は、ノアの十字団。かつてのノアの死霊団の残党だ」
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