第24話 ボディーガードニャ!
「毒って……どんな毒なのかは分かっているのか?」
種類が何なのかは分からないが、危篤状態に入るぐらいなんだ。きっとかなりの物を盛られたに違いない。
ニャーちゃんは頭を振った。そして眉をしかめてこう答える。
「いいえ、不明ニャ。ですが現在、国の医療機関が全力で調査中です」
「そう、か……」
――死ななければ良いんだけど……
そう思うと同時に早く毒の種類が見つかる事を切に願う。
「そうだ!俺の母親は大丈夫なのか?」
「母君は王位継承権を持っていないから命を狙われる事はないニャ」
「そうか」
――それは良かった。
「しかしご主人様は違う。これはご主人様の父君を抜いた場合の事ですが、実のところご主人様は現在、王位継承権の第二位に居るのニャ。なので他の候補者からしたらご主人様は邪魔で仕方がない。そうなると当然ご主人様の命を狙う輩が現れますよね?ご主人様のご両親はそれをどうにか防ぎたいと思っている。だからニャーがご主人様のボディーガードとしてここに来たのニャ」
「なるほど」
――粗方の事は理解できた。しかしどうにも実感が沸かないな……でも実際にボディーガードであるニャーちゃんがここに派遣されたのだから信じざるを得ない。だから取り敢えずは彼女の言葉を鵜呑みにするとしよう、と言いたいところだが、これだけは気になる。
「ニャーちゃん、一つ訊いても良いか?」
「何ですかニャ?」
「君、強いの?」
体格が体格なんだ。そこまで強いとは思えない。と言うか成りが幼女なので雑魚としか思えない。軽く蹴っただけで骨折れそうだし。
「めちゃんこ強いですよ?」
そう言ってニャーちゃんはドヤ顔でエヘンと胸を張る。しかしぺったんこなのでどうにも頼り無く見える。
「本当に?」
「本当ニャ!」
もう一度胸を張るニャーちゃんだが、やはりぺったんこなので頼りない。
「じゃああそこの壁を殴ってみろ」
ニャーちゃんが座っている側にある壁を指差す。因みにその壁はコンクリで出来ているので、そう簡単には壊せない。てか普通は壊せない。でも自称強い子なら壊せるはずなので言ってみたわけだが、意地悪が過ぎただろうか。
そう思っていると――
「えいっ」
壁にクレーターと大きなひび割れが出来た。しかもニャーちゃんの拳の形に壁が穿たれてるし。
「うぎゃああああああ!!家がああああああ!!」
そして発狂する親父。
俺の家はかなり大きい。二階建てだが、広い庭も付いているし、リビングだって他の家庭と比べると圧倒的に広い。部屋に至っては大体十畳はある。そんな家の壁が壊れたんだ。それはもうショックだろう。もし俺が家主だったら気絶している。だがしかし――
「まあ、良いか」
親父の職業は医者なので、そこまでショックは受けていないらしい。
「というわけでご主人様!これから宜しくお願いしますニャ!」
「異議あり!!」
またキラがベクトル違いの論破をするべく食って掛かる。
「お兄ちゃん大好き!論破完了!」
「ああ、こちらこそ宜しくな!」
面倒くさいので俺もキラを無視する事にした。
「はいニャ!」
そしてニャーちゃんは「ニャハッ!」と笑い、キラは――
「お兄ちゃんに無視されたお兄ちゃんに無視されたお兄ちゃんに無視されたお兄ちゃんに無視された――」
俯きながらそう呟き、イライラがちに右足で貧乏揺すりをするのであった。
それから約三十分が経過。現在いつもどおり朝のHRを受けている。
「福島」
「はい!」
「北条!」
「はい!」
担任教師がどんどん出席を取ってゆく。そんな中、朝から何故か元気な我が親友は俺に訊ねる。
「なあ、龍。お前、従順な幼女とツンツンな美少女、どっちが好みだ?」
――この男は何を訊いているのだろうか?てかその選択肢を出した意図は何だ?もしかして心理テストとかなのだろうか?もしそうならどんなテストだ?色々と怖いが取り敢えず答えてやるとするか。
「どちらかと言えば奥手な眼鏡っ子だ」
「やはりそう来たか!」
そう言って亮は嬉々とした表情を浮かべて指を弾く。
――いや、どういう意味でのやはりなんだよ。てかイキイキしてるなあ!
「で、質問の意図は何だ?」
どうせ下ネタでくだらないものなのだろうが、意図を聞かないとモヤモヤして気持ちが悪いので聞いてみる。すると亮はフンスと鼻を鳴らした。そしてニヤニヤ笑いながらこう答える。
「いやぁー、今朝なんかそれっぽい幼女と美少女を職員室で見付けてな。それで訊いてみたんだよ」
――わけが分からん。
「もしかして転校生だったりして……もしそうならうちのクラスに来て欲しいな、二人とも」
「いや、もしその二人が転校生だったとして、普通はそんな都合良くこのクラスに編入はされないだろ」
そもそも、そんな事があれば各クラスの人数に差が出るではないか。それじゃあ色々と支障が出るだろう。例えば体育祭での綱引きとかに。いや、よくは分からないけど。
「えー、そうかなあ?」
至って純粋そうに首を傾げる亮。
「ああ、そうだ」
コクりと頷いた後そう答える俺。だがそんな俺の考えはすぐに打ち砕かれる事となる。担任教師の一言で。
「今日からこのクラスに転校生が二人入るぞー」
瞬間、亮の目がキラキラと輝く。それと同時に彼は無言で右拳を突き上げた。いわゆるガッツポーズというものだ。
――マジかよ……
「せ、先生!早く!早く美少女転校生を!みみみ、見せてください!!」
――いやいや、必ずしも相手が美少女であるとは限らないだろ。それに担任は『転校生が二人』とだけしか言っていないし。
「嬉しそうだな、お前。先生ドン引きだぞ」
右頬を引きつらせる担任教師。彼女がそうなる気持ちは分からなくもない。だって亮、餌を目の前にした空腹犬のように息を荒くして、充血した眼球を剥き出しにしているんだもん。これは誰でも引くわ。かく言う俺も同じである。
「ま、まあ、良い――じゃあ入れ!」
「はいニャ!」
――ん?この語尾、それにロリっぽい声はつい最近どこかで……どこだっけか……
扉が開く。そしてそこから――
「っ!?」
――思い出した!この声は――
転校生その一が入ってくる。それを見た俺は驚愕。
「ニャーちゃん!?」
クラスメート達の視線が一斉にこちらに集中する。
「龍、お前知り合いなのか?」
亮が訊ねた直後、ニャーちゃんと目が合う。
「あっ!ご主人様だニャ!」
嬉々とした笑みを浮かべるニャーちゃん。そのニャーちゃんにみんなの視線が向く。
「どういう事だ……?まさかあのロリっ娘にそういうプレイを強要して――」
「違うわぁ!」
今度は軽蔑の目が俺に。
「うわぁー、最低」
「キモい」
「死ねば良いのに」
「はあ……はあ……ろろろ、ロリだぉ!」
「俺のリコーダーくわえてくれないかな……」
「ちょーっと待て!お前らは大きな誤解をしている!そして最後の二人出て来いや!!」
――張り倒してやる!!と、言いたいが今はそれどころじゃないな、うん。
無言で席を立ち、ニャーちゃんのところまで行くと、彼女の右手を掴んで教室を出る。その際、もう一人と目が合い、俺は軽く会釈をした。しかし何故か無視された。もしかして人見知りなのだろうか。
「ご主人様、どうしましたニャ?」
さも不思議そうに首を傾げるニャーちゃん。どうやら自分がマズい発言をした自覚が無いらしい。
「ニャーちゃん、取り敢えず学校で俺をご主人様と呼ぶのは止めようか」
「???――ニャッ!?」
相変わらず首を傾げるニャーちゃんの額にデコピンを食らわせる。するとニャーちゃんは涙目で額を押さえ、こちらを恨めしそうに睨んだ。その所作がなんともまあ可愛い事で、不覚にもぺろぺろしたくなる。だがここでそれをしてしまうと俺は変態の烙印を捺されるだろうから、両手の指をわしゃわしゃさせる事でこらえる。
「ご主人様のエッチ」
「いや、変態チックな事は何一つしてないと思うのだが?それより言い方!ご主人様じゃなくて、そうだな……宮平君と呼ぶんだ!」
「はい!お兄様!」
「……何故その呼び方になる」
「その方が萌えるかと思ったのニャ!」
そう言ってニャーちゃんは八重歯を見せながらニャハッ!と笑う。
――いや、まあ、確かに萌えるよ?実際、お兄ちゃんと呼ばれて萌えました。でもね、やはりその呼び方はマズいと思うのですわ。俺がまた変なプレイを強要していると思われると思うのですわ。だからね――
「どうしましたか、お兄様?」
「よし!もうそれで良い!お前は俺の妹だ!」
――俺の馬鹿!!
廊下に跪いて心底自分に幻滅する。
「はいニャ!お兄様!」
そして愛しのにゃんこちゃんは再び満面の笑みで俺を萌えさせるのであった。
「じゃあ教室に戻るぞ」
「分かったニャ!」
で、戻ったら戻ったで何故か重い空気が教室中を包んでいた。
ニャーちゃんを教卓に残し、自席へ戻り、正面の席に座る亮の方をトントンと突く。
「何があったんだ?」
「……後で話す」
こちらを見ずにそう答えると亮は小さい音且つ深いため息を吐くのであった。
――いったいどうしたってんだよ……
「で、いったい何があった?」
HRが終了し、僅かな休憩時間を利用して亮から事情を聞く事にした。現在、亮の『ここじゃ話しづらいから便所でな』という言葉でその便所に居る。因みに入り口前には当然と言っちゃあ当然なのだろうが、ニャーちゃんが待機している。
「いや、あのもう一人の転校生がいるじゃないか。名前は
――お前、そんなくだらない事を訊いていたのかよ。マジドン引きだわ。そして絶対に答えたくない。だがそれじゃあ何も分からないので答えてやるとしよう。
「SMか?」
「違う……アイツ、死姦って言ったんだ……」
「死姦っていわゆるあれだよな!?アレをナニするあれだよな!?な!?」
「あぁ、あれだ」
「き、聞き違いじゃないか……?」
人とは基本、アブノーマルな性癖を持っているものだ。だが死姦はさすがに度を超している。想定外だ。しかし亮の聞き違いである可能性があるのでその確認をする。
亮は頭を振った。そしてまるで死んで三日経った魚のような目でこう答える。
「いいや、俺の首筋にダガーを添えながらそう言ったから確実に聞き違いじゃない」
「お、おう……」
――首筋にダガーって、どんだけヤバいヤツなんだよ。サイコだな。
「女の子だぞ!?女の子が死姦って、そんな事言っちゃいけません!だよな!?そうだよな!?」
涙目で言いながら俺の両肩を掴んで激しく揺する亮。そのせいで目が回り、若干吐き気を催す。だが学園内で嘔吐するのは俺のプライドが許さないので、そうなる前に亮の足を踏みーー
「はぐぁ!?」
痛みで両手を放したところですかさず亮を突き飛ばす。
「うぎゃっ!?」
そして亮は三メートル後ろにあったタイルの壁に後頭部をぶつける、と。ざまあみろ。
「何するんだよぉぉぉ!?」
後頭部を両手で押さえ、地面を転げ回りながら亮は悶絶する。が、ほんの数秒ですっくと立ち上がった。
「落ち着いたか?」
「な、なんとか……」
「それは良かった」
「……はい」
ーーよし。
「で、俺がいない間に起こった出来事はそれだけか?」
「いや、実はこの後が問題なんだ……」
再び亮の目が死んだ魚のような光を失ったものに変わる。
さっき亮は死姦の件でこんな目をしていた。だからきっとそれと似た感じの事があったのだろう。それに気付いた俺は反射的に唾を飲み込む。
そして亮はこう言うのであった。
「好みの異性は龍、お前らしいぞ」
「お、俺……?」
再確認の為、自分の顔を右手で指差して訊ねる。すると亮は深く頷いた。で、更なる衝撃発言をする。
「……しかもお前を殺してアレをナニしたいらしい」
「っ!?」
瞬間、あの転校生に殺され、成すがままにされる光景が脳裏を過ぎり、ゾゾゾッと身の毛が弥立つ。
ーーそ、そうか……そんな事があったのか……そりゃああんな空気にもなるよな。
「俺、もうあまりの羨ましーー怖さに泣きそうになったよ」
「御愁傷さ……ん?今、お前『あまりの羨ましさに』って言おうとしてなかったか?」
「き、気のせいだ」
目を右に逸らして亮は答える。
ーーコイツ、言ったな……
と、ここで一時限目開始のチャイムが鳴る。
「……戻るか」
「……そうだな」
そして俺達は走って教室に戻るのであった。
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