第28話 こんなSM……初めてです……
もしキラが目を覚ましてもまだ先程のあのサイコパスな状態だったら?もしそうだったらキラは再び俺を殺そうとするはずだ。それを防ぐには彼女が起きる前に縛り、身動きが取れないようにしておく必要があるだろう。
そう思った俺は、有り合わせのものでキラの両手両足を縛った。で、そのまま放置しておくのも可哀想なので現在、膝枕をして彼女の起床を待っている。待っているのだが……
――足、痺れたな……
クソが付く程足が痺れて最早感覚が無い。そろそろ、というかもう我慢の限界だ。というわけで――
「ふんむぅっ!!」
キラの両頬を摘まみ、力の限り左右に引っ張る。すると我が愚妹は「ひぎぃっ!?」とわけの分からない悲鳴を上げて目を覚ました。しかもあまりにも痛いのか足がピーンと伸びている。
「お兄ちゃん、こんなSM……初めてです……」
――いや、別にSMのつもりでやったわけではないのだが……でも、見る限りでは正常に戻っているぽいな。しかし念の為まだ縄は解かないでおくとしよう。その代わりというわけではないがいくつか質問をしよう。
「キラ、さっきは何故俺を殺そうとした?」
「さっき……?」
キラは言っている意味が分からないと言いたげに目をぱちくりさせて首を右に傾げた。そしてこう続ける。
「それに殺そうとって、あたしがお兄ちゃんを殺そうとするわけないじゃない。んもう!本当に何言っているんだか!変なお兄ちゃん!」
「…………」
――この様子、嘘を吐いているようには見えない……それに先程と比べると殺気が全く感じられないのだが……どういう事だ?
訳が分からなくなってきた。あまりの分からなさに軽い頭痛が生じて、右手で額を押える程だ。
――どうなっている?もしやさっきのは俺の幻覚……?いや、この俺の部屋の荒れようを見ればそれは違うと分かるはずだ。だったら何故キラはこうも理解していないような態度を取っているんだ?
「……むむぅ」
更に頭が痛くなって来た。
「所でお兄ちゃん、どうしてあたし、縛られてるの……まさか!?ついになの!?」
「ていっ!」
「あだっ!?」
変な解釈をするキラの額にぺしっと右手の二本指でしっぺをくれてやる。
「痛い……という事は事後!?つまり事後なのね!?」
「うん、違うよ?」
「いいえ、きっと違わない!だってここ暫くの記憶が無いんだもの!記憶が無いって事はつまりそうなる程のショックを受けたから……そのショックというのは、そう!つまり処女喪し――あだっ!?」
今度は無言で頭突きをくらわさせてもらった。
「お兄ちゃん、痛いです……」
「俺も痛ぇ……ん、ちょっと待て。お前、今ここ暫くの記憶が無いって言わなかったか?」
「ん?うん、言ったよ」
「全く?」
「うん、全く」
――それはつまり忘れているって事か?いや、もしくは操られていたという事になるのでは……?もし後者だったとしたらめちゃくちゃ厄介な事になるんじゃ……だってそれじゃあ誰かが俺の命を狙っていて、その道具としてキラを利用したって事になるじゃないか。そうだとしたら他の奴らも利用される可能性があるんじゃ……
ふと、つい数時間前、詳しく言えば昼休みに保健室で眠っている時になるのだが、その際に見た夢の事を思い出した。
――そう言えば、あの顔の無い少年?自称神様だっけか?そいつが言ってたよな。不測の事態が起きたって。しかも、このままでは俺の大事な女共は全員大変な事になってしまうだろう、とも言っていた。もしそれが本当だったとして、そしてその不測の事態が既に起きているのだとしたら?そうだとしたら皆が危険な目に遭っているのでは……?もしくは碧乃と内藤までもが俺の命を狙いに来るのではなかろうか?
「……マズいな」
舌を打った後そう呟き、急いでスマホをズボンのポケットから取り出す。そしてまず碧乃に電話を掛けてみる。
『ただいま電話に出る事が出来ません』
「クソッ!だったら――」
今度は内藤に電話を掛ける。が、そちらも同じ結果だったのですぐに通話を切る。
「なら!!」
最後に紫乃に電話を掛けてみると――
『もしもし?』
「出たぁー!!」
『えっ?えっ?ど、どうしたのいきなりそんな大声出して?』
受話器越しに紫乃の動揺と心配の声が聞こえて安堵。これ以上声を上げては彼女を更に動揺させかねないので一度両手を広げて深呼吸する。それからスマホを右耳に当て直して会話を再開させる。
「びっくりさせてすまない。いきなりで申し訳ないが碧乃はそちらにいるか?」
『えっ、うん。いるよ。代わろっか?』
「あー、いや、その必要は無いかな。で、碧乃は何をしている?」
『わたしの隣でゲームしてるよ。それはもう凄い形相とテクニックで』
――何だそれは……その様子を是非とも見てみたいのだが……って、そんな場合ではない。とにかく今は――
急に湧き出た欲求を散らすように頭を振る。
「そうか、それは楽しそうだな。それで頼みがあるのだが、今日は絶対に家から出ないでくれないか?」
『へっ?それは別に良いんだけど……でも何で?』
「それは……」
理由を話そうか考える。しかし言っても信じてもらえなさそうなので即座に話さない方が良いだろうと判断する。
「……秘密。だがそうしていたらもしかしたら良い事があるかもしれないぞ」
特に何かをしようとは思っていない。けれどこういう言い方をすれば彼女達が家から出る可能性は小さくなるはずだ。そう思ったが故のこの台詞だった。
『良い事……まさかそれって!?』
――何を察したかは分からんがここはそのまま勘違いしておいてもらった方が良いな。
「そのまさかかもしれないぞ。じゃあ、また後でな」
含みのある語気で意味深な事を言って通話を切る。
――今日はそのまま勘違いしていてくれる事を願うとして、なので……と。
「キラ、ここで目を覚ます前の一番最後の記憶は何だ?一体何があった?」
ずいっと近距離まで顔を寄せ、真剣な眼差しでキラに訊ねる。するとキラは目を瞑って唇を尖らせた。
「いや、そういうのじゃないから」
「えぇ~」
「キラ、頼むから正直に教えてくれないか?もしかしたらお兄ちゃんの命が危ないかもしれないんだ。それに、教えてくれたら良い事があるかもしれないぞ?」
「はい!不審者と遭遇しました!」
――秒を待たずしての返答。さすが俺に対する欲望に関してだけは貪欲なだけはある。それで良いのか我が妹よ……っと、それよりそろそろ縄を解いてやるか。
「どんな不審者だ?」
訊ねながらキラの両手を縛っている縄を解く。
「うーん……とにかく黒づくめだったよ。顔もはっきりとは見えなかった。でも多分男だったと思う」
キラが俺に襲い掛かってくる気配はもう感じられない。なので両足の縄も解く。
「そうか、それでそいつに何をされたんだ?」
「……よく分からない。いきなり近付いて来たと思ったら急激な眠気に襲われて……それで目を覚ましたらこうなっていた、みたいな?」
こうなっていた、というのはつまり両手両足を縛られて俺に膝枕されていたという事を指している。ひとまずそれだけは理解出来た。だがそれ以外はさっぱりだ。眠気に襲われた後、一体何をされたのか?その詳細さえ分かれば何らかの対処は出来るのかもしれないが、それ自体分からないのならもうどうする事も出来そうにない。
「うぅーむ、困ったな……」
そう呟いた所でニャーちゃんが帰って来た。というか部屋の窓から中に入って来た。
「ただいま帰りましたのニャ!」
しかもその背には何故か気絶した山田京香が乗せられていた。
「な、何故、山田京香が……?」
「この女が色々と事情を知っているはず……というか知っているから拉致して来ましたのニャ!」
そう言ってニャーちゃんは褒めてと言わんばかりの笑みを浮かべるのであった――
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