第7話初クエスト

 俺は家に帰ってすぐにクエストを始めようと決意した。


 学校では特に何もなかったが、今後牧原にボコされるのも考慮して少し強化していきたいと思った次第だ。


 魔力の扱いも少しは慣れたし、初級クエストをこなすことぐらいできるだろう。


「エマちゃーん」


 俺はスマホに話しかけてエマちゃんを昨日の夜ぶりに起こす。


「はいはーい!どうしました?」


「俺初級のクエストを受けたいんだけどー。あ、クエストって初級とかって分け方であってる?」


 S&F《ソード&ファンタジー》ではクエストの分け方はこんな感じだった。これに加えてさらに、星レベルで三段階で分けられていた。


 このクエストも同じように分けられていると俺は踏んでいた。


「そうですよ!初級、中級、上級、超級と分けられます。それに加えて星も付きます。多分それはゲームをやっているカケルさんが一番わかっていますよね?」


「ああ。それで、初心者向けの優しい簡単なクエストはあるか?」


 俺はクエストを受けると言っても、最初から調子に乗って少しレベルの高いクエストを受けたりはしない。堅実に着実に実力を肥やしていくつもりだ。


「もちろんありますけど、初期ステータスがかなり高いカケルさんには簡単過ぎるかもしれません」


 このエマちゃんの話を信用するなら、もうちょっと上げてもいいかなとは思う。別に信用していないわけじゃないが特別信じているわけでもない。


 エマちゃんのセリフはあくまで俺が人並みに動けて戦えるという前提を踏まえて話しているはずだ。俺はこれまで喧嘩とかで殴り合いをしたことはない。だからあまり戦闘は得意じゃないと思う。


 でも魔力を少しは使いこなせるようになっている。ここはエマちゃんのオススメに乗るのも悪くは無いか?


「エマちゃん、クエストから逃げ出すのはありか?」


「相手から逃げ切れるならいいですけど、逃げられない場合はやられちゃいます。逃げ出して特にペナルティなどはありません」


 ペナルティがないなら受けても構わないか?逃げ足にはそこそこ自身がつく程度には足に魔力を送って走れるようになった。かなり速いと思う。


「じゃあ、エマちゃんオススメのクエストで頼もうかな」


 俺は不利な状況になったらいつでも逃げ切ってやる。


「わかりました!私がオススメするクエストはですねー」


 俺のスマホの中でエマちゃんは勝手に画面を動かす。エマちゃんの短い足でスクロールする様子を眺めていると、あるクエストで手を止めた。


「これがオススメです!中級星1、マックスカンガルーの討伐です」


 いきなり中級クエストだと!?


「おいおい待ってよエマちゃん。俺は確かに才能があって天才なぼっちかもしれないが」


「私はそうは思いません」


「ならおかしいだろ!?なんでいきなり中級なんだよ!せめて初級を選ばない!?」


「だって私に任せると言ったのはカケルさんじゃないですか?私が思った通りにしましたよ?それにクエストは受けてもすぐにやめることができます。これは倒して報酬を得るためのシステムでしかないので」


 まあ確かにやめられるのなら問題は特にないな、うん。


 少しヒステリックになってしまったが、ポジティブに捉えよう。


 まず、エマちゃんは俺の実力を中級程度と思っている。これはいいことだろう。それほどのステータスだということだ。このハリネズミがAIなのか、それとも人間が話しているのか、はたまたこれに意思が存在しているのかは全くわからないが、それでもこのハリネズミは俺を評価している。それに間違いはない。


 だから、忠告通り俺が戦ってもあまり問題がないはず。


「私はこれでも低く見積もったつもりです。本当なら中級星3を勧めたいところなんですけど、今みたいな反応をすると思って星1にしたんです。そしたらまさかそれでもこんな反応するとは。あまり自分のステータスの高さがわかってないんですね。まあ戦ってみればわかると思うので、初級を受けて確認するのも一つの手です。ですが、時間は有限です。早く強くなりたいなら、やはり中級をオススメします」


 ・・・・・・彼女なりにかなり考えてくれているのがわかった。


 あまりの言葉攻めで俺は思わず納得するしかなかった。


 とは言っても、やはり初心者であることは変わりない。格ゲーでコマンド操作を説明書で見たあとさらにネットでコンボを確認するように、俺はクエストについての情報が欲しい。


「わかったよ。中級クエスト受ける。エマちゃん、クエストの詳細は見ることができるかな?」


「もちろんです!ちゃんと詳細を見て安全にいきましょう!」


 クエストの詳細をスクロールして見る。


 マックスカンガルーというのは、文字通りカンガルーの形をしたモンスターのようだ。


 だが、画像を見ると見た目はカンガループラス腕が四本であるとキモイ形を取っている。


 マックスカンガルーの得意技はマックスジャンプ、めちゃくちゃ速いジャンプとしか書かれていない。さらに攻撃力がとても高く、ボクシングスタイルのカンガルーらしい。


 対して弱点はお腹。お腹を殴られたり切られたりするともがき苦しむと書かれていた。とても怖い。


 見た感じだと、俺とかなり相性が悪いんじゃないかと予想できる。


 だって、速いし攻撃力が高いんだろ?俺ともしスピードが同じだったら防御力が低い俺が不利な可能性がある。


 そしてボクシングスタイルときた。俺も今は近接戦闘しかできない。武器とか持ってないから相手との距離を置いて戦うことができない。


「本当にこれが俺へのオススメなのか?」


「はい!私の目に狂いはないはずです!」


 そうなのか、狂っていないなら安心できるんだが、いかんせんエマちゃんを信じてクエストに行った経験がないからなぁ。


「まあ行ってみるか」




 詳細に生息場所まで書かれていたので移動した。


 街中でモンスターなんて見かけたことがない俺だったが、詳細によるとモンスターは地球という世界にはいないらしい。


 じゃあどこにいるんだということなんだが、この世界と対になる世界、裏世界にしかいないらしい。


 そこの世界は、形はまったくここの世界と同じだが、住む人達、住む生物が全く異なる。


 そこの世界への行き方は、手に魔力をこめ、スマホで電話を使い000と打ち込んで発信ボタンを押す。すると、世界の色は一転し裏世界に到達する。


 その光景に俺は思わず唾を飲み込んだ。夕暮れで少し暗くなっていた空が、突如空気が澄んで朝日が昇っていた。


 マックスカンガルーの生息地は商店街付近である。


「カケルさん、ここにいる人達は全て生きた人間です。この中にはあなたと同じ地球出身の人もいます。カケルさんが住んでいるこの町は人が住まない町になっています。ですからここにいる人達は皆モンスターの討伐、もしくはプレイヤーキラーの可能性があります」


「プレイヤーキラーか。S&Fではいなかったが」


 S&Fではそもそもできないのだ。こういう広いマップでモンスターを倒す時には人間には攻撃が当たらないシステムになっていた。だから自分の攻撃が当たることを気にせず敵と戦っていた。


 ここはある意味でリアルということもあり、ちゃんと人間に攻撃が当たるようだな。だからプレイヤーキラーも存在する。周りを簡単に信じてはいけないということか。


「まあ気を抜かずに行くだけだな」


 商店街にはなんとなく、あれがマックスカンガルーだなという生物を発見した。


「あれか、強そうだな」


 商店街を壊したりはしていない。ただなんとなくそこに生息しているだけだった。


 しかも腕が四本だ。とても気持ち悪いという感想しかでない。


「あいつらは何をしているんだ?」


「何をするもありません。あそこには魔力を放出する龍脈というものが存在します。魔力からモンスターは発生しますから。そこに溜まっているだけですよ」


 なるほど、つまりカンガルーの袋の中には子供が存在しないと。あの袋はただの三次元ポケットなんですね。


「龍脈ってのは壊す必要とかあるのか?」


「ないですね。ここでは魔力は資源みたいなものですから。迂闊に壊せば逆に迷惑になりますよ」


 それは気をつけなければならないな。まあ壊し方なんて知らんけど。


 さあ、倒すことに目を背けていたが、そろそろ戦わなきゃな。怖いのは怖いんだが、あまりビビってもしょうがない、先手必勝だ。


 魔力を身体に流してマジックアーツを発動し、魔力の球体を右手に生成しながらマックスカンガルーに直線的に突っ込む。


 適当に魔弾と名付け、生成した魔弾をカンガルーに当てれる距離まで近づいた。


 相手も俺に気づき、伝家の宝刀上の方の腕の右ストレートを繰り出される。


 見える、相手の攻撃がわかった上で避けることができる!


 俺は反応に対して身体が動かないことはよくあった。これが思った通りに動けるということか!


 相手の右ストレートをかわし、空いたお腹に魔弾を当てようとしたが、下の両腕で防がれた。


「クソが!」


 カンガルーはよろめくだけだった。


 だが、格ゲーではコンボが大切だ。自分の得意な型まで持っていき、確実にコンボを決めることが大事。


 次に右足を軸にして周り、左後ろ蹴りを放つ。見事に顔面に当てることができた。


「よしっ」


 右手で魔弾を作り、後ろに回り込んで頭の後ろにぶち込む。


「ギャオオオオ!」


 頭を抱えて倒れたカンガルーを、右拳に魔力を溜めてさらに上からボコボコに殴りつける。


 ずっと殴りつけていると、ビクンビクンっと震え、殴るのをやめるとカンガルーが白目を向いて泡を吹いていた。


「あれ、案外余裕だった?」

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