双子
第15話 妹の問題発言に親父、卒倒する
『最近、〇〇街での痴漢が多発しています。〇〇街の住民の方、特に女性は夜道に気を付けてください』
「へぇー、痴漢ねえ」
内藤のせいで最近日課になりつつあるメッセージ確認をしている時、たまたま画面に表示されていたニュース速報を見て、そんな事を呟く。
〇〇街は俺の住んでいるこの地域の事である。こんな近くで痴漢が現れたとなるとキラが心配だ。
何故キラが心配なのか?それは俺の妹兼恋人がかなりのバカだからである。
アイツはしょっちゅう夜中にコンビニに出掛ける。しかも何度も親に怒られているのに、それを聞かないという……マジでバカだ。
「今度からは俺が代わりにコンビニに行ってやるか」
――非常に面倒くさいが、キラが危ない目に遭うよりかはマシだからな。
部屋のドアがコンコンッ、と二回ノックされる。
「お兄ちゃん、朝食出来てるよー」
「ああ、分かった」
ノーパソの電源をシャットダウンし、折り畳んで部屋を出る。そして階段を下りてリビングに行くと、既に俺の家族は朝食を食べていた。
「遅いぞ、早く座れ」
「おう」
――いつもはうるさい親父が珍しく不機嫌だ。いったいどうしたんだ?
自分の席に座り、いただきます、と言うと箸を持ってウィンナーに手を付ける。
今日の朝食は、レタスとコーンとトマトのサラダに、ウィンナー、目玉焼き、食パンだ。一般家庭と同じである。
「龍、キラ。お前らに訊きたい事があるのだが、飯を食いながらで良いから答えてくれ」
「…………」
「なんだ?」
キラは完全無視。一方の俺は反抗期じゃないので耳を傾ける。
「…………」
親父は無言になる。
――もしかして訊きづらい事を尋ねるつもりなのだろうか?もしそうならいったい何を……
「お前らもしかしてだけど……付き合っているのか?」
「ぶふぅー!?」
思わず口に含んだ牛乳をキラの顔にぶっかけてしまった。顔に白濁液って、何かエロイ。そしてかなりの罪悪感に襲われる。
――俺は妹の顔に何をぶっかけているんだよ!ま、まあ、そんな事はどうでも良い。それより親父にどう説明しようか?素直に肯定した方が良いか?でもそれを聞いたらきっと親父はキレるよな?じゃあどうすれば……
「お父さん、お母さん。今までお世話になりました。あたしはお兄ちゃんと結婚します」
またキラの顔に白濁液をぶっかける。
――何つー問題発言をしているんだコイツは!いや、その前に結婚しないから!ていうか兄妹じゃ出来ないから!!嗚呼、親父にぶっ殺され……ん?
「…………」
恐る恐る親父を見る。彼は固まったまま何も喋らない。というか微動だにしない。どうやらあまりの問題発言に気絶してしまったようだ。
「あんた達ねえ、急にビックリする程仲良くなったと思ったら、こんな無茶苦茶な事言って……何考えているのよ」
「お母さんには関係ないでしょ!」
「あるに決まってるじゃない。その前に兄妹で結婚出来ないの分かってる?」
「あたしとお兄ちゃんは愛し合っているからそんなの関係ないの!」
それを聞いておかんは呆れたようにため息を吐く。
「分かったわ。少しだけお父さんと考える時間をちょうだい」
おかんは精神の脆い親父にも呆れたのか、親父を見て再びため息を吐いた。
――考える時間っていったい何を考えるつもりなのだろうか?こういう場合、キッパリと別れされた方が一番効果的だろうに……まあ、考えが
「じゃああんた達、もう学校に行きなさい。遅れるわよ」
柱時計で時間を確認すると、既にホームルームが始まる三十分前になっていた。通勤時間を考えると、このままのんびりしていたら遅刻する。ここは早めに食って家を出るとしよう。
ふとキラを見ると、彼女は顔と耳を真っ赤にしていた。どうやら今頃になって恥ずかしくなってきたらしい。
それから五分程して俺とキラは家を出た。
「ねえ、兄貴」
無表情で俺を呼ぶキラ。彼女は外面を気にするタイプなので、いくら俺の事が好きでも、家以外では仲良くないふりをする。若干寂しいような気もするが、俺としてはその方が助かる。だってそうだろう、外で妹に求婚されているところを友達になんか見られたらいったいどうなるか……考えただけで寒気がする。
「何だ妹よ」
「結婚しようね」
――コイツすげぇ、仲良くないふりをしながら俺に求婚して来やがった。
「イヤだ」
「ツンデレね」
「違ぇよ」
「そしてあたしもツンデレ」
「ああ、確かにそうだな」
――いや、明らかにヤンデレだろ!!
思いっきり突っ込みたくなったが、こちらも外面を気にするタイプなので、無表情で肯定しておく。
「だから結婚して」
「何故そうなる」
「お兄ちゃんはツンデレな妹は嫌い?」
「いや、大好きだ。それはもうそっち系のエロゲを沢山持っているぐらいにな」
俺はエロゲを沢山持っている。ジャンルはBLからユリまで多岐に渡るのだが、その中で一番好きなのが奥手少女タイプだ。そしてその次にツンデレ妹が来るので、キラの事は嫌いではない。逆に可愛い妹だと思っている。しかし現実の妹と二次元の妹は全くの別物。一緒にしてはいけない。
「なら結婚しよう」
「お前、どんだけ俺と結婚したいんだよ。正直ドン引きだぞ」
「大丈夫、既成事実を作れば絶対に結婚出来るから」
「お前最低だな」
「えへへぇー」
キラは僅かに口角を上げる。
「何が既成事実なの?」
「ああ、コイツが既成事実を作ればけっこ――えっ!?」
背後から声が聞こえたので振り返ると、俺の幼馴染である【
碧乃はキツめで切れ長の目つきをしているから、よくヤンキーだと思われる。というか正真正銘のヤンキーだ。しかも喧嘩がかなり強いから、碧乃を知っているヤツは、絶対に彼女に喧嘩を売らない。そして身長は160cmぐらいで、目鼻立ちがしっかりしていて美形だから、聖夜同様女子にもモテる。だが本人はそれに気付いていない。
ああ、そうだ。彼女に喧嘩を売るのは二人いたか。その二人と言うのは俺と、俺の妹の――
「死ね、ヤンキー」
――キラである。
キラはその言葉を残して速足で俺達から離れて行った。
「幼馴染に対して死ねはないだろ、死ねは。すまんな、碧乃」
――何で俺が謝らないといけないのだろうか……
「今度会ったらしこたま説教しとくよ」
「大丈夫よ。あの娘の性格はちゃんと理解しているから。それより既成事実がどうしたの?」
「うっ……」
――そこ掘り返すか。だが既成事実という言葉を聞けば、誰でも気になるよなあ……仕方ない。
「内藤と既成事実を作ったのか?って訊かれた」
――すまん、内藤。お前を利用させてもらうぞ。
「成る程、あんたら付き合っていたんだよね。それは気になるわ。で、作ったの?」
――よし、話が逸れた!
「作るワケないだろ」
「でもあんたの肉棒を内藤のやおい穴にぶち込ん――」
「それはない!!後やおい穴は実在しないからな!!」
――まあ、あったら面白いとは思うけど。
「そういや
紫乃とは、碧乃の双子の妹の事だ。ルックスは全く一緒だが、彼女は碧乃と比べるとかなり奥手で、俺以外の男性に喋りかけられたら反射的に俯く。でも一応、喋りはするし、その反応があまりにも初々しく、可愛いので学園での人気はそれなりにある。
「あの娘は今日は日直があるからって先に登校したわ」
「お前と違って優等生だな」
「まあね、あの娘は出来た妹よ」
「キラと交換してくんない?」
「キラちゃんの事は好きだけどイヤよ。紫乃はわたしのものだから」
――ですよねー。
「おっと!」
気付けば教室の入口まで来ていた。
「じゃあな、碧乃」
「おう!」
そう言うと碧乃は隣の教室に入って行った。
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