第7話 お祭りと宿泊
「私たちの所にもお祭りはあったけど、こんなに賑やかじゃなかったよね。おねぇ」
「ああ。それに、アタシ達のところはこんなに色鮮やかな装飾じゃなかった」
「うん。祭りはあったけどね」
私は私が住んでいたところと、アクロポリスとの文化と経済の格差を感じざるを得なかった。
だからと言って、それが嫌な訳では無い。
寧ろ、格差があるのは当たり前だと思う。
田舎と都市――
この2つの間にはどうしようもない溝がある。
が、それぞれにいい所、悪い所なあると私は考えている。
言ってみれば、見方の問題だ。
一概に都会がどうの田舎、地方がどうのとは言えないのだ。
周囲を見渡してみる。
高価で洒落た装飾が街のあちこちにされており、私の目には眩しい程だっだ。
美味しそうなオレンジ色の飴玉やホワイトチョコレート等のお菓子も置かれていて、オシャレでもある。
これが都市と地方の違いなのかと思い知らされると同時に、父と母を現世に生き返らせる事が出来たら、ここに住めば家計が安定するかもしれないという考えが私の頭を過ぎった。
しかし、私は頭を左右に振ってその考えを頭の中から消した。
そんな夢物語なお話をしてもしょうがないから。
でも、もしそんな事が現実に出来たのならここに住むのは良いかも知れない。
周囲を見渡してみてもそう思う。
なぜなら、みんな幸せそうな顔をしているからだ。
実際、彼らが自分達を幸せと感じているのかどうかは知らないけれど。
でも、そんな上辺だけの『物』が『幸せ』の全てではないということを私は知っている。
私ももう15歳だ。
だから、本の中が殆どだとはいえ、世の中のことを少しは知っているつもりだ。
確かに、私の村の中にも幸せそうな人はいた。
お金が全てではない。
それくらいは15歳の私でも分かる。
私の住んでいるところに村があったのだけれど、そこに住んでいた老夫婦は、少ないお金で生活をしていたが、とても幸せそうだった。
でも、お金が多い方が良いのか、少ない方が良いとかと聞かれると、多い方が——経済的に余裕のある人の方が幸せの数値が高い事は確かだと思う。
お金に余裕があることは、ある程度気持ちにも余裕が出来る。
頭の中にある負担を減らす事が出来る。
お金、時間、心、体——
何かしら余裕がある人は、それについて頭の中に入れなくていいわけだ。
その『余裕』こそが『幸せ』になるカギなのかもしれないと私は思う。
この街にいる人達が幸せそうに見えるのも、きっとそのせいなのだろう。
「おっ。見て、フクシア。あそこのお店のお菓子美味しそうじゃない?」
幾何学的な美しい紋様がしてある黄金の床の上を歩いていると、おねぇが目をキラキラ輝かせながら、指を指した。
おねぇが指を指した方向を見てみると、そこにはなんとなんと!!
美味しそうなお菓子屋さんがあるではありませんか!
じゅるり——
「う、うわぁ。美味しそう」
そこには様々な色にレコーディングされたお菓子が沢山置いてあった。
「でしょでしょ! 行ってみない?」
ちらり、と私とおねぇはルーサさんの顔を伺う。
彼女は小皺を中心に寄せて、
「良いわよ。私も丁度そこに行きたいと思ってたし。私も小腹が空いていたから」
それから私達3人は、お菓子を買ったり食べたり、服を見たり(買うお金が無いので、見ただけだったけれど)して2時間を潰した。
私たちが泊まるホテルは、ビジネスホテルのような、いかにも安そうな所だった。
ホテルまではルーサさんが私たちを案内してくれた。
「ここが貴方達が予約しているホテルなのね」
「はい。短い間でしたが、ありがとうございました」ルーサさんは右手を出して握手を求めて来た。
それに私達は応じて、ルーサさんと握手をする。
少し、ザラザラしていたけど、とても温かくて大きな手だった。
「こちらこそありがとう。また、会えたらよろしくね」
「ええ、こちらこそです」
「カミリアちゃんもね」
「はい」
握手をし終わって、彼女は帰ろうと私達に背を向けて私たちとは反対の方向に足を向ける。
けど、何か思い出したらしく、振り返って、
「あ、そうだ。1つ、いい事を教えてあげる」
彼女は、新しいおもちゃを見つけた子供のような、無邪気な笑顔を浮かべていた。
「今年の『国家試験』は何か起こりそうよ」
いや、どちらかと言うと不敵な笑いと言う方が正しいのかもしれない。
「何かって何ですか?」
「実は私ね、今、ある組織を個人的な興味で追っているのよ。存在しているのかしていないのか分からない都市伝説的な存在で実態はほとんど分かっていないんだけど、ある確かな筋からその組織に怪しい動きがあるって。それはこのアクロポリスに向かっているということらしいわよ」
彼女は目を細めて、探偵っぽく人差し指を立ててみせて、
「この時期に狙うとしたらこの『国家試験週間』の時しかないわ。だから、これは忠告よ。今回の試験、テスト以外にも色々気をつけていた方がいいわ」
さらに言葉を続ける。
「試験会場には警察がいるから大丈夫だとは思うけどね。それじゃ、あなた達とはまた会えるような気がするわ」
彼女は、杖を突きながら自分の家へと帰って行った。
私達はホテルの中に入る。
ホテルの中は、The・ビジネスホテルですよと言った感じのカジュアルな雰囲気のところだった。
ホテルに入ること自体初めてなものだから緊張してしまう。
「おねぇ、私緊張しちゃうよ」
「ちょっと、アタシも緊張してんだから余計に緊張するようなこと言わないでよね!」
カウンターらしき所まで行って、師匠に教えて貰った事を復唱する。
「あ、あの。14時に予約したロジャー・カミリアなんですけど」
「あ、チェックインですね」
その後、荷物とか預けさせられて、部屋に案内された。
扉を開けた傍の右側には扉があった。
そこの扉を開けると、浴場とトイレ用の空間が広がっていた。
うひょわ~! とても綺麗!
その部屋の反対側には貴重品を入れる金庫とクローゼットが用意されていた。
奥には、5畳ほどの部屋の右端に2つのベットが並列に並んでいる。
左側には木材で出来た長机、手前には小型の冷蔵庫が付いていた(もちろん、電気ではなく、魔力で動いている)。
まぁ、普通のビジネスホテルなのだが、私達姉妹にとって宿泊経験は始めてなので、姉妹揃って興奮している。
心が踊っている訳だ。
飛び跳ねているわけだ。
「もふもふベットだ~!!」
ばふん、とベットにダイブ!
ふわ!
何これ!?
とても気持ちいいんですけど。
まるで、雲の中にいるみたい。
「もう、フクシアは。まだ、夕飯まで時間があるけどそれまでどうする?」
「ん~、どうしようかな。夕飯まで街の中を探索しようかな」
「それじゃ、アタシは荷物を見ておくね」
そう言っておねぇは自分のカバンを開ける。
「えっ⁉︎ おねぇ、一緒に行かないの⁉︎」
「アタシは良いよ。アタシは明日テストがあるし。その準備もしないといけないし」
「そっか。明日から『国家試験週間』が始まるんだもんね。明日、おねぇの『医術師』の試験、明明後日の3日目は私の『薬術師』の試験そして」
「最終日の7日目は『レンジャー』の試験。これが無いと国が指定する要注意指定モンスターや立ち入りが禁止されている島などの【危険区域】に入ることが出来ない。だから、何としてでもこの試験にだけは合格しないといけない!」
おねぇは、ギリリと歯ぎしりをさせて空を睨みつける。
彼女の細められた瞳からは、ある1つの決意、憎しみ、復讐心が感じられる。
「大丈夫だよ。おねぇ」
私もおねぇと同じ気持ちだ。
自分の親を傷付けられて、殺されて、幼い私達を2人だけにしたあ・の・悪・魔・を許すことが出来ない。
許せるわけが無い。
自分たちをこんな事にしたアイツを殺すまでは。
見つけるまでは死んでも死にきれない。
いや、死んでたまるか!
ふつふつと心の中が沸騰する。
この気持ちを私達はどこにもぶつけることが出来ない。
拳に力が無意識のうちに入る。
はぁ、何年間私達はこの気持ちを、想いを抱えなければならないのだろう。
これは、【呪い】だ。
私たち姉妹にとっての呪いなのだ。
私達は『親を助ける』、『悪魔に復讐させる』という呪いを掛けられているのだ。
死ぬまで、それを達成させるまでその呪いが解くことは決して無い。
無駄なのだ。
でも、それは今に始まった事じゃない。
今まで向き合ってきたんだ。
それに、私は1人じゃない。
おねぇがいる。
だから、きっと大丈夫だ。
私達は姉妹なのだから。
共に助け合って生きていけばいい。
よし、グジグジタイムは終わり!
切り替えていこう!
隣のベットで座っているおねぇに微笑むと、おねぇは頭の上に?マークを浮かべて頭を傾げる。
「どうしたの? カミリア」
「いや、なんでもないよ。おねぇ」
ぴょこん、とベットから降りて財布と最低限の貴重品、護身用具を持って、扉の取手とってをつかんで、
「それじゃ、おねぇ。私行ってくるね」
「夕飯の7時までには帰ってくるんだよ。いいね」
「分かってるー!」
さて、どこに行こうかな。
お菓子も買いたいし、服も見たい。
美味しそうなお店をリサーチしに行くのもいいかもしれない。
探検だ♪ 探検だ♪
取り敢えず、街の中を適当にぶらぶらしてみるのがいいのかも。
街の雰囲気も楽しめるし!
あー、楽しみだなぁ。
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