7-②
結局、返事が来たのは五時前だった。
〈ああああああああ!!!!〉
〈ごめえええええええん!! 本読んでたあああああ〉
そのテンションの高さに、悩んでいた自分がおかしくなって笑ってしまった。昨日、落ち込んでいた春奏さんだけど、今日は初めから元気だ。
〈 急にごめんね。今日はひまだって言ってたから、ちょっと話したいって思っただけなんだ〉
〈ひまだったから秋音の部屋で本を読んでたんだよおお!!〉
〈ああああーくーくん損したあああ〉
〈 くーくん損した!?〉
〈癒しを蓄えたかったあああ〉
〈今からでも遅くない?〉
遅くない、と言いたいところだけど、ちょうど今から家を出るところだった。夕飯の買い物へ行こうと思っていたのだ。
こんな時間になり、どこかで会えないか、なんて誘うのは不自然だ。来てくれるかもしれないけれど、この春奏さんのテンションを下げてしまったらと思うと気が引ける。やっぱり、今日は厳しいと思った。
LEENなら夜にもできる。既読が付かなかったことで、焦る僕の手綱を引かれた感覚もあったし、一度落ち着こう。
〈 実は今から買い物で・・・〉
〈 またいつもくらいの時間にLEENするよ!〉
〈 ごめんね、僕からLEENしといて・・・〉
〈いやいや、気づかなかったの私だし!〉
〈てかそれも謝り癖だよ! くーくん全然悪くないからね!〉
〈まあまた夜だね!〉
〈今日の晩ご飯、くーくんが作るの?〉
この時間の買い物ということで、すぐ察しがついたようだ。僕としては、主婦のまね事をしているようで恥ずかしいのだけれど。
〈 うん。日曜は僕なんだ〉
〈くーくんご飯食べたい!!〉
本当にテンション高いな。うれしいけど切ない感じもする。告白の後もこのままである保証なんてないのだから。
〈 食べたいなら食べてもらいたいな〉
〈前に美和が食べてたの見て羨ましゅう思ってました〉
〈イチャイチャあーん事件〉
〈 それも未遂!〉
なんでも事件にしたがるんだから、まったく。
あの時は、美和ちゃんとおかずを交換したっけ。春奏さんだって、こっちに来てくれていたらいくらでも食べさせてあげられたのに――
僕はふと思いついた。
〈 明日のお弁当、春奏さんの分も作ろうか?〉
食べたい春奏さんと食べさせたい僕。一致しているなら、そうすればいいじゃないか。
〈 春奏さんさえよければ作っていくよ〉
〈えええええ〉
〈食べたい超食べたい〉
〈でもさすがに悪いんじゃ・・・〉
春奏さんはのってきてくれた。もちろん、遠慮などいらない。
〈 いつもしてることだから、全然大丈夫だよ〉
〈 じゃあ作っていくね〉
〈ああ! じゃあ私も持っていくから交換しよ!〉
名案とばかりに言う。それは楽しそうだった。
〈 春奏さんが作ってくれるの?〉
〈それは自信ない・・・というかなんか申し訳ない〉
〈うちの夕飯の残りとかになるけど、それでいいのなら〉
〈 もちろんいいよ。楽しみ〉
春奏さんがノリノリで良かった。そして、大事なのはこの後だ。
〈 一緒に食べたいんだけど大丈夫かな?〉
〈もちろんだよ!〉
〈うわあ、楽しみ!〉
春奏さんは本当にうれしそうだ。なんとなく、罠にはめようとしているような気分でもある。
〈 じゃあ期待に応えられるようにがんばるよ!〉
とりあえず、これで二人で会うことができる。そのときに、僕は自分の気持ちを伝えようと思った。
気合を入れて夕飯を作ると、献立の数がいつもより多いからか、母さんはたいそう喜んでくれた。母さんの好物ばかりだと言われたけれど、それは母さんが基準になって得意料理が決まるだけのことだったりする。
夜にはまた春奏さんとLEENした。もちろん、話題は明日のことだ。
〈やっぱり恥ずかしいもんね〉
〈じゃあ、二人で〉
春奏さんに「二人とサギくんにも声掛ける?」と尋ねられたけど、僕はそれをやんわりと拒否した。すると、春奏さんは都合よくそう解釈してくれた。
〈 いつものところで、ね〉
〈うん!〉
〈楽しみだああああ〉
僕の企みなんて知らない春奏さんは、相変わらず上機嫌だった。
こうして気軽にLEENすることは今日が最後になったりして。そう思うと悲しい気持ちになる。でももう決めたことだからと、僕は悩むのをやめた。
○
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