第6話 首都アクロポリス

「なるほど。そういうことがあったんですね」

私とおねぇは、マヌ・ルーサさんのお話を熱心に聞いていた。


「ネクロマンサーと言うと、死者の魂を蘇らしてくれて、死んだ大切な人とお話が出来たり、今では私達の生活と身近な関係にあるけれど、昔は怪しいカルト集団だったからね。いや、実際殺人や殺戮をもろともしない奴らだった。でも、そんな奴らは今はもういない。壊滅したからね。平和な世の中になったよ」

「私達、ネクロマンサーの人達をまだ見たことが無いんですよね」

「大丈夫。アクロポリスには絶対にいるから。まぁ、街に住んでいるネクロマンサーなんて知れているけど」

 ルーサさんはふぅ、と溜息を吐いてから窓の景色を懐かしそうに眺める。


「見てごらん。あれがアクロポリスだよ。お嬢ちゃん達」

私とおねぇは、窓越しに外の景色を見た。

 すると、国1つが色とりどりに飾られ、1つの芸術作品と化していた。


「おぉ~!!」

「これは、凄いよ。おねぇ」


 国全体でお祭り騒ぎ。

国全体でお祭り1色に染まっていた。

これだけで明日から始まる『国家試験週間』がこの国でどれだけ重要なイベントかが伝わって来た。


「遂に、遂に来たよ。首都だよ!! あの首都アクロポリスだよ。こんな都会に来るの私始めて!」

「アタシもだよ。ずっと田舎にいたからね私達。しょうがないよ。だけど、アタシ達街のことなんて1つも知らないよ。絶対に道に迷うよ。どうするの?」

 そうだ。

 私達はアクロポリスに行くのは始めてなのだ。


 地図の見方くらいは分かるけど、なんせ、私達の住んでいた所は田舎だったから都会とは比べものにならないほど複雑な作りになっていることは確かだろう。

 それに、地図を見たことがあると言っても、それは田舎での話――――。

 都会の地図は技術の発展で私の知っている地図と違う物になっているのかも知れない。


「それじゃ、私が案内してあげよう」

 なんと、ルーサーさんが案内してくれるというのだ。

「えっ!? 本当に良いんですか!?」

「ええ。もちろんよ。私の生まれ故郷だし、なによりも自分の故郷について知ってもらうのはとても嬉しいからね」

 ルーサーさんはにへらと笑う。

 顔に皺が寄って愛想のいい表情になる。


「それじゃ、お願いしようかな。ねぇ、おねぇ」

「そうだね。折角だし、お願いしようか」

 空中列車は駅に止まる。


 電車内にアナウンスが流れる。

『終点アクロポリス。終点アクロポリス――――』

 電車の外に出ると、少し鉄臭いような、ガス臭いような、水道の水のような臭いが鼻に付く。

「これが都会の匂いかぁ」

 初めての都会の香りに思わず、大きく深呼吸をしてしまう。


「ふふ。こんなのまだまだよ。田舎にはないものがここには沢山あるんだから。田舎も私は好きだけどね。でも、田舎にはない良さが都会にはあるものよ」

どうやら彼女、退職後は田舎で密かに暮らしているらしい。


アクロポリスの駅内は人も私達がいる所とは桁違いに多かった。

ある1つの方向へ向かう人の群れはまるで、イワシの大群の様だった。


ルーサーについて行く。

鉄の手すりが付いているプラットホームから階段を上がって改札に出た。

改札口は、長いトンネルのようになっていた。


見たことの無い黄金の世界——。

天井は、ガラス張りで包まれており、駅内に存在するお店も美味しそうな食べ物やお土産が置かれてあってまるで御伽の国にいるような気分だ。


「す、凄い所ですね。ここ」

「でしょう? 色んな国の文化がこのアクロポリスには集まって来るから、文化と文化が交差して独自の文化を作り上げているのよ。技術も世界の中でも最高峰よ。まぁ、当たり前といえば当たり前だけどね。だけど、この国の1番凄いところはそこじゃないわ」

私達は、改札を通り過ぎて駅のホームを出る。


「このアクロポリスの1番凄いところは、魔術よ。アクロポリスの技術は、魔術を応用した『魔法科学』が1番発達しているのよ」

世界が拓ける——


目の前は緑で一杯だった。

しかし、それは植物ではない。

『ナノプラントプログラム』——最新のナノテクノロジーに魔法技術で植物の効用を維持する技術だ。


つまり、最新の科学技術に光合成、自己複製の技術を魔法技術を用いて応用する。

この技術はもはや、アクロポリス独自の最新かつ最高のオリジナルの技術である。

この『ナノプラントプログラム』の製造方法、プログラム方法は非公開を貫き通している。


それ程、この技術は世界に影響を与えるとアクロポリスの官僚、技術者は考えている証拠である。

この技術は恐らく永遠に公開されることはないであろう。


しかし、そのお陰でアクロポリスは独自の社会、文化を構築する事が出来た。

『ナノプラントプログラム』あってこそのアクロポリスである。

この技術があるからこそ、現在進行形でこの街は進化しているのだ。


プログラムに従って自動的に進化、発展していく街『アクロポリス』。

それを目の当たりにすると、その技術の高さをヒシヒシと感じることが出来た。


そこはまさに未来都市と名付けるのに相応しい場所であった。

さすが、世界最高峰の『魔法技術』を誇る都市である。


空中道路を走る魔法使い見習い達、都市ならではの芸術家達が構想した高層ビル。

街の中を歩くエルフやドワーフ、獣人など様々な人種の人々。


世界でも移住国家としても名高いアクロポリス。

異国の文化、人種、思想、技術——

様々なモノが交差し、複雑に絡み合い、1つのあるべき終着点へと辿り着こうしている。

それがいつなのかは分からないが、今では無い。


しかし、この街は着実にその終着点までへの道のりを辿っていた。


ルーサーさんは街の中へ足を踏み入れ、人の中に入って行く。

私達もついて行く。


街の中は列車の窓の中から見た光景のように色鮮やかで、キラキラと光っていて、虹の中にいるかのような幻想的な風景だった。


7色の蛍光色をした飾りが街の中に溢れている。

人が入りそうな程の泡が空中に浮かんでいたり、店の前では、透明なクリスタルが蛍光を発していたり、と科学と魔術が交差する街アクロポリス。


この場所で何かとても大切なものが見つけそうな、見つかりそうな気が私はしていた。

高揚感に駆られて気が高ぶっているだけかもしれないけど、これから起こる出来事を私は楽しみに感じていた。


テストだからと気構えることは無い。

これから始まる1週間は世界でも有名な『国家試験週間』なのだ。

世界の中でも大都市中の大都市が総出で上げる祭りなのだ。

この時を楽しまずにいつ楽しむというのだろう。


そう思うと、自然と口の端が上がった

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