第30話 犯人推理と新たな可能性。からの――

「てか待て!もしかして俺と君って……もしかして知り合い、もしくは親族だったり……するの?いや、そもそも内藤と俺が交際してるって……んな馬鹿な事あるわけがないだろうが!」


 彼女が俺を色々と知っていた意味は何となく察しがついた。ようは先に俺が質問した知り合い、もしくは親族だからだ。なのでそれの確認がしたい。が、同時に内藤と俺の関係性やその関係というか勘違いのせいでどうしてこんな事になっているのか?というのが気になる。それ故にごちゃごちゃとした質問になってしまった。そのせいでニャーちゃんとアリスはどれに対して答えて良いのか分からない、と言うように口を閉じた。


「あぁ、すまない。一つずつ質問する。アリス、俺と君は知り合いなのか?それとも親族だったりするのか?」

「どちらかと言えば後者が正解よ。正確には遠い親戚だからほぼ赤の他人だけどね」

「ほう」


 ――まさかの関係性だな。しかし確かにほぼ赤の他人だ。だからアリスの出した交換条件、つまり本国へ帰るというお願いを引き受ける必要性も無いと思われる。でもまさかの勘違いで国が荒れてしまったというのは誤算だ。てか俺と内藤が付き合っているってどこ情報だよ!って、アイツしかないよなぁ……


 俺は学園祭の最終日、内藤に告白された事を思い出した。その時、確か内藤は親に『あいつと付き合うぐらいなら勘当してやると言われた』みたいな事を言っていた。それは激怒していたからこそ出た言葉のはずだ。そして激怒している時というのは、ついうっかり発言をしたり声が大きくなってしまったりするというもの。それが聞かれちゃいけない相手に聞かれてしまっただとか話してしまっただとかになってしまったのだとしたら、それはもう大惨事である。そしてその大惨事が実際に起こってしまったと、そういう事なのかもしれない。


 という所まで想像し、結論付けする事が出来ると、俺は溜息を吐く。


「分かった……色々と分かったし、想像やら予想やらもついた。なので結論を出すとだ…………お前のお願いは利けない!」

「はあ!?何でよ!?」


 当然の如く般若のような形相になるアリス。でもそんなの俺には関係ない。


「そもそも!俺は王位を継ごうだなんて一切思っていない!だから俺からしたらこの今起きている事態は単なるとばっちりでしかない!それに俺は平和を愛する人間なんだ!言い方を変えれば平和ボケしてるって事!そんな俺に何かが出来るとでも思っているのでしょーかっ!?答えは決まっているだろ!ノーだよ!!故に、俺は何もしない!OK!?」

「でもあなたのせいで私の国は……それに家族も……」

「悪いが、それについても俺にとっては関係の無い話だ」

「んなっ!?だったらそのせいであなたの周りの人達が死んだとしても良いの!?例えば、そう!そこにいる妹とか!!」

「それは……」


 ――正直困る。俺のせいでキラが死んだなんて事になったらきっと俺は一生立ち直れない……


 という俺の考えを読んだらしいアリスはこう話を続ける。


「あなたが死ぬか国へ帰って解決させるかしなければこの事件はずっと続くわ。それまでの間にあなたの周りの誰かが死んだとしたらあなたは一体どうするつもりなの?いいえ、もしかしたら大切な人は全て殺されるかもしれない。そうなってしまったらあなたは正気でいられる!?そのまま平和ボケのままでいられるの!?」

「…………」


 言葉に詰まる。グゥの音も出ないとはまさしくこの事を指しているのだろう。


 もし俺のせいでキラや碧乃や紫乃が死んでしまったとしたら?不覚にもその時の事を想像してしまい、とてつもない恐怖を覚えた。


 ――このまま何もしないというわけにはいかない……それは分かった。分かったけど、でも俺に何か出来るわけないじゃないか。そもそも帰って事件を解決させるって、方法やら情報やらがアバウト過ぎるだろ。ほんと、全く……


「……あー、もう!じゃあ一つ確認だが、もし俺が事件を解決させる事が出来たとしよう。そしたら本当に元の生活に戻るんだろうな?」

「それは保証できないわ。けれど、平穏な日常に戻れる事だけは自信を持って言える。あなたの大切な人達が殺される事も無くなるし、それにあなたが大切な人達に命を狙われる事も無くなるわ」


 ――元の生活に戻れるかは分からない。が、それだけは自信を持って言える、か。うーん、それなら解決させざるを得ない、のか?いや、でもこんなへぼっちい俺に一体何が出来るっていうんだ……?


 そう思い、う~ん、と唸っていると、アリスと目が合った。彼女はそのままジッとこちらを見詰める。


「……お前、もしかしてだが手っ取り早く解決させる方法を知ってたりするんじゃないか?」


 ふと、そんな気がしたので訊ねてみる。するとアリスはやれやれと言うかのように両手を肩の位置まで上げて溜息を吐いた。そして当然と言っちゃあ当然の答えを告げる。


「犯人が捕まるかそいつ以外の王位継承権所持者が死ねばそうなるんじゃないの?」


 ――まっ、それもそうだよな。ならその犯人を捕まえれば良いだけの話になるわけか。でも分かっている手がかりと言えば犯人が王位継承権を持っている人間って事だけだ。それ以外は全くと言って良い程分からない。てか、そもそも王位継承権を持っているヤツって後何人いるんだ?


「因みに、現在王位継承権を持っているのはあなた、あなたの父親、クリス・フォン・アルカディア……つまり内藤聖夜ね。それから後二人程いるわ」

「じゃあその後二人ってヤツのうちにどちらかが犯人ってわけだな?」


 当然そうなるはずなのだが、どうやらそうではないらしい。アリスは首を横に振った。


「どうして内藤聖夜とあなたとあなたの父親をその中に入れないのかしら?」

「いや、だって内藤は王位継承権1位なんだろ?だったらいずれは王になるって事で他のヤツを殺したりする必要は無いじゃないか。それに俺の本当の父親?だけど、もしその人が犯人だったら息子である俺を殺そうとするか?父親なんだから俺より継承権は上なんだろ?だったら殺す必要は無いだろ普通は。で、当然俺も犯人ではない。だったら答えは簡単だ。今挙げた三人以外、つまり残りの二人のいずれかが犯人だよ」


 独自の見解を交えての説明。それについておかしな点は特になかったのか、アリスからの突っ込みは何も無かった。なのでここで話を纏めるべくパンと両手を合わせようとしたら、直前で今まで無言で聞くだけだったキラがこう言う。


「ちょっと待って。必ずしもそうとは限らないよ」

「どういう事だ?」

「だって王位継承権を持っている者が全ていなくなって得する人もいるかもしれないじゃない。それに他の二人のいずれかに近しい人間が犯人かもしれないよ」

「うっ、そうなるとかなり話がややこしい事になる……」


 ――これ、俺に解決させる事が出来るのか?


 心底不安になり、気が沈む。


「ご、ごめんねお兄ちゃん!それにこれは可能性的になくはないってだけの事で、実際にそうだとは限らないから!」

「そ、そうだよな!?犯人はきっと他の二人のいずれかだよな!?」

「うん、そうだよ!許せないなぁー!お兄ちゃんを殺そうとする人なんか許せないなぁー!」


 と、兄妹して現実逃避。すると呆れたような表情でアリスは立ち上がった。


「んじゃ、善は急げよ」

「……は?待て、何が善なんだ?」

「あなたはさっさと本国へ飛んで。それから事件を解決させてきて」

「いや、そんなすぐにだなんて無理だ。もし飛ぶにしても色々と準備する必要があるだろうし」

「それなら――」


 そこまで言うとアリスは部屋の扉の前へ行き、ドアノブに手を掛けると、そのまま扉を開ける。するとその先には――


「さっさと説得しなさい」


 何故か親父とおかんがかなり気まずそうな表情で立っていた。

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