第4話アジアランク1位
帰ってきて妹の美味いご飯を食べ、部屋に戻ってスマホに電源を入れアプリを開く。
S&Fで俺はアジアランク1位だ。世界ランクまではない。
ランク1位のやつは、試合で全部勝てるとかそういうわけじゃない。試合ではちゃんと負ける。それでも負ける数は誰よりも少ない。
俺のゲーム内の戦闘スタイルは片手剣を使ったヒットアンドアウェイ。PVPではレベル、使用武器やスキルなどに制限がある。その中で自分が最も勝てる戦闘スタイルはそれしかないと思っている。
相手の隙を見つけ、そこに攻撃を与えつつスピードを限りなく高くして被ダメを少なくする。片手剣は初期のまたその初期で使われる武器だが、その分オールラウンダーにできてしまっている。
それだとステータスをスピードに振っている意味があまりないのではと思われるが、スピードが高いナックル系の武器を使用すると途端にリーチがなくなる。ナックル系は最も弱い武器の一つだ。このゲームには掻い潜って攻撃するというものが存在しないためだ。
だから片手剣で柔軟に対応するのが今のところは強い。いずれ環境も変わり、最強のスタイルなんてものはいくらでも生まれ変わる。
「あーつえ。やっぱネルカナさん強い」
ネルカナさんとはランキング第2位。俺とネルカナさんは正直なところ、戦績ではかなり俺の方が上だが、いずれ脅威になるプレイヤー、いや既に脅威になってきた。
段々読まれている気がしてならない。
「いや、まだいける、よし。・・・・・・ふぅ、危ねー」
なんとかランク戦終わるまでには勝ち越せた。同じ相手と何度も当たることはある。もちろんネルカナさん以外の人ともやった。ネルカナさんとの今日の対戦成績は四戦二勝二分け。引き分けは時間制限一杯になることだ。俺が負けそうになったらよくやる手で、それを利用して逆転することもある。
「さぁ、雪羽に勉強でも教えるかー」
雪羽の部屋をノックする。俺は紳士なお兄ちゃんなので、妹の部屋に突然入って、「いやん!お兄ちゃんのエッチ!」みたいな展開には持っていかないのだ。あるとしたら、「雪羽ー、パンツ食べたーい」「お兄ちゃん!小学校の時のだけだからね!」みたいな展開しかない。パンツ食って何になるんだ俺は。
「お兄ちゃんいいですよー」
妹の部屋に入ってみると、フレグランスの香りが漂っていた。あのふしゅーふしゅーいってるやつのせいだろうか。
「今日は何を教えればいいんだ?」
俺が得意な教科は数学や科学など理系よりだ。英語もわからなくないけど、細かい文法を覚えれない。
「今日は因数分解についてお願いします!」
「おっけー。なるべくわかりやすく説明できるように頑張るわ」
2時間ほどの時間をかけて、因数分解の他に図形の相似について少し教えた。
「遅いから早く寝ろよー」
「うん!ありがとうお兄ちゃん!」
こっちこそ、妹のパジャマ姿を見れただけで兄冥利につきるぜ。
俺は歯を磨いたあと自分の部屋に戻り、ベッドに飛び込む。
今日は色んなことがあったな。S&Fでステータスを貰えた。魔力で少し出来ることが増えた。まだまだ増えるはずだ。明日からも、少しずつなんて甘いことは言わず強さを目指す。
このステータスシステムはS&Fに与えられたもの。さらにクエストが存在するということは、S&Fに酷似したシステムは他にも存在する。もしかしたら、ランキングもあるかも。
それは確かめるとして、もしあるのなら俺は1位を目指す。それが俺の最終目標だ。
「楽しみだ」
死なない程度に頑張る。死が近づくなら遠慮なく逃げる。それが俺だ。
✖✖✖
「はぁ、カケルに今日は無視されちゃったな。いつもはすぐに招待に応じてくれていたのに、まあカケルもたまには用事ぐらいあるよね」
プレイヤー名モチモチこと、桃瀬小町はベッドの上でゴロゴロと悩んでいた。
それはS&Fでのフレンド、アジアランク1位のカケルが今日は一緒に協力バトルをしてくれなかったからだ。
いつも瞬間に対応してくれるカケルだったので、招待を断られることがなかった桃瀬はびっくりしたのだ。
何か自分がプレイ面でやらかしたのではないかと心の中で実は焦っている。
「ま、まあ明日はきっとやってくれるよねうん。はぁ、今日のランク戦も冴えなかったし、やってられないな」
桃瀬は学校に友達は少ししかいない。発言力もなければ積極性もない。つまり陰キャラなのだ。
今日は学校でお疲れ様会の参加において手を挙げることを求められたが、彼女はしぶしぶ行くに手を挙げてしまった。
「でも大丈夫だよね。あれはあくまでその時点での参考意見だし。後々サークルでも断りいれればいいし。うん、大丈夫」
桃瀬はイケメンに押されるのは嬉しいとは思わず、ただただ恐怖でしかなかった。
桃瀬にとって陽キャは敵とまではいかないが、毛嫌いしている。
「それにしても、あの彩川君はすごい。見るからに髪も長くて陰キャラなのに、あんな風に自分の意見を言えるなんて」
桃瀬の目にはいつも、彩川が陽キャ達に幾度となく自分の意見をいい、その度に孤立しているのが入っていた。
「はぁ」
彼女は自分の不甲斐なさに目を瞑りたくなった。
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