第16話 狩り
只今、私達は大蜥蜴に追われています。
ええ、分かっています。
非常にピンチです。
試験開始から数分——。
既に命の危機に私達は晒されていた。
森。
と言うよりは、ジャングルに近い木林の中を逃げ回る。
しかし、逃げ回ろうにも倒れている巨木や木があり、障害物が多い。
巨大トカゲは、筋肉質で硬質な鱗に覆われた四本の足で追いかけ回してくる。
私たちとの距離もジリジリと近づいている。
このままでは食われてしまう。
「おねぇ、どうしよう! 」
「この程度の苦難なんて、何回も乗り越えて来たでしょ。師匠の訓練に比べたらまだまだいい方だよ」
「ふふっ、確かに。で、この状況どうするの?」
「そうねぇ。フクシア、あんた眠り薬とか持ってる?」
「持ってるよ。あ、そうか! なるほどね」
「さすが双子ね。それじゃ、行くわよ」
「うん!」
2人は左右二手に分かれる。
私は、マントのポケットの中から銃を取り出す。
とは言っても、本物の銃では無い。
空気銃だ。
もっと言えば、麻酔銃のようなものだ。
私の作った毒薬や薬でブスリ! という訳。
で、動きが鈍くなった敵をおねぇが魔法でやっつける!
これぞ完璧な作戦!
銃口を大蜥蜴の頭に向ける。
大蜥蜴は、先が2つに別れている舌をチロチロさせながら私たちの方へと走ってくる。
深緑の鱗はかなり分厚いとみた。
ギリギリまで引き付け、引き金を引く。
銃口なら日が吹く。
「ぐぎゃぉぉぉぉぉ!!」
大蜥蜴の痛烈な悲鳴——。
銃弾は大蜥蜴の脳を見事命中した。
大蜥蜴の猛突進は勢いを無くし、うつ伏せの姿勢で動かなくなった。
「さすが、アタシの妹。レンジャーならこうでなくっちゃね」
「これ、移動させるのどうするのよおねぇ。この化け蜥蜴が寝ている隙に何とかしないと……」
「切るに決まってんでしょ」
そう言う彼女の手には既にナイフが握られていた。
「でも、ナイフじゃその太い腕はどう考えても切れないよ」
「そういう時はこうするのよ」
おねぇの右手に握られたナイフは、凍りついていき、一つの剣へと変貌していく。
一振——。
氷の剣は、大蜥蜴の隆々りゅうりゅうとした右側の前足を真っ二つに切り裂いた。
続いて、左、後ろ右、後ろ左と氷の剣はその水色の刀身を鮮血で赤く染めていく。
残りは胴体だけとなった。
「さてと、これをどうするかだけれど……フクシアはどうしたい?」
そんなことを私に聞かれても……
「そうだね。解体するしかないよね。それよりもさ、おねぇ。解体以前にそのデカい足をどう運ぶの?」
「む。たしかに。どうしようか」
静寂な時間が訪れる。
方法はおねぇの魔術を頼るしかない訳だけれど……
確か、おねぇの使える魔術って、
医療魔術、火、水系統の魔法。
あれ?
もしかして、意外に少ない?
「……」
「……」
完全に詰まった。
どうしようか。
取り敢えず、今使えるカードを確認しないと――。
「ねぇ、おねぇ。医療魔術ってどんなことが出来るの?」
「え? 魔力で作ったナイフや刃物で切ったり、魔力で作った糸で縫い合わせたり、回復魔術で細胞の活動を活性化させたりとかかなぁ」
「そっかぁ」
なんも思いつかない。
にしても、この森の中ジメジメするなぁ。
服が肌に張り付いちゃうよ。
暑い……
ん?
医療魔術、火、水、氷、暑い、糸——
もしかしたら――
あるかもしれない。
この問題を脱する方法が。
「おねぇ、あるかもしれないよ。今の状況を打破する方法」
「ほんとに!?」
「うん。でも、それにはおねぇの魔力頼りになっちゃうけど、いい?」
「少しでも希望があるのならそれをやるべきだとアタシは思うの。レンジャーは生きること、生き延びることが最優先。やってみよう」
「それじゃ、言うね」
まず、大蜥蜴の肉を運べるくらいの小さなサイズに切る。
次に、糸で大蜥蜴の肉を縛って数個に分ける。
それを氷魔法で球型に凍らせる。
「これでいい?」
「うん。いい感じ!!」
あとは、どう運ぶか。
これは、押してもなんキログラムもあるから乙女二人では動かせない。
だから、他の方法で動かすしかないわけだ。
そこで私は地面と物理法則を利用することにした。
「おねぇ、この氷の球を囲うような感じで一つ台を作ってくれない?
「こんな感じ?」
「そうそう! こんな感じ!」
長方形+立方体半円をくり抜いたような形のオブジェをつくり、先程の氷の球を囲む。
手順的には、立方体の中に半円の形にをくり抜いた氷を作って、大蜥蜴の肉が入った氷の玉を囲む。
次に、氷魔法で2メートルほどの高さまで直方体の氷を作って、氷の球を持上げるわけ。
氷の床を作るのには、理由があって——
それは、この道は獣道で、地面が凸凹でこぼこしているから、どう考えても球を転がすなんてことは出来ない。
だから、氷の床を作って、球がきちんと転がる事が出来るように道を作ってあげるという事だ。
ここからは比較的簡単♪
同じ高さの氷をけもの道に沿って5メートル程作る。
最後に、火系統の魔法の熱で氷を溶かして坂を作る。
そうする事で、あとは重力に沿って大蜥蜴の肉片が入った氷玉はコロコロ転がる。
これを繰り返していけば良いわけだ。
実際にしてみると、まあまあいけた。
「うん。何とかなりそうだね」
「そうだね。問題点といえば、目立つことかな」
「うん。どうしても目立ってしまうね」
そう。
重いものを移動させるというミッションはクリアしたものの、問題点は幾つかある。
一つ目は、二メートル程あるからどうしても目立ってしまうこと。
まぁ、この森の中は熱帯雨林並に木々が茂っているから中々人を見つけることはできないと思うけど。
二つ目は、おねぇの魔力が持つかどうか。
近くに湖とかあれば良いんだけどね。
でも、湖とかどこにあるか分からないから、どうする事も出来ない。
地図も貰って無いし。
でも、今のところこの食材を運べるかどうかが私達の生命線なのだ。
他に、いつどこで食材を見つけることが出来るか分からないから。
感知系統の魔術を使うことが出来れば——。
あ、そうだ!
私の『猛禽眼』を使えば良いんだ!
そのうちの千里眼の能力を使えばいいんだ。
あとは、おねぇの『透視眼』で魔力の質や色を見分けることが出来れば、ある程度対処することは可能なはず。
「おねぇ、魔眼は使える? 私の『猛禽眼』で遠くの敵を探すから――」
「アタシの『透視眼』でそいつの魔力の性質を見分けて欲しいと。そういうわけね」
「うん。でも、おねぇの魔力の貯蔵量大丈夫?」
「これくらいは大丈夫よ。食べて寝れば何とかなるわ。それよりも、今日は拠点作りまではしないと」
「うん。それもそうだね」
私が魔術を使えないばっかりにおねぇにばかり負担を背負わせてしまう。
昔からそうだ。
私は魔術が使えないから、おねぇに魔物の狩りを主にさせて、私はそれを見ているだけ。
昔と全然変わらない。
胸の奥がチクチクとする。
針で刺されるような痛み。
私もおねぇの役に立てるように頑張らないと。
胸の痛みは自分への戒めとした。
もっと、もっと頑張らないと。
ド……ドドド…………
獣道の奥から水の音がする。
その音は、獣道に沿って歩くにつれて大きく、激しくなっていく。
「おねぇ……これってもしかして――」
「うん。フクシア、これは滝だよ! 近くに滝があるんだ!」
良かった。
これで何とか拠点作りは出来そうだ。
見てからでないと、なんとも言えないけれど。
「暫くだからね、おねぇ。頑張って!」
「お姉さんに任せなさい! 目標が見えないよりはマシよ。こんなもの! 目標があれば、あとはそれに向かって突き進むだけだもの」
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