第11話 魔眼と手術

 私達3人は、私とおねぇの借りている部屋に着いた。

「ほら、まずはベッドに眠らせて安静にさせよう」

「うん。それがいいね」


 私は、そっと彼を背中から降ろしてベットに移動させた。

「あ、ありがとう」

 その際に金髪の男の子が運ぶのに手伝ってくれた。

「当然ですよ。僕も彼を助けたい気持ちは同じですから」

 彼は、微笑んだ。


 彼のオーラに相応しい爽やかな、森の中にいるかのような笑顔——

 きっと、この子は良い環境で育ったのだろう。


 仕草、表情、顔、体型——

 それら全てが彼の育ちの良さを表していた。

 育ちが良いと言っても、『裕福』な家庭かどうかは別問題だ。


 私に言わせれば、所謂『育ちがいい子』というのは、倫理観があり、食事をする時のマナーもきちんとしていて、相手や上司に心遣いをする人のことだと思う。


 勘違いをしないで欲しいのだが、仮に上司が不正を働いた際には、私はすかさずその不正を暴き、その国の準ずる法によってその罪を償わせる。

 それは、例え家族であってもだ。

 でも、それが私の「正義」に合っていないのなら。

 それが私の「倫理」に合っていないのなら、その法に問題があるのなら、私の独自の判断をせざるを得ないであろう。


 私にとって「良い子」というのは、自らの「正義」を貫くことも含まれると私は思う。

 他人の情動、感情を察して行動すること、常識があること、自らの「正義」を貫くの3要素があると私は考えている。

 彼にはその3つの力が備わっていると私は見た。


 彼は男の人のポケットを弄って、

「あ、ありましたよ。国民票です。名前はルン・マイク。アクロポリス出身です」

「そうね」


 おねぇは彼の顔や体を観察する。

 瞳孔、動脈、肌の色等々。

「うーん。外見には何の異常も無いようね」

 おねぇは目を瞑り、目を再び開ける――――


 すると、彼女の瞳の中には、ピンク色の4つの小さな球が現われた。

「透視眼」――――

 これがおねぇの魔眼の名前らしい。


 あらゆるものを透視する能力を持つ魔眼。

 機械の構造や人の魔力細胞、個々の魔力の性質も見分ける事が出来る。

「ねぇ、どうなの? おねぇ」

 おねぇは、ベッドで眠る患者さんの全身を見ながら、

「そうねぇ。かなり重病かもしれない。細胞に――――いや、体中に虫がいるわ。パラサイトよ。んー、なんだろう。形からしてグラチエムだと思う。でも、グラチウムは人の肉を食い、自らの血肉とするパラサイト。これは――――」

 おねぇは目を見張る。


「どうしたの? おねぇ」

「これは、おかしいわ。魔術を纏っているのよ。このグラチウム。本来、魔力細胞を持つのは人、魔獣、その他人外、召還魔術から呼び寄せる天使や精霊などの上位的存在だけ。唯のパラサイトや虫、獣が魔力細胞を持つことは不可能のはず。なんらかの工作をしたとしか考えられない」

「それってつまり、誰かが意図的にこの人の体の中にグラチウムを入れたってこと?」

「ええ。そういうことよ」

 一体何のために?


 その意図が分からない。

 人体実験?

 他に何らかの意図があるのかな。


「取り敢えず、この汚染された細胞を取り出したい所だけど――――」

「だけど・・・・・・何?」

 おねぇの言い方の歯切れが悪い。


 おねぇは眉を顰めて、

「心臓とその付近の細胞が汚染されているのよ。心臓はほんの一部分だけだけど、その周囲の汚染が激しいわ」

「おねぇ、何とかできる?」

「難しいけど、何とかやってみるわ」

 おねぇは、鞄の中から白衣とマスク、医療用の手袋を取り出して身に付ける。


「2人とも下がってて」

「離れましょう。貴方はこっちよ」

「あ、はい」

 私はエリックの手を握って、扉の前まで移動した。

「貴方、血は大丈夫?」

「い、いえ。苦手です」

「それなら、今から起ることをあまり目にしない方が良いわよ。貴方は後ろを向いていた方が良いと思うわ」


 彼は頷いて、扉と目を合わす。

「それじゃ、始めるわよ」

 おねぇは始めに、ルン・マイクさんの身に付けている物全てを外して全裸にした。


 おねぇは、金色の髪を後に括って白い帽子を被る。

「術式展開」

 掌を上に向けて結界魔術式を展開する――――青い幾何学模様をした円が掌の上に現われる。

「術式発動」

 すると、その円は部屋中を覆い尽くした。


 右手を握り締めて、人差し指と中指だけを伸ばす。

「ソード」

 おねぇがそう呪文を唱えると、おねぇの手を魔力で構成された、水色をした鋭利なナイフが包み込んだ。


 右手を彼の腹に入れる。

 そこからは匠の技であった。


 言ってみれば、

 魚の料理人――――。

 精肉屋のご主人――――。

 ドイツの時計職人――――。

 丁寧でかつ、正確なナイフの切れ込みだ。

 とても、15歳には見えない。


 私はおねぇの手術の様子を見ながら、おねぇと師匠がお昼になると必ず朝狩った動物を捌いたり、ゾンビやアンデッドで手術をしたりする様子を思い出していた。

 まぁ、ゾンビやアンデッドの件については、倫理的にどうなんだと思うけれど。

 それでも、師匠はとても優れた師であったのだと私は思う。


「出来たよ」

 たった、30分程度で手術は終わった。

 おねぇは、魔術で衣服や手袋に付着した血を洗い流しながら言った。

「ど、どうなの? 成功したの?」

「一応はね。だけど、まだ感染はしてはいないけど、しかかっている細胞も含めたらかなりの数でさ。完全に観戦しているものは全部搾取したけど」

「なるほどね」

 ここでやっと私のお出ましってわけね。


「おねぇ、その感染した魔力細胞と健康な魔力細胞は取ってある?」

「もちろんよ」

 おねぇはそう言って、手のひらサイズの瓶を取り出した。

「こっちの右側の紫色に染色されているのが感染された魔力細胞。見たら分かるけど、左側の方の透明な魔力細胞が健康な魔力細胞」

「分かった。ありがとう。おねぇ」

 よし。

 これから実験に取りかかるぞ。


 え?

 テスト勉強しろって?

 だ、ダイジョウブダイジョウブ。

 なんとかなるよ(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る