第5話魔力スローイング

 ✖✖✖


 いつもは妹に起こされるまで寝ているのだが、今日は自分自身で少し早く起きた。魔力の扱いを練習するためだ。


 今日練習するのは、魔力を手から放つ練習をする。


 俺は遠距離攻撃が苦手だというが、中距離攻撃なら問題ないはず。つまり手から離れる魔法でも全然戦えるはずだ。


 魔力を手に集める。球体を頭に思い浮かべ、イメージを具現化しようとしてみる。


「よし、いい感じだな」


 魔力の乱れなく綺麗な球体になった。これを投げられれば魔法とし使えるな。


 だが、ここで投げてもし物が壊れたら。うん、妹と両親に殺されるな。


 一度魔力をゆっくり自分の中に戻し、外に出る準備をする。


 外はまだ少し暗いが日は昇ってきている。制服に着替えて練習するのは少し邪魔な気がするから、ジャージに着替えることにした。


 ニートぼっちはジャージが大好きなのだ。ジャージには少しのお金をかけるのがエリートぼっち。


 ジャージの上からウインドブレーカーを引き出して着る。一応財布とスマホを持って外に出る。


 スニーカーの靴紐をそこそこの締め付けで結ぶ。家では妹と両親がまだ寝ているので、気持ち静かにドアを閉めた。


 外はかなり寒い。顔をちくちくと刺すような寒さで、行き交う若人は誰も見えなかったが、犬の散歩をする老人一人とすれ違うことはあった。


 俺も老後は、早寝早起きしてこうやってペットの散歩をしたい。あとは美人なお姉さんに飼われたい。


 日常生活の中でも俺は最低限魔力を出すようにしている。魔力を出さないのは身体を鍛える時だけである。


 歩きながら昨日も行った公園を目指す。あそこは人通りが少ない公園なので、こういう魔力トレーニングをするには適していると判断した。


 公園にたどり着いてすぐに周りを確認した。他の人はどうかわからないが、少なくとも俺の魔力は最初見えなかった。だから他の人にも見えないだろう。


 そうなると俺はもし成功したら何もない空間に何もない物を投げて砂場を削ることになる。それはそれで凄いのだが、普通に変な能力を持ってると思われて研究所に通報され、嫌な展開になる気がする。


 例え失敗したとしても、変な行動を取ってる不審者だと思われて警察に通報されてこれもまた嫌な展開になる。


 俺は改めてキョロキョロして周りを見渡した。人通りが少ないのもあって多分誰も見てない。大丈夫だろう多分。


 魔力の球体を作るように魔力を練り込んで作り出して、昨日のように砂場に投げつける。


 手のひらから放れた魔力球は砂場に当たると、魔力が当たった瞬間拡散し砂場がかなりの範囲削れた。


「おお、意外と威力あるな」


 思った以上に砂場が削れた。砂場と俺の距離は二メートルぐらいだが、それでもこの威力はなかなか使えるだろう。


 あとはどのくらいまで届くかを調べてみるか。遠距離攻撃といってもどこまでが遠距離かわからない。


 大体感覚的には教室のドア付近から窓までの距離を取る。その場から魔力の球体を砂場に向かって投げる。


 砂場に着弾して砂場が先ほどのように削れた。


「よしよし。この距離で届くんだな」


 俺はこの距離で届くなら充分な距離な気がするけどなぁ。でもまだ距離が伸びるならぜひ伸ばしておきたい。


 次にさっきの倍の距離を取りスローイングする。


 今度は投げられている途中で魔力球体が四方八方に拡散した。


 二回目と三回目の間の距離で魔力球体を投げても同じような結果になった。


 調べた結果、今の俺の中距離は二回目の四メートル前後だということがわかった。今後、距離を伸ばしていけるなら伸ばしていきたいところだ。


 戦闘には使わないと思うが、魔力の玉でお手玉ができるかも検証してみた。魔力の玉を手から分離し、三つの玉をポンポンとお手玉して遊んだ。玉が消えるのはいつかなぁと暫く遊んで待っていたが、いつになっても消えることはなかった。


 多分分離したものの、手のひらの魔力が結局のところ魔力の玉の魔力供給をしているのだろう。


 少し疲れてスマホで時間を確かめてみると、すでに六時を過ぎていた。今帰ったらゆっくり準備をしてゲームする時間もあるな。


 素晴らしい計画を立てることができたので帰ることにした。


 歩きながらスマホをいじるのは危険なのでポケットにしまって軽くジョギングする感じで家に帰る。


 帰り道では人通りが先ほどより多くなっている。六時台は早起きの一般的な時間なのだろうか。


 ジョギングをしていると前から犬の散歩をしている女の子を見つけた。


「・・・・・・あれ、花色さん?」


「翔君!おはようございます!」


「あ、おはようございます」


 互いにぺこりとお辞儀をして朝の挨拶をする。彼女の礼儀正しさに俺がつられてしまった。


「わん!」


 なんだこの可愛い犬は。このトイプードル、俺にやらたらと懐いてくる。足元にじゃれつくのはとても嬉しいけど、俺の靴は公衆便所にも寄ったことがある凶悪な靴だから離れような?


 俺は犬のあご周辺をこしょこしょしてみる。すると犬は気持ちよさそうにして尻尾まで振っている。


「その子はひこまさって言うんです」


「ひこまさねー。可愛い犬ですね」


「そうなんです!この子はとても可愛いんですよ!」


 犬を褒められて花色はとても嬉しそうだ。


 彼女の服装は昨日みたいな制服ではなく、ジャージ姿である。それでも美少女であることに間違いはない。


「あ、私化粧してないのに恥ずかしい!ごめんなさい!なんか見苦しいもの見せちゃって。あまり見ないでくれると嬉しいです!」


 俺がジロジロ見ていることに気が付かれたようだ。とても謝りたい。


「いや、その、別に可愛いと思いますよ?」


 あーだめ。この子可愛くて俺なんか苦し紛れに言葉を吐いたみたいになってしまった。


「は、はい。ありがとうございます」


 なんか、変な空気が流れてしまった。


 俺は基本的にコミュ障が目立つ、気がする。なので俺が話できるのは相手との共通理解があるものだけだ。


 なので、昨日どのようになったのか聞くことにした。


「昨日は大丈夫でした?」


 妹が来た途端見捨てておいてあれだが、これでも花色のことを心配していた。家に帰って忘れていたことは内緒だ。


「昨日は助かりました!本当に本当に助かりました!私あの時困ってて!」


 あ、俺が見捨てたことは何も悪い作用を起こしていないようだ。好感度だけ上がっている感じでよかった。


「いやいや、なんてことはないですよ。牧原が頑張って花色さんを口説こうとしていることはわかったので。あいつの弱みを握ることができてよかったと思ってるぐらいだから!」


 牧原が女にフラれるなんてラッキーイベントに出会うことができるなんて、俺は最高についている。


 だからといって俺はそれを学校でばらしたりはしない。そんなことをもし俺がされたら悲しさのあまり部屋にこもってゲームをしてしまう、いつも通りだな。


 でも俺がそんなこと言ったところで誰も信じてくれないだろう。そして俺は牧原の先導のもと、集団リンチもといクラスリンチにあって俺は教室のホコリになってしまう。


「翔君性格悪すぎじゃない?」


 花色がふふっと笑ってくれた。その笑いで可愛さフレグランスをまき散らして俺を幸せな思いにしてくれた。


「いやいや、俺ほど性格のいいやつは多分地球で探してもなかなかいないですよ?わざわざ夜に女の子に付きまとう犯罪者予備軍を作り出さないように、俺が仲介してあげたんだから」


「流石にそれは言い過ぎですよ」


 そう彼女はいいつつも笑っていた。


「あの後は特に何もなく帰ることができました。コンビニについてからちゃんと親に連絡して迎えに来てもらいましたし」


「やっぱり親が来てなかったんだ」


 俺の予想通り、彼女は親に迎えを頼んでいなかったようだ。


「はい、その後のコンビニの提案には助かりました」


「まあな、俺もコンビニに行く予定だったし」


 あの時、妹についていったのはあくまで偶然で本当はコンビニに行きたかったと再度印象を押しつけるように言った。これで、俺が財布がないなんて考えもしないはず!自意識過剰だが、これで俺は満足。


「その話し方のほうがしっくりきますよ」


 いつの間にか、敬語が抜けていたようだ。元々敬語が所々抜けていたし、同年代だと思うとどうしても敬語を使おうという意識にならず、クラスメイトと話す感じになってしまう。


 あ、もちろん普段はクラスメイトは喋らないよ?あれね、グループワークとか英語のペア学習だから。


 隣が女の子の時は、「えっと、俺達別にやんなくてもいいよね?」て俺からわざわざ聞いてみるが、あっちは教科書を見たまま無視を決め込む。ふざけんな、俺だってお前らと話したくないんだよ!こっちが親切に声を出したのに無視しやがってふざけんな!て俺は心の中で思いながら教科書見てやる気だけはあるアピールする。


 本当にこの文化は悪でしかない。ぼっちの精神を削りに削りまくっている。何が皆と仲良くするためだ、地球に人間何人いると思っているんだよ。この教室程度の人間なんて別に仲良くしようがしなかろうがそいつの勝手だろうに。クラスメイトとぐらい仲良くしろと言う先生もいるが、クラスメイトとって何?クラスメイトが嫌なんだよ。まあそんなこと言えないしそもそも俺は人間が嫌いなのかもしれない。好きなのは家族ぐらいだからな。あとはモチモチさんとか他のゲーム仲間。


 話はそれたが、花色が敬語を使わない方がいいと言うんだ。なら無理して使う必要は無いな。


「うん、わかった」


 ここで俺は、「花色も敬語は使わないでくれ。そっちの方が嬉しい」なんて気持ち悪いことは言わない。別に喋り方で俺が他人に求めることは無い。


「じゃあ翔君、私とサークルで友達になってくれませんか?」


 さ、さ、サークルで友達登録イベントだとぉ!?




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