第14話 新薬? 鉱石?
1日目のお昼から夕方に掛けて私は、ブラブラと街の中を徘徊した。
もちろん、美味しそうな食べ物はチェック済み!
パフェとか、お菓子屋さんとか、アクロポリスの伝統工芸品やらなんやらを売っているお土産屋さんとか——
ほとんど、甘い物巡りで終わっちゃったけどね(てへぺろ)
おねぇが夕方に帰ってくるから、その時間までは街並みをぶらりぶらりして楽しんだ。
食べていただけだけど。
あ、でもねでもね。
気になる薬方のお店があったんだけどね。
そこは、フェアリーライトとか浮かべていたり、キャンドルを置いてたりして街の雰囲気に合わせていたんだけどね、どこからどう見ても『薬屋さん』な雰囲気が悶々としていたんだよ。
本当のことを言うと、薬の匂いがしたからついつい引き寄せられてしまっただけなんだけどね。
匂いホルモンに引き寄せられるオスの気分だったよ。
扉は木材で出来ており、柔らかい雰囲気がそのお店の中を漂っていた。
薬の匂い——とは言っても、甘い、花のような良い匂いが心を安らかにしてくれる。
「お、おじゃましま〜す」
カランコロンと鈴のような音が鳴る。
初めて入る薬草のお店。
どんな薬が売られているのか薬術師の一人まだなってはいないけどとして興味がある。
「ほぉぉ!!」
お店の中に入ると、外に漂っていた甘い香りがより一層強くなる。
お店の中には、至る所に瓶の中で育てられている薬草や、葉や花びらを容器の中に入れていたりと、多種多様な植物性の薬やら動物性の薬やらが保管されていた。
「いらっしゃい。可愛らしいお嬢さん」
一人の背中の曲がった老人が奥から出てきた。
——ボサボサで天パの髪。
——茶色のセーターに灰色の少しダボダボなズボン。
——黒縁の老眼鏡を掛けており、メガネ越しから見える細く黒い瞳からは、柔和な印象を受けた。
おじいさんは、高級そうな木材の杖を付きながら近付いてきた。
「何かお探しかな。お嬢ちゃん」
「いや、別にこれといった探しものはないんですけど……」
「そうかいそうかい。それでもゆっくり見て行っておくれ」
「はい。ありがとうございます」
と、言うことなので、ゆっくり見ていくことにした。
「ほんと、色んなものがあるんですね」
瓶と言っても、形は多種に富んでいる。
基本は、透明なガラスの中に製造する薬に必要な素材を入れてエキスを取り出したり、動物や植物の一部を煮たり、擦ったりしてそれを利用して薬を作ったりする。
まあ、薬を作る方法なんて無限にあるということなんだけどね。
その中で瓶が果たす機能というのは非常に重要なのだ。
例えば、今、私の目の前にある瓶は、ガラスで空気に触れないように蓋がしてある。
いや、閉じてあると言った方が良いかな。
揮発性きはつせいの高い毒物も扱うあらなぁ。
懐かしい。
師匠と一緒に勉強をしたっけ。
他にも、液体自体が意思を持っていて、勝手に動き出したりする——そういう種類の液体を閉じ込めておく時にも使う。
他にも、液体の種類や用途の必要に応じて瓶を入れる種類を変える。
時には、自分で作ったりもしないといけない。
そんなわけだから、動物や植物、瓶の生成のことについてなど、様々なことについて薬術師は熟知していないといけないのだ。
お店の中を見渡していると、気になる薬があった。
薄い正八面体の結晶の中に、更に細かい原石の欠片の様なものが入っているのだ。
それぞれ、結晶の中に入っている原石の欠片は、一つの結晶の中に一種類のみ。
赤、青、緑、黄色——
これ、四大元素の色だ。
目が爛々と輝き、頭が冴える。
「あ、あの。この結晶ってなんですか?」
しまった!
声が上ずらってしまった!
恥ずかしい!
茶色のセーターのおじいさんは、テンポの遅い話し方で、
「それは、スロウクリスタルという魔力が込められている結晶ですわ」
「スロウ……クリスタル?」
初めて聞く名前だ。
「なんです? それは」
「これは、マナ濃度の高い鉱山でしか採れない珍しい代物なんですわ。なんでも、その色の元素の魔力の効力や攻撃を激減させるとか」
「つまり、赤は火、青は水と氷、黄は土、緑は風系統の魔力の効果を低下させると……」
「ええ、そういうことですのじゃ。詳しいメカニズムは儂も知らんのんですがね」
メカニズムが分からない。
適応するマナに対応しているという事だよね。
マナを少なくしてあるのか、それとも——
面白そう。
両側の口角が上がる。
「それ下さい」
「はいよ。それじゃ、50ニムルね」
これを研究すれば何かマナの謎の真相の一つに追いつけるかもしれない。
「はい。ありがとうございます」
「そういやあんた……」
少し緊張感のある言い方に肩を震わせる。
「明後日の薬術師の国家試験受けるのかい?」
「はい。受けます」
「失礼かもしれないけど、魔法薬術師かい? それとも、純粋な薬術のかい?」
彼の言い方に少し胸を痛ませる。
でも、このおじいさんに悪気が無いのは分かっている。
「純粋な薬術の方です」
「そうかいそうかい。それなら、儂と同じだね。それじゃ、負けとおまけだよ。ほれ」
おじいさんの大きなしわくちゃな手には、25ニムルと飴玉があった。
「い、いやいや。そんな、悪いですよ」
「いや、良いんだ。儂も魔法使えないからね。同情だ。お嬢さんも同じだろう? 同じ薬術師として頑張ってもらいたいんだ。これは儂のそんな小さな気持ちと受け取っておくれ」
「そ、それなら……」
ありがとう、とおじいさんにお礼を言って店を出た。
広場にあるどデカい時計台を見たら、13時になっていた。
いつの間に——
時間が経つのは早いなぁ。
私は、ホテルの自分の部屋に帰って試験勉強をすることにした。
試験は2日後。
と言うのは嘘で、おねぇが帰って来るまで試験勉強をせずにスロウクリスタルを眺めたり、レーザールーペで観察をしていたりした。
とかなんとかかんとかしているうちに、おねぇが帰ってきた。
「ただいま〜」
「おねぇおかえり〜!!」
イノシシのように、おねぇの胸に飛び込む。
「ぐほっ!」
「ねねね、どうだった? テスト」
「ふふふ。アタシを誰だと思っているのよ。フクシア。アンタの姉なのよ。合格しているに決まっているじゃない! まぁ、あくまで自己採点だけれど」
「ほんとに!?」
「ほんとほんと」
「いやったぁ!!」
嬉々とした声を上げた。
胸の中からエネルギーが溢れる気分だった。
「当然でしょ。それより、薬術師の試験は大丈夫なの? いけそう?」
「うん。きっといけるよ。問題は——」
私と姉は目を合わせる。
「そうね。問題は——」
「「最終日のレンジャー試験!!」」
そう。
一番厳しいのはこのレンジャー試験。
何故かと言うと、知識を主に重要視される医術や薬術、技術師とは異なり、知識、体力、技術全てを用いなくてはならない。
そのため、レンジャーとハンターのような、常に自分の命に関わり、瞬時の判断力と危機管理能力が試される職は、実践の試験が用意される。
それも、命を落とす危険があるような事をするのだ。
それらについては後々述べるとするが————
レンジャーとハンターは基礎から応用、知識、体力、技術と様々な能力を一つの試験で試される。
なので、その難易度は国家試験の中でも群を抜いていると言われている。
「それでも、全力を尽くすしかないよ。おねぇ」
「そうね。私たちにできる事はそれだけだものね。取り敢えず、今日は寝ましょう。フクシア」
「そうだね」
そう。
先のことをどう考えても、その時にならないと分からないのだから——
私は、ゴシック風な黒と白のドレス(寝巻き)に着替えてベッドに入って目を瞑った。
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