第6話友達申請

 お、俺のサークルに初めて友達(仮)の名前が載るのか。震えが止まらない。俺は一応サークルを入れていてクラスのグループにも参加しているが誰からも追加なんてされなかった。もちろん俺からもしなかった。


 だから俺の友達欄には妹と両親の名前しか載ってない。友達三人の文字が光ってるぜ。


 んで花色からの友達のお誘いだ。もちろん俺はこんな可愛い子からの友達申請を断るホモではない。


「俺からもよろしく頼む」


「じゃあ追加しましょう!あ、フリフリしますね」


 スマホをフリフリして近場の人と友達になれるなんて、時代は進んでいるなぁ。


 俺の友達欄に、花色千夏の文字が刻まれた。これで友達四人になった!実質一人だけどね!


「ありがとうございます。じゃあ今度困ったら連絡しますね?」


「それはもういいかな、牧原と喧嘩とかしたくないし」


 困った時には必ず牧原がいると勝手に決めつけてしまった。


「ふふっ、暇なときとかに連絡させてもらいます。ではまた!」


「わん!」


 彼女の元気で可愛らしい挨拶にひこまさも反応した。


「ああ、またな」


 俺も軽く手を振って彼女を見送った。


 あぁあああああ!女の子の友達できたよぉおおおおお!


 俺はマジックアーツで身体を強化しながらスキップで帰った。朝食のただの食パンがめちゃくちゃ美味く感じた。




 学校の登校には余裕を持つことができた。


 少しいつもより早く来たせいか人の量の多さにイライラした。それでも靴を履き替えて教室まで歩いていった。


 教室のドアを開けるのは少し勇気が必要だった。別にいつも通り一度見られてすぐに忘れられるという行為をされるだけだが、今回はいつもと違うことがある。


 牧原だ。昨日のことを怒っていないか心配になる。怒っていた場合どんな仕打ちを与えてくるか少しびびってた。


 でも、俺に手を出したら昨日ことを言われるんじゃないかと思うはず。流石に言われても誰も信じないなんて自身はないはずだ、ないよね?


「おはよう彩川君。昨日は妹さんと安全に帰れた?」


 牧原!?お前まさか、そっちから話しかけるなんて!


 俺の予想を早速超えてきた。わざわざなんで聞いてきたんだ?昨日は自分の汚点とも呼べるできごとなはずだろ?お前はプライドが高いはずだ牧原。それは俺の勘違いか?いやそんなはずはない、はずだ。


 自分を信じるならば、牧原は確実に昨日のできごとを隠したいはず。花色に告白まがいのことをして振られた形になっているんだ。俺は少なくとも誰にもバレたいとは思わない。


 考えを一瞬にまとめなきゃ。ここは無難に何も触れずに話す。


「ああ、ありがとう」


 ここは何も触れずに離れるが吉なはず。無駄に発言してボロを出す前にこの場から逃げ出す、戦略的撤退。


 牧原のグループを通り過ぎて窓際後ろの自分の席まで心は急ぎつつ見た目は急いでいるように見えないように歩いた。


 牧原の周りの人間は牧原と俺に何があったのかを聞こうとしている。


 そうだ、こんな状況になるのは牧原にもわかるはず。体裁にこだわる人間にそんなこともわからないわけがない。


 つまり、あいつは意図的にこの状況を作り出した。もしくはこの状況を作り出してでも俺に話しかけたかったかのどちらかだろう。


 俺に話しかけたかったなんてことはないはず。あいつは俺のことが好きでは無いはずだから。嫌われているとは思いたくない。


 ・・・・・・いや、待てよ。俺に話しかけたかったんじゃないか?俺に話しかけて、俺が口を滑らせるかどうかを確かめたかったんじゃないか?


 だとしたら、納得ができるところがある。俺が漏らしてもあいつはこの場を乗り切るほどの自身があったのかもしれない。そうだ、ないなんて言いきれない。それどころかそれがしっくりくる。


 俺の勝手な仮定で適当に考えるなら、あいつは俺に直接言われるより、影でこっそり噂を流されることを嫌ったんだ。


 噂っていうのはどことなく広がっていく。俺から直接言われたら訂正できるかもしれない。しかし噂になるとどうだ?出どころはハッキリしているがむしろそれが嫌なほど効いてくる。例え俺が流したとあいつが唱えたとしよう。あいつの実力をもってしても火の出てるようには見えない俺から噂が出たと言い切ってしまえばそういうことはあったんだろうなという風に見えてしまう。


 それを俺にわざわざ聞いてあらかじめ噂を引き出すか、もしくは引き出さないように牽制したんだ。牧原自身が恐れているがゆえに自分から前に出た。火の証である煙が出る前に、火の元を消しにかかったんだ。


 よほど警戒しているように見える。でも安心してほしい、俺はそもそも言う気がないのだ。


 言ったところで牧原が困るだけで、いいことがあんまりない。確かにイケメンが困るところを見るのは大変嬉しいが、自分の手を下してまでやることではない。俺は自分から他人を困らせたいと思わない。だからぼっちなのだ。違うか、友達いないだけだね。


「おーい、お前ら座れーホームルーム始めるぞー」


 担任の米田が入ってきた。少し顔色が悪そうに見える。恐らく飲み会か合コンで大量に飲んだのだろう。ダメな大人の典型例だ。


 牧原の方をチラ見すると、あちらも一瞬こちらを見ていて、俺はゆっくりと視線を逸らして窓の外を眺めることに徹した。


 そんな気にすんなよ、俺はお前をいじるほどの器じゃないんだから。




「さーて、基礎もそろそろにして初級程度のクエストでもやるか!」

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