第22話 宮平家の実は

 キラと一緒に怒られた後、俺は強制的に退院させられた。まあ、あれだけ問題を起こせばそうなるよな、と最初は思ったが後から聞いた医師の話では、俺の怪我はそこまで大きくないから、起床したらすぐに退院させるつもりだったらしい。傷は一か所だけ深かったみたいだが、内臓は全く傷付いていないから患部を縫合するだけで手術は終わったとの事。だからすぐに退院する事が出来たというわけだ。


 それより困った事がある。それは一日で碧乃と柴乃の二人に告白された事だ。一応、二人とは付き合わない事になったわけだが、碧乃のあれは結構重い。だが、そのうち俺はキラと別れるから、その時まで待ってくれるというのは正直嬉しいと思う。


「お前らの血は繋がっていない」


 はい、嬉しくない。


 家に帰って即行でおかんに呼ばれ、リビングに来ると、家族揃って重苦しい空気を出しながら席に就いていた。


 俺も自分の席に座る。そして一分ぐらい経った時に親父が口を開いて言ったのがこの衝撃発言……マジかよ。


「本当!?」


 キラの表情が小学生の時以来に見るんじゃないかと思うぐらい明るいものになっている。とっても嬉しそうだ。


「ああ、本当だ。血縁関係は無い」

「となると、どっちかがこの家の子供じゃないって事だよな?」

「そうだ」

「じゃあそれはどっちなんだよ?」

「…………」


 親父は黙りこむ。しかしこれはいつかは言わないといけないことだと思ったのか、重い口を開く。


「……お前だ、龍」

「…………」


 ――マジか……かなりショックだ。今すぐ部屋に籠りたい。


 急に両親に申し訳ない気持ちになる。


 俺はこの家の人間じゃない。それなのに両親はここまで育ててくれた……こんなに良い人達はそうそういないだろう、マジで申し訳ない。


「父さん達とは血が繋がっていないけど、俺はお前の事を大事な息子と思っている。それだけは分かってくれ」

「ああ、そうするよ。それで、俺の両親はどこにいるんだ?」


 それを聞いて親父は渋い顔をする。きっと言うべきか言わざるべきか逡巡しているのだろう。


「頼む、親父。教えてくれ……というか教えてください」


 そう言ってテーブルに額が付くぐらい頭を下げる。それを見て親父はため息を吐いた。


「お前の両親は――」







『また会ったな』

『お前か』


 眠りに就いて速攻でまたこの真っ白な世界に来ていた。という事は誰かを籠絡する事が出来たのだろう。でも何となく誰を籠絡したのか想像は出来る。それは碧乃と柴乃の二人だ。


『三人目の天使、ミカエル。現在名”朝倉碧乃”の籠絡おめでとう』

『待て、紫乃は入っていないのか?』


 ――俺の予想ではアイツも入っていると思っていたのだが……


 だってそうだろう、碧乃と一緒に籠絡したんだからアイツも入っているべきだ。


『お前は勘違いしているようだな。籠絡した相手が必ずしも天使だとは限らないだろ』

『いや、それもそうだけど……』


 今まで籠絡した相手が必ず四大天使の一人だったんだ、普通はそう思う。


『これだからゆとりは……』

『おい、俺はTHE真面目人間だ。ちゃらんぽらんなヤツらと一緒にするな』

『はいはい、それで次の質問に答えてやるが、何か訊きたい事はあるか?』


 ――コイツ、癪だ。外見が子供じゃなければ今頃ボッコボコにしているな――それにしても訊きたい事か。ここは気になっていたあれを訊くとしよう。


『四大天使を集めて俺に何の得がある?』


 ――まあ、ハーレムになったとは思うが、それ以外は何の得にもなっていない。もし他に得があるのなら、是非とも教えて欲しいものだ。


『ハーレム王になれる』

『よし、今からお前を殺す』


 見た目が子供でもこれはさすがにキレる。本気でぶん殴ってやろう。


『待て、どうして拳を鳴らしている?』

『それはお前をぶん殴る為だ。取り敢えず死んでくれ』

『わ、分かった。ちゃんと言う、だから暴力は止めろ』

『…………はあ』


 大きなため息を吐く。コイツと絡むと疲れる。もう夢から覚めたい。


『実はだな、お前は特殊な力を持っているんだ。その内容はまだ言えないけど、四大天使がいればお前はその力を使えるようになる。そしてお前はその時、初めて失われた過去を取り戻すんだ。それと同時に自分に課せられた使命がある事を思い出す』

『使命……?』

『ああ、その使命はお前にしか出来ない事だ。もし果たす事が出来ればきっとお前は…………これ以上はまだ言えない。という訳で四人目の天使を籠絡出来たらまた現れる』

『おい!ふざけんな!なに勝手に消えようとしているんだ!まだ聞きたい事は沢山――』


「はっ!?」


 気付けば俺はベッドで横になっていた。どうやらいつも通り眠っていたようだ。


 ――アイツ、いったい何なんだよ。人の質問に何でも答えるとか言っておいていつも肝心な事は教えないで消えて……ムカつく。だからここは……再び寝るとしよう!


 そして俺はゆっくりと深い眠りに就くのであった。







「ぐへっ、ぐへへへっ……これでお兄ちゃんと堂々と交尾出来る。ぐへへっ」


 キラは龍の部屋のドアノブのカギを挿し込む場所にピッキング道具を刺して、鍵のかかったドアを開けようとしていた。


 キラのピッキング能力は既にプロの域を超えている。なので鍵は約十秒で開いた。


「お兄ちゃーん、可愛い妹が夜這いに来たよー」


 起きたら妹に挿入していた、という最高のシチュエーションを与える為、キラは忍び足でベッドまで近づいた。そして静かに龍の布団に入って彼のナニがあるであろう場所に手を伸ばす。


「……あれ?」


 幾ら探ってもナニを触る事が出来ない。というか何か龍の感触がおかしい。それに体温を感じない。


 ――まさか!?


 布団を全部捲ると、その中には人型に丸められた布団があった。


「ううっ……お兄ちゃんのバカ……お兄ちゃんのバカーーー!!」


 キラの叫び声が夏の夜空に響き渡るのであった。

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