第18話 柚子さんはエッチです
「遅い!!」
昨日の夜、碧乃から【教室で待ってろ】という感じのメールが送られてきた。俺はそれを忠実に守って、放課後の教室で彼女が来るのを待っているのだが、待てども待てどもヤツは現れない。
――もしかして悪戯か?いや、でもアイツがこんな質の悪い悪戯をするわけがない。じゃあ何だ……?分からん。取り敢えずアイツの教室まで行って迎えに行ってやるとしよう。
教室を出る、隣にある碧乃の教室へ行く。で、知らない女生徒が三人だけ教室に残っている。
「…………」
――何故だ、何故碧乃は教室にいない?
「あっ、宮平龍じゃん」
女生徒の一人が俺に気付いた。てか――
「――何で俺の名前を知っている?」
「えっ?あんたかなりの有名人だよ。聖夜様の元カレって事で。多分、あんたの事を知らない人はこの学園で一人もいないんじゃないかな」
「…………」
――アイツ俺に迷惑かけ過ぎだろ。てかアイツのせいでホモ疑惑じゃなくてホモ確定になっちまったじゃないか。どうしてくれるんだよ……
「で、何しに来たの?」
「あ、ああ。碧乃を捜してるんだがどこにいるか知らないか?」
「碧乃なら今日は休んでるわよ」
――休み……風邪でも引いたか?
もしそうなら一言ぐらいは連絡を入れて欲しいものだ。でもその余裕すら無い程体調が悪いのかもと思うと自然と怒りは感じない。
「そうだ、あんたあの話知ってる?」
「あの話?」
「昨日紫乃が痴漢に遭ったって話よ」
「えっ……」
――昨日……もしかしてファミレスからの帰り際に遭遇した、あの人だかりの原因は……
「これは知らなかったって顔ね。あーぁあ、幼馴染なのに可哀想」
――確かに紫乃が可哀想だ。しかし何も聞いていないのだから知っているわけがない。てかまさか碧乃はそれ関係で休んでいるのか?もしそうなら一体どうして……
「紫乃は今日来てたか?」
「あの娘も休みね」
「そうか」
――心配だな。これから見舞いに行くか?でもアイツらの家にはかれこれ五年程行ってないからなあ……だがやはり心配だから見舞いに行くとしよう。
「ありがとう。俺はもう行くわ」
「はいはーい」
手を振り返して再び友達と駄弁り始める女生徒を背に俺は教室を出るのであった。
碧乃は昨日事件のあった所に来ていた。
――ヤツが現れたのはここ、そして前回現れたのは確かあそこよね。で、その前があそこ……
痴漢を捕まえて殺す。碧乃は昨日そうすると決めた。だが実際に殺すつもりはないので、目標は痴漢を捕まえて警察に突き出す事だ。その為には次痴漢が現れるであろう場所を考えないといけない。
――今までで事件が起こっている場所はここ付近かあそこ付近だから、次現れるのはこの二つのどちらかって可能性が高いわ。なら……これは賭けになるけど今日はこの付近で待ち伏せするとしよう。
正直、何が起こるか分からないから、痴漢と遭遇するのは怖い。もしかしたら刃物とかを持っているかもしれないと思うと身震いする。しかし一度やると決めたら必ずやり通す。それが碧乃という人間だ。
大きく深呼吸する。
「よし!待ち伏せ開始よ!」
俺は朝倉家へと向かっていた。
「見舞いの品はこんなので良いのか……?」
右手に持つコンビニの袋の中身を見て不安になる。
一応、お見舞いの品としてプリンとスポーツドリンクとバナナを買ったのだが、この食べ物の組み合わせは風邪を引いた人のものだ。紫乃は別に風邪を引いているわけじゃないのに、俺は何を買っているんだよ。
だが後悔先に立たず。今更後悔しても意味がない。
【朝倉】と書かれた表札がある家の前で立ち止まる。二階建ての白いコンクリ造りの家、懐かしい。俺が良く遊びに行っていた頃は新築で真っ白だったのに、今では少しだけ色褪せている。
「まあ、仕方ないよな」
インターホンを鳴らす。
「はーい?」
返事が聞こえたと思ったら直ぐにドアが開いた。そこから、若く見えるが大体40代後半と思われる、エプロンを着た女性が現れる。その女性はこちらを見て目を見開いた。
「もしかして……龍ちゃん?」
「はい、龍ちゃんです」
彼女が最後に見た俺は、まだ小学生の頃だったから仕方ないが、”ちゃん”呼ばわりはさすがに止めて欲しい、とは言わないでおこう。てか普通に『はい、龍”ちゃん”です』とか答えた自分が今更そう言えるわけがない。
「あらあら、久しぶりねえ!元気にしてたかしら?」
「はい、元気でしたよ。柚子さんも相変わらず元気ですね」
「それはもう元気よ!おほほほほ!」
柚子さんは笑いながら俺の背中をバシバシと叩く。
――痛い……
「それで、今日は何しに来たの?」
「紫乃の見舞いに来たんですけど……帰ります」
来たのは良いが、やはり入るのは
一応、紫乃を
「大丈夫よ、おばさんは一時間ぐらい姿を消すから、存分に性交しなさい」
「しないです!!」
この人は何を言っているんだ。下ネタ具合はキラの方が上だが、これは一端のセクハラだぞ。
「碧乃がいないから3Pは出来ないけど、大丈夫!あっ、おばさんも入れて3――」
「やりませんよ!!絶対にやりませんよ!!」
「そう……所詮はおばさんだもんね。年齢だって龍ちゃんの倍あるし……ううっ、死にたい……」
――うわぁー、この人マジで面倒臭いわ。
「いや、柚子さんは美人だから余裕で行けますけど、おじさんがいるじゃないですか」
――そんな人とやって良いわけがない。
「大丈夫!あの人今単身赴任中だから!」
「どう大丈夫なんですか!?」
――なにか!?単身赴任中だから不倫の現場を見られる事はないわ!って言いたいのか!?もしそうならあんた最低だなあ!!でもその状況にそそられている自分がいる……って!何を考えているんだ俺は!!
「あっ、でもおばさん最近体力が衰えて来てるから龍ちゃんを満足させられるか分からないわ。ごめんね……」
「いや、謝られても困ります。というか絶対にしませんから」
「テクニックは凄いわよ」
「お世話になります!!……あっ」
つい想像して三大欲求の一つを爆発させ、勢い良く頭を下げてしまった。これじゃあ俺、熟女好きになっちゃうじゃないか。
「あらあらまあまあ、若いって素晴らしいわ。でもやっぱり若い者同士が良いわよね。おばさんはこれから買い物に行ってくるわ。本当に一時間は帰って来ないからね!あっ、それと紫乃の部屋は二階の階段右にあるわよー!」
そう言ってウインクすると、柚子さんはおほほ、と笑いながら交差点を右に曲がり、姿を消した。
「台風みたいな人だなあの人は……」
まあ、昔からこんな感じだったけど。
碧乃が待ち伏せし始めて既に一時間が経過していた。今のところ怪しい者は見当たらない。
――ここはハズレだったか?いや、でもまだ五時手前だから諦めるわけにはいかない。ヤツが現れるとしたらこれからよ。
痴漢が犯行に及ぶ時間帯は夕方だ。これは今朝から色々と調べ回った結果分かった事だから、碧乃はそれで間違いないと思っている。
ふと、五十メートルぐらい先を怪しい者が歩いている事に気付く。その者は黒いキャップを深く被り、夏手前だというのに厚手の黑いスラックスを着て、白いマスクを装着している――どこからどう見ても不審者だ。それに印象がどことなく昨日の痴漢と似ている。
――きっとアイツに違いない!!
碧乃は全身黒づくめの者を追う事にした。
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