第13話 大会当日(1日目) 朝

昨日は3人で夕飯を食べに行った後、それぞれの部屋に戻ってすぐに寝た。


 私とおねぇは本来二つのベッドで二人寝るはずだった。

 けれど、そのうちの一つがルン・マイクという名の患者さんに占拠されている。


 なので、もう一つのベッドで私とおねぇは一緒に寝た。


 今日は私はフリーだけど、おねぇは国家医術師の試験がある。

 その間にもう少しこの街の事を図書館で調べたり、街の風景を調べてみようと思う。


「おねぇ、今日はテストだよね?」

 髪留めを後ろ髪に留めながら答える。

「ええ、そうよ」

「何時から?」

「うーんと。10時からだね。アタシ、歩いていくから。多分、18時くらいに終わるから。場所はアレクシア大聖堂であるらしいよ。ここからだと、大体30分くらいかな」

「ふむふむ。なるほど」

 頷きながら彼女の話を聞く。


「ということは、9時30分くらいに出るの?」

「そうだね。もうちょっと早く出ようかなって考えてる」

「よし、これくらいかな」と、髪を後ろに束ねる。


「ねね、フクシア。この髪型どう思う?」

 おねぇは、自慢げに後ろで束ねた髪をフリフリさせながら言った。

 俗に言うポニーテールというやつだ。


「ど、どう思うって言われても……まぁ、似合っているんじゃない? 可愛いと思う」

「む、なんか煮え切らないな。その口。そんな生意気なフクシアの髪はこうしてやるぅ!!」

「ちょっ!? おねぇ!? 何してん!!」


 と、反抗する間もなく、おねぇは私の髪を弄くり回していく。

 ロングストレートの髪から変貌していく私の銀髪。

 出来上がった髪型は――――


「うんうん。似合う似合う。フクシアにピッタリの髪型。どうどう? 似合ってるでしょ? 可愛いでしょ」

 口で手を押さえながら言われても、あまり説得力無いんだけどな。


 そう思いながらも鏡に写る自分を見る。

 元々、瑠璃色のリボンで結ばれた左右二つの白銀の髪。

 背中まで垂れる二つの銀髪は、天の川のような幻想的でミステリアスな輝きを放っている。


 幼児のような小さな顔――。

 空色の透明感のある瞳――。

 桜色の小さな唇——。


 加えて、フリルをこれ程かと言いたい程にあしらった、黒を基調としたゴシック式のドレス(寝巻き)を着ている私の姿がそこにあった。


 く……


 相変わらずの幼児体型な自分に歯を軋きしませる。

 何とかならないのかこのひ弱そうな体。


「はぁ」

 心の中で溜息を吐く。


「どうしたの? フクシア? 可愛いよ。その服装」

「いや、可愛いとかそういうんじゃなくてさ。おねぇ、気にならないの? この体型。私、15歳なんだよ。もう少し色々と成長しててもいいと思わない?」

 自分の胸に両手を当てる。



 スカスカ。

 うぐ……。


 こう言っちゃなんだけど、私は平均の人の身長よりも低いと思う。

 ちなみに、平均の人の身長が155センチメートルなのに対して、私の身長は150センチメートルだ。

 うん。

 低い。


 おねぇは少し眉を顰ひそめる。

「ま、まぁ、良いじゃない。アタシもそうなんだしさ。それに、可愛い服とか着れるから良いじゃない」

「む、まぁ、そうなんだけどさ」

 まぁ、こればかりは遺伝なのかもしれないなぁ。


 どうしようもない現実に肩を落とす。

「それよりも、ご飯に行かないと。朝ごはんを食べていないから、そんなネガティブ思考になるんだよ。フクシア」

「そ、そんなことないし――」

 私とおねぇは着替えて、下のバイキングに行く。


「お、美味しー♪」

「でしょ?」

 とても美味しい!

 ほっぺたが落ちそう!

 という所まではいかないけれど、そこいらのコンビニのような所よりかはずっと美味しい。


「ほら、機嫌が直った」

「ん? なんか言った?」

「いや、なんも」

 ホントかなぁ?

 気になるけど、聞かないことにした。


 お皿を見比べてみる。

 私は、基本肉中心に。

 おねぇは野菜と炭水化物系を中心の物を取っていた。


 例え双子でも、食事の趣味趣向はやはり違うか。

「なんでおねぇの食事って野菜ばっかりなの? もっとお肉取らなくちゃ。お肉! 魔力を使うでしょ?」

「魔力を使うから炭水化物を取っているのよ。もちろん、お肉は必要だけど、魚の方がアタシは好きなのよ。体力バカのアンタとは違うの」

「むぅ。私は別に体力馬鹿じゃないし」

 ザクッ、とフォークをお肉に突き刺して口の中へ入れる。


 肉片を噛む。

 ジュワァ、と肉汁が口の中に溢れ出す。

「っ……!!」

 思わず、両足をパタパタさせて両手で頬を押さえる。


「そんなに美味しいの?」

「うん。美味しいよ! ま、ローラー夫妻が狩ったジクルド肉(鹿の肉のようなもの)には適わないけどね」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉ!? おねぇ!?」

 カミリアは口の中へお肉を放り込む。


「あ、ほんとだ。美味しい!」

「人の物を勝手に取らないでよ!」

 ちょい怒な私に彼女が差し出したものは——

「ほれ、あげる」

 野菜だった。


「要らないわよ。こんな草!」

「なにおっ! 野菜を馬鹿にしてはいけないよフクシア。バランス良く栄養を摂らないと」

 ほくそ笑む私の姉。

「そういう問題じゃないわよ! お肉一欠片と野菜の葉1枚じゃ元が取れないって言ってるのよ!」


 姉妹の熱が加速していく。

 その熱は時が経つにつれて加速していき、今にも暴発して爆発しそうである。

 火花を散らし合う二人。

 いつその火花が引火するか分からない。

 ——一触即発の危機!!


「あ、そうだ」

 先に啖呵を切ったのは姉のカミリアだ。

「もうそろそろ行かないと」

「そ、そうね。行ってらっしゃい」

 先程の睨み合いは何処へやら。


 こんな言い合いなど、彼女達の間では日常茶番事なのだ。

 姉のカミリアはカバンを持って目的地へと歩いて行った。


 私はそれを見送って、

「さて、探検でもしようかな」

 ニヤリ、と目を細める。


 胸の高まりが収まらない。

 取り敢えず、ブラブラしてみるかな。

 思わぬ出会いが私を待っている!(はず!)

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