第21話 ここは病院なんだぞ!?
何か唇に柔らかい感触を感じる。温かくて優しい感触。もっと感じたいと思う。しかしすぐにそれは終わり、物寂しく感じる。
――一体何だったのだろうか?
と、思いながら目を開けると、眼前約五センチぐらいの位置に碧乃の顔があった。
「「………………」」
――もしかしてさっきの柔らかい感触は碧乃の唇だったのか?いや、碧乃がそんな事するわけないよな……?じゃあ俺の気のせいだな。
何故か知らないが、碧乃の顔が次第に赤く染まっていく。
「…………き」
――あっ、これ確実にあれが来るわ。これから女性にしか出せない高い声が室内に響き渡るぞー。
「キャーーーー!!」
――ほらね。
「ななな、何するのよー!!」
「ぶへぁーっ!?」
思いっきり頬を叩かれる。
――理不尽だ。俺は全く悪い事してないのに……
碧乃は一瞬で部屋の入口前まで後退した。因みにここから入口のドアまでは六メートルぐらいある。それを一瞬でって……多分、全力疾走していないと一瞬であそこまではたどり着けないぞ。だが碧乃は止まった状態から一瞬でそこまで移動した。アイツの身体能力はどうなっているんだよ。
「うぐっ!?」
急に脇腹の下と腹部辺りに激痛を感じる。
――そういや俺、痴漢に刺されたんだっけ。それで生きてるってすげえな俺の身体。いや、でもたかがカッターごときで死ぬヤツなんて、そうそういないか。
「り、龍!?大丈夫!?」
碧乃は慌ててナースコールを押そうとする。しかしそれだけで医師や看護師を呼ばれるのは何か恥ずかしいので、咄嗟に碧乃の手を掴む。
「だ、大丈夫だから押すな」
「でも!」
「大丈夫だから!」
「…………うん」
碧乃は心配そうにこちらを見た後、ゆっくりナースコールから手を放す。
「…………あっ」
何故か再び碧乃の顔が真っ赤になってゆく。
碧乃の視線の先を見ると、俺の手が碧乃の腕を掴んでいた。だが触れられているだけで恥ずかしくなるわけがない。ならどうして赤くなるのだろうか?
そして――パァーン!!
頬を叩かれました。
「さささ、触らないで!!」
「今のは仕方ないだろ!!」
「こ、この変態!!」
「変態じゃねえよ!てかお前こんなキャラだったか!?何そんな事如きで恥ずかしがってるんだよ!!」
――普段の碧乃なら俺にお尻を触られても怒らない――多分。それなのに何故こうも恥ずかしがって……何か純情乙女みたいだぞ。
「はあ!?恥ずかしがってねえし!!」
「へぇー、じゃあ俺とキス出来るか!?」
「出来ないわよ!!」
頬を朱に染めて視線を泳がせ始める碧乃。
「ほら恥ずかしがってるー!恥ずかしがってますー!」
「してないわよ!だったらキスどころかセックスさせてもあげるわよ!」
「おー、させてみろ!だがそれはお前からやれよ!!」
言った瞬間、俺は突き飛ばされ、上体を起こした状態から横になる体勢になった。そして碧乃が俺の上に跨る。
「ちょっ!?マジかよ!?」
「まままま、マジよ!!」
いや、でも強がりである可能性がある。ならここは負けるわけにはいかない。
「じゃあセックスさせ――っ!?」
気付けば俺の上で碧乃が大粒の涙を流して泣いていた。
――もしかしてあまりの恥ずかしさに涙が出て来たとかか?もしそうなら俺の勝ちだ。というわけで、早く上から退いてもら――
「……めんなさい…」
「………えっ」
「……ごめんなさい……わたしのせいでこんなになって……わたし、とっても怖かったんだよ……?もしかしたら龍が死ぬんじゃないかって……」
「…………」
――なんだ、可愛い所あるじゃないか。
碧乃の頭を優しく撫でる。
「……何で……こんなわたしの為に……わたしが悪いのに……バカ……本当にバカ!わたしが凌辱されておけばあんたがこんなになる事もなかったのに!何で……何であのタイミングで現れたのよ!?何でわたしなんか助けたのよ!!このバカ!!」
「お前なあ、大事な人が傷付こうとしているのを無視して見る事が出来るヤツなんてどこにもいないぞ」
――そう、絶対にいない。いるとしたらなかなかのヘタレか精神異常者ぐらいだ。いや別に精神病患者の事は言っていないぞ?俺が言いたいのはかなりのサドとかって話だ。
「龍……」
碧乃の頬を伝う涙の量が更に増えた。
そして碧乃は俺の胸に顔を埋めて大声を上げて泣き始める。
――俺、最悪だな。大事な人を泣かせてしまうなんて……自分の顔を自分で殴りたいぐらいだ。でも碧乃に何も無くてよかった。もし何かあったら俺は自分を心底恨んだだろう。何で碧乃を助ける事が出来なかったんだ!!って……それを考えると、碧乃を助ける事が出来て本当に良かったと思う。
俺は碧乃が落ち着くまでずっと頭を撫で続けた。そしてある程度落ち着くと、碧乃は俺にキスをした。
「龍、わたしあんたの事が好き。ずっとずっと前から好き。きっともうあんたなしでは生きられないと思う。だから……これからもずっと一緒にいて欲しい」
――なんともまあ、可愛いヤツだ。コイツがこんなに素直になる事はなかなかない。そう思うと、胸が痛くなる。だって、俺にはキラという彼女がいるのだから……でももしキラと付き合っていなかったら、俺はコイツと付き合っていただろう。碧乃とは元々、気が合うからとても仲良しだった。もしそんなヤツが恋人だったなら、きっと俺は幸せになっていた。そしてもしかしたら碧乃を幸せにする事も……
「ああ、分かった。でもそれは友達として一緒にいるって事でも良いか?」
「……そっか、それもそうだよね。彼女がいるんだし」
「紫乃から聞いたのか?」
「うん……じゃあさ、もし……もしだよ?もしその彼女と別れる事になったら、その時はわたしと付き合ってくれないかな……?」
「考えとくよ。まあ、その前に俺の事を諦めてくれると助かるんだけどな」
きっといつかはキラと別れる。相手が血の繋がった妹なんだから、それは確実だ。それがいつになるのかは分からないが、その時まで碧乃が待ってくれるなら嬉しい。でもそれ以上に俺の事を諦めて欲しいと思う。
こんな俺なんかを好きになり続けるのは無理だ。というか無謀である。それにもし俺がフリーになって付き合う事になったとしても、必ずとも幸せになれるとは限らない。それなのに待ち続けるって……バカとしか思えない。でも碧乃らしいと思う。
碧乃は小さい頃、奥手でおどおどしていて、優しくて、恥ずかしがり屋で、そしてこうと決めた事は何があっても必ず実行していた。そんな碧乃が俺を待つと言ったんだ、きっと彼女は俺を好きで居続けるだろう。
――俺、死ねば良いのに。
「そうね………じゃあ早く一発しましょう」
「…………は?」
――コイツ今なんて言った?俺の聞き違いじゃなければ、セックスしようみたいな事言ったよな?
「何故そんな流れになる!?」
「だ、だってあんた気絶する前わたしと一発したかったって言ってたじゃない!」
「な、なんでやるんだよ!?」
――いや、確かに気絶する前そんな事言ったけど。
「てかもしやるとしてもここは病院なんだぞ!?こんな所でセックスやるヤツがどこにいるんだよ!?」
「ここにいるじゃない!」
「やる気満々だなあ!」
「違うわよ!てか死ぬほど恥ずかしいわ!でもわたしとしたいんでしょ!?なら早くーー」
碧乃は俺の病人服を掴んだ。そして――
「脱ぎなさい!!」
はぎ取る。
「さ、さあ、ちんこ出しなさい!」
今度はズボンに手を掛ける。
「ま、待て!ここはマズい!乙女なお前が見たら確実に気絶する!!」
「大丈夫!あんたのサイズぐらいちゃんと知ってるわよ!三センチでしょ!?それぐらいで気絶するわけないわ!」
「じゃあ尚更気絶するわ!俺の勃起時のサイズは一六センチあるんだぞ!?」
「……えっ」
――あっ、碧乃の顔からサァー、と血の気が退いてゆく。きっとというか確実に俺のサイズを想像して絶望を感じたな。
「分かったなら早く退け」
「だ、大丈夫。私、痛いのには慣れてるから」
「とか言って顔が真っ青じゃねえか!!」
「誰でも真っ青になるわよ!てか奥手で恥ずかしがり屋で乙女の私にこれ以上、恥ずかしい思いをさせるつもり!?あんたどんだけサドなのよ!!」
――いや、決めつけるなよ。俺はどちらかと言うとオールラウンダーだ。いや、まあサドでも行けるけど。でもろうそくで責められてみたいという気持ちもあるわけで……って!何言わせるんだよ!!
「あー、もう早く脱げって……言ってるだろ!!」
ズボンがビリビリッ!と勢いよく破ける。
「じ、じゃあ行くわよ」
と、ここで入口辺りから何かビニールのようなものが落ちる音が聞こえる。その音の聞こえた方を見ると、キラが呆然としていた。そして目が死んでいる。
「兄貴?何してるのかな?」
「「あっ……っ!!」」
俺は急いで布団を被って、碧乃は真っ赤になった顔を両手で隠しながら病室を出て行った。
走り去って行く碧乃が見えなくなったのを確認して、キラはビニールから果物ナイフを取り出した。
「お兄ちゃん……?一緒に死んでくれるよね?」
「それは勘弁願いたい」
コイツの場合、かなりのヤンデレだからきっと本当にするだろう。ここは逃走した方が良い。しかし今の俺は手負いだ。それに鎮痛剤の効果が切れてきたのか、痛みを感じ始め、動きが鈍くなっている。そんな状態で、身体能力の高いアイツから逃げ切る事はまず無理だろう。
――マズい、このままじゃ本当に殺されかねない。
キラはナイフを振り上げる。
――死ぬっ!!
咄嗟に目を瞑る、とキラが俺に抱き付いた。
「ふえええん!お兄ちゃんのばかああ!!本当に死んじゃったらどうしようかとおもっちゃったよおお!本当にバカああ!!ふええええん!!」
フッと笑う。これは安堵からの笑みではない。生きてまたキラの笑顔を見れて良かったと思っての笑みと、やっぱり俺の妹は可愛いと思っての笑みだ。
――きっと俺は、一生キラを守りながら生きて行くんだろうなあ……じゃないとコイツは生きて行けないような気がする。
キラの頭にポンと手を置いて頭を撫でる。
「ごめんな、キラ。もうこんな事はしないよ」
「当然でしょバカ!!」
パァーン!と頬を叩かれる。更に逆の頬も往復で叩かれる。これを往復ビンタと言うのだろう。
そしてキラは俺に抱き付いて泣き始める。
――全く、俺の妹は俺に依存し過ぎだ。そろそろ兄離れして欲しい。
コイツがブラコンという邪なものじゃなく、本物の幸せを見付けてくれると嬉しいのだが、暫くは無理そうだ。
「……ぐへへ」
――ぐへへ?何だ今のは。空腹を知らせる音は、ぐう、だよな?ならキラの声……?あっ、そう言えば何回かコイツのこの声を聞いた事があるな。この声は邪な事を考えている時の笑声だ。何かイヤな予感がする。
「お兄ちゃんは今、上半身裸……しかも怪我をしているから容易には動けない……襲うなら今しかない……無理矢理になっちゃうけど、きっとお兄ちゃんも喜んでくれるよね?」
「待て!お前何考えているんだ!?」
キラは俺の上に跨る。
「何って…………んもう、お兄ちゃんなら分かってるでしょ?」
「待て!分からん!てか分かりたくない!!」
キラは俺の右手を掴んだ。そして自分の左胸にそれを押し付ける。
「あん!お兄ちゃんのエッチ!」
「お前が勝手に触らせたんだろうが!!」
――でも感触は最高です!って!何を言っているんだ俺は!!
「はあ……はあ……お、お兄ちゃん……ぼぼぼ、勃起してるわよ……」
「はあ!?そんなわけ――っ!!」
本当に勃起していた。
――俺、妹に欲情するとか最低だな。でも俺は思春期だからこうなるのも無理はない、と思う。
「じゃあお兄ちゃんのおちんちん摩るね!」
そう言ってキラはズボンの上から俺のペニスを摩り始めた。無性に気持ち良い、このまま続けられたら確実に絶頂を迎えるだろう。
「止めろ!マジで止めろおおお!!」
この後、ナースコールを連打しまくって、駆けつけた医師と看護師に二人して散々説教されたのは言うまでもない。
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