第8話 道端の病人

「私たちの所にもお祭りはあったけど、こんなに賑やかじゃなかったよね。おねぇ」

「ああ。それに、アタシ達のところはこんなに色鮮やかな装飾じゃなかったもんね」

「うん。祭りはあったけどね」

文化と経済の格差を感じた。


如何にも、高価そうな装飾が街のあちこちにされてある。

これが都市と地方の違いなのかと思い知らされると同時に、父と母を現世に生き返らせる事が出来たら、ここに住めば家計が安定するかもしれないという考えが私の頭を過ぎった。


そう。

実質どうなのか分からないけれど、みんな幸せそうな顔をしている。

私のいた所ではそうでは無かった。


確かに、幸せそうな人もいた。

お金が全てではない。

少ないお金で生活をしていても、幸せそうな夫婦はいた。

でも、お金がある方が——経済的に余裕のある人の方が幸せの数値が高い事は確かだと思う。


お金に余裕があることは、ある程度気持ちにも余裕が出来る。

頭の中にある負担を減らす事が出来る。


お金、時間、心、体——

何かしら余裕がある人は、それについて頭の中に入れなくていいわけだ。

その『余裕』こそが『幸せ』になるカギなのかもしれないと私は思う。


この街にいる人達が幸せそうに見えるのも、きっとそのせいなのだろう。


「おっ。見て、フクシア。あそこのお店のお菓子美味しそうじゃない?」

おねぇが指さした方向を見てみると、そこにはなんとなんと!! 美味しそうなお菓子屋さんがあるではありませんか!


「う、うわぁ。美味しそう」

「でしょでしょ! 行ってみない?」

ちらり、とルーサさんの顔を伺う。

「良いわよ。私も丁度そこに行きたいと思ってたし」

それから私達3人は、お菓子を買ったり食べたり、服を見たり(買うお金が無い)して2時間を潰した。


私たちが泊まるホテルは、ビジネスホテルのような、いかにも安そうな所だった。

ルーサさんはホテルの前まで私たちを案内してくれた。

「ここが貴方達が予約しているホテルなのね」

「はい。短い間でしたが、ありがとうございました」

ルーサさんは右手を出して握手を求めて来た。


それに私達は応じてルーサさんと握手をする。

「こちらこそありがとう。また、会えたらよろしくね」

「ええ、こちらこそです」

「カミリアちゃんもね」

「はい」


握手をし終わって、バイバイと帰ろうと私達に背を向けたけど、振り返って、

「あ、そうだ。1つ、いい事を教えてあげる」

彼女は、新しいおもちゃを見つけた子供のような、無邪気な笑顔を浮かべていた。

「今年の『国家試験』は何か起こりそうよ」


「何かって何ですか?」

「実は私ね、今、ある組織を個人的な興味で追っているのよ。存在しているのかしていないのか分からない都市伝説的な存在で実態はほとんど分かっていないんだけど、ある確かな筋からその組織に怪しい動きがあるって。それはこのアクロポリスに向かっているということらしいのよ」

目を細めて、探偵っぽく人差し指を立ててみせて、

「この時期に狙うとしたらこの『国家試験週間』の時しかないわ。だから、これは忠告よ。今回の試験、テスト以外にも色々気をつけていた方がいいわ」


彼女は言葉を続ける。

「試験会場には警察がいるから大丈夫だとは思うけどね。それじゃ、あなた達とはまた会えるような気がするわ」

彼女は、杖を突きながら自分の家へと帰って行った。


私達もホテルの中に入る。

中は外見を裏切らなかった。

中は、The・ビジネスホテルですよと言った感じのカジュアルな雰囲気のところだった。


ホテルに入ること自体初めてなものだから緊張してしまう。

「おねぇ、私緊張しちゃうよ」

「ちょっと、アタシも緊張してんだから余計に緊張するようなこと言わないでよね!」

カウンターらしき所まで行って師匠に教えて貰った事を復唱する。


「あ、あの。14時に予約したロジャー・カミリアなんですけど」

「あ、チェックインですね」

その後、荷物とか預けさせられて、部屋に案内された。


扉を開けた傍の右側には扉があった。

浴場とトイレ用の空間が用意されているらしい。


その部屋の反対側には貴重品を入れる金庫とクローゼットが用意されていた。

奥には、5畳ほどの部屋の右端に2つのベットが並列に並んでいる。

左側には木材で出来た長机、手前には小型の冷蔵庫が付いていた(もちろん、電気ではなく、魔力で動いている)。


まぁ、普通のビジネスホテルなのだが、私達姉妹にとって宿泊経験は始めてなので、興奮しているわけだ。

心が踊っている訳だ。


「もふもふベットだ~!!」

ばふん、と私はベットにダイブした。

「もう、フクシアは。まだ、夕飯まで時間があるけどそれまでどうする?」

「ん~、どうしようかな。夕飯まで街の中を探索しようかな」

「それじゃ、アタシは荷物を見ておくね」


「えっ⁉︎ おねぇ、一緒に行かないの⁉︎」

「アタシは良いよ。アタシは明日テストがあるし。その準備もしないといけないし」

「そっか。明日から『国家試験週間』が始まるんだもんね。明日、おねぇの『医術師』の試験、明明後日の3日目は私の『薬術師』の試験そして」

「最終日の7日目は『レンジャー』の試験。これが無いと国が指定する要注意指定モンスターや立ち入りが禁止されている島などの【危険区域】に入ることが出来ない。だから、何としてでもこの試験にだけは合格しないといけない!」

おねぇは、ギリリと歯ぎしりをさせて空を睨みつける。


彼女の細められた瞳からは、ある1つの決意、憎しみ、復讐心が感じられる。

「大丈夫だよ。おねぇ」

私もおねぇと同じ気持ちだ。

自分の親を傷付けられて、殺されて、幼い私達を2人だけにしたあ・の・悪・魔・を許すことが出来ない。


許せるわけが無い。

自分たちをこんな事にしたアイツを殺すまでは。

見つけるまでは死んでも死にきれない。

いや、死んでたまるか!


ふつふつと心の中が沸騰する。

この気持ちを私達はどこにもぶつけることが出来ない。

拳に力が無意識のうちに込もる。


はぁ、何年間私達はこの気持ちを、想いを抱えなければならないのだろう。

これは、【呪い】だ。


私達は『親を助ける』、『悪魔に復讐させる』という呪いを掛けられているのだ。

死ぬまで、それを達成させるまでその呪いが解くことは決して無い。

無駄なのだ。


でも、それは今に始まった事じゃない。

今まで向き合ってきたんだ。

それに、私は1人じゃない。

おねぇがいる。

だから、大丈夫だ。


私達は姉妹なのだから。

共に助け合って生きていけばいい。

よし、グジグジタイムは終わり!

切り替えていこう!


隣のベットで座っているおねぇに微笑むと、おねぇは頭の上に?を浮かべて頭を傾げる。

「どうしたの? カミリア」

「いや、なんでもないよ。おねぇ」

ぴょこん、とベットから降りて財布と最低限の貴重品、護身用具を持って扉の前まで近づいて、


「それじゃ、おねぇ。私行ってくるね」

「夕飯の7時までには帰ってくるんだよ。いいね」

「分かってるー」

さて、どこに行こうか。

取り敢えず、街の中を適当にぶらぶらしてみるのがいいかな。

街の雰囲気も楽しめるし!!

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