第14話 オレ、告白に答えを出す

「よーし、みんな頑張ろー!!」

「「「おー!!」」」


 亮の号令に応えるようにクラスメート達は声を張り上げる。


 今日は学園祭だ。年に一度しかないビッグイベントだと思うと、自然と気合が入る。しかしそれはあくまで一般論、俺はやる気がない。正直、どうサボろうかとさえ考えている。


 そんな俺の隣に来ると、亮は耳元で言う。


「谷口のプロポーション、ヤバくねえか?俺ちょっと勃起しそうだわ。ぶっちゃけ今すぐにでもトイレに行きたい」


 さすが変態、発言がわざわざ気持ち悪い。だが確かに悪くはないと思う。胸もHカップはありそうで、くびれも抱きしめたら背骨が折れるんじゃないかと思う程凄いし、尻も魅力的な丸みを帯びている。もし俺が彼氏だったら既に押し倒しているだろう。


「ああ、確かにヤバいな。興奮する」


 ぶっちゃけ今日のおかずにしたいぐらいだ。しかしクラスメートをネタにするのはかなり申し訳ない。谷口とはよく談笑するから尚更だ。もし彼女を夜のお供にしてしまったらきっと俺は一生立ち直れないだろう。なので首を振って雑念を払う事にする。


「それよりお前の恋人、来るの遅ぇな。早くビキニ姿を見て嘲笑したいのに……」


 ――コイツ、なかなか酷いヤツだな。でもまあ、モテないヤツがモテるヤツに嫉妬してバカにしたくなるのは当然か。


 と、ここで教室のドアが開き、みんなが驚愕の表情を浮かべる。内藤がビキニを着て教室に入って来たんだ、誰でもそうなる。そして抜群のプロポーションなんだから尚更驚く。もし俺が内藤は女だと知っていなかったらきっと今頃は顎が外れているだろう。


「おばあさんや」

「なんだいおじいさん?」

「あの美女はいったい誰ぞ?」

「内藤聖夜ですよ、おじいさん」


 という俺と亮のやり取り。


 内藤が恥ずかしそうな顔でこちらに歩いて来る。そして俺の前まで来ると、


「み、宮平君、僕おかしくないかな?」


 ここは正直に言ってやるとしよう。


「セックスさせてくれ」

「えっ!?」

「すまん、間違えた。かなり似合ってるぞ」


 不覚にも三大欲求の一つが露わになってしまったが、内藤の格好はそうなる程可愛い。今すぐこの格好でセックスさせて欲しい。いや、何を考えているんだ俺は。だがそそられる。


 小ぶりでもなく、大きすぎるわけでもない柔らかそうな胸、肉が付きすぎていないウエスト、俺好みの丁度良いサイズのお尻。どれを取っても素晴らしい。それプラス黒い三角ビキニに赤いパレオときた。気を抜いたら殺られる、前かがみになる。


「聖夜様、本当に女みたいじゃない?」

「胸とか本物っぽいよねー」

「「となると……聖夜様は……」」


 ――あっ、マズい。これはさすがに大胆過ぎたか?女ってバレたか?


「「男の娘!?」」


 ――なるほど、そうなるか。だがあの胸を見ているのにそう思えるのは素晴らしい。ここはそれを利用させてもらうとしよう。


「そうだ!内藤は男の娘だ!!」

「「「おおっ!!」」」


 ――よし、これで内藤は気兼ねなく学園祭を過ごせるな。


「癪だが犯したくなってきた」

「アナル処女奪いたい」


 ――うん、やっぱり気兼ねよう。


 しっかし、一言いっただけでそれを信じるとは……もしかして俺のクラスメート達はみんなバカなのか?


「なあ、内藤、胸揉んでも良いか?というか揉ませてくれ!!」


 急に亮が土下座で懇願し始めた。


「頼む!このとおりだ!!」


 そう言って亮は頭を下げる。


 ――コイツどんだけ触りたいんだよ、マジドン引きするぞ。


 辺りを見回してクラスメート達を見ると、彼らもドン引きしていた。てか男子にもドン引きされるって、なんて可哀想なヤツなんだコイツは。あまりに可哀想過ぎて涙が出そうだ。


 こんな亮を見ていると、内藤に一度で良いから触らせてやれと言いたくなる。ふと内藤を見ると、彼女はこちらを見ていた。そして何も言わずにコクリと頷く。どうやら触らせてやるようだ。


 ――まあ、内藤が触らせても良いと思ったんなら仕方ない。良かったな、亮。


 内藤は俺の右手を掴み、大胆にもその手を左胸に触れさせた。


「ひゃんっ!?」

「……はっ?」


 ――待て、何で亮じゃなくて俺に触らせる?というか柔らかい。柔軟剤でも使っているのだろうか?


「んっ……らめ……」


 ――って!何を考えているんだ俺は!でも後一揉みはさせてもらうとしよう、と思ったけど女共の殺気がマズい事になっているから、やむなく止める。


「そんな……俺には触らせないで龍には触らせるとは……理不尽だ!!死ね!龍死ね!!この童貞やろー!!」


 亮は大粒の涙を流し、泣き声を上げながら教室から出て行った。本当に残念なヤツだ。


「さあ!みんな!学園祭の始まりだ!!」

「「「おー!!」」」


 うちの学園の学園祭は一日しかない。なので祭りが終わるのは結構早かった。みんな良く頑張ったと思う。きっと出し物の売り上げは各クラスの中で最も大きいだろう。


 これからキャンプファイアーが始まる。しかし俺は学園の屋上へと赴いていた。理由は当然内藤に呼び出されたからである。


「やあ、宮平君。意外と早かったね」


 金網の前に立ち、夕日を見て哀愁漂わせながら内藤は言う。


「ああ、面倒くさいから抜けて来た」

「あははっ!クズ野郎だね!」

「うっせ!」


 クズ野郎である事は自負しているが、他人に言われるとムカつく。


「それで、答えなんだが……」


 既に俺の答えは決まっていた。後はそれを伝えるだけだ。これできっと俺と内藤の関係は変わるかもしれない。しかし言わないと俺達は先に進めないと思うから、怖いが伝えよう。


「その前に一つ良いかな?」

「あ、ああ」


 出鼻を挫かれた。


「僕ね、この学園が好き。人も面白いし、授業も充実してるし、なにより………君と出会えた。学園祭も楽しかった。みんなで力を合わせるのって良いね。もっとみんなで何かしたいよ……でもそれが今日で最後だと思うと残念だな」

「えっ……?それってどういう──」

「僕、ここに居れるの今日で最後なんだ。昨夜、父に君と付き合いたいって言ったらかなりキレられてさ。アイツと交際するのは許さない。もし交際するという考えを改めないなら勘当、若しくは強制帰国させるって」

「…………」


 ――意味が分からない。コイツは何を言っているんだ?てかコイツの親父さんは何故俺と交際したいって言っただけで怒るのだろうか?本当に意味が分からない。もしかして内藤には婚約者がいるのか?それならまだ分かるが、もしそうじゃないならいったい何故……


「僕は君と付き合えるなら別に勘当されても構わない。ずっと君といられるからね。でも、もし勘当されたら僕の行く場所がなくなるじゃない?そうなると絶対に生きてゆけない。だから帰るの」


 内藤は精一杯の強がりなのか満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ俺と付き合うのを諦めれば良いじゃないか」

「それは無理だよ」

「どうしてだよ!?お前、この学校を去りたくないんだろ!?だったら──」

「イヤだ!!」

「何でだよ!!」

「だって僕は………僕はどうしようもなく君が好きだから!!もうこの気持ちは止められないよ!!もし君と付き合うのを諦めるぐらいなら僕は帰る!!」

「…………」


 ――なんてバカなんだ……何でだよ……何でそこまでして俺に固執する。諦めれば済む話じゃないか。それなのに……


「言い方が卑怯ですまない。でも僕はそれほど君を思っているし、付き合う事が出来れば必ずちょくちょくは日本に来ると決めている!!……宮平君!答えを聞かせてくれ!!僕と付き合ってください!!」


 内藤は頭を下げる。


 ――本当に固執し過ぎだ。どうしてそこまでして俺と付き合いたいと思っているんだよ──いや、もしかしてコイツ、ワザと俺に断らせようとしているんじゃないか?だってそうだろう。普通はこんな無謀な手を使ってまで俺と付き合いたいとは思わない。コイツは確実に俺が承諾する事の出来ない道を作っている。なら俺が言う言葉はたった一つだ。


 頭を下げる。


「ごめん!お前とは付き合えない!!」


 俺の答えを聞いて内藤はフッと笑う。


「分かった。これで君を吹っ切れたよ。と、言いたいところだけど暫くは引き摺りそうだ」

「本当にすまない」

「いや、気にしないでくれ。それよりこれからは友達だ。気まずいからもう喋らないとかは止めてくれよ?」

「ああ」

「じゃ、僕はもう帰る。また来週会おうね!」


 踵を返し、屋上の扉を開ける内藤。その後ろ姿は何となく泣いているように見える。


 胸がズキンと痛んだ。でもここで彼女を引き止めてしまったら、きっと彼女が俺への恋心を忘れる為の時間が延びてしまう。だから──


「また、月曜日な」


 内藤の後ろ姿にそう投げ掛ける。


 これにて俺と内藤の青春の一幕は終了した。


 再び内藤と仲良くなるにはそれなりに時間が掛かるだろう。でも俺達ならきっといつかは仲を修復する事が出来ると信じている。しかしそれがいつになるのやら……


「……はあ」


 街の景観を見ながらため息を吐く。








「お兄ちゃん、今日こそは訊かせてもらうわよ?」


 ――ヤバッ、コイツの事すっかり忘れていた。


 キラは釘バッドを振り上げる。そして目をカッと見開いて……思いっきり振り下ろす。


「のわっ!?」


 あまりにも衝撃が強かったのか、木製の壁にバッドの型が刻まれた。


 ――コイツマジで俺を殺す気だ!!


 急いで階段を上がり、部屋に入ってドアを閉める。


「お兄ちゃん?何で鍵を閉めるの?」

「お前に殺されるからだ!!」

「大丈夫、お兄ちゃんを殺してあたしも死ぬから」

「いや!それはダメだろ!てかお前いつからこんなに重い女になったんだよ!?」

「あっ、でも最後にセックスしようね?」

「もうイヤだああああ!!」


 もう絶対に浮気はしないと決める俺であった。








 その日の夢、俺はまた真っ白な世界にいた。


『久しぶりだな、龍。二人目の天使ラファエル、現在名は内藤聖夜の籠絡おめでとう』

『はいはい、ありがとうございますー』

『なんだ?テンションが低いな』

『誰のせいだと思ってるんだよ。最近、お前のせいで俺は平穏な毎日を過ごせていない。ヤンデレの妹には毎日のように襲われてるし、王女様には人前でキスされたし……責任取れ』

『龍、それは言い掛かりというものだ。人のせいにするな』

『はいはい、そっすねー。それより、俺は内藤を籠絡していないのだが?』

『そう思うか?』

『何が言いたい?』

『まあ、そのうち分かるさ。それよりまた質問に答えてやるが、訊きたい事はあるか?』


 ――訊きたい事ねえ。山ほどあるけど、何を訊くか……そうだ。


『お前は何者だ?』


 一応、目的は聞いた。しかしそれだけであって、それ以外は何も聞いていない。となると、まず聞いておくべきはこれだろう。


『それは難しい質問だ。しかし答えるとしよう。神だ』

『死ね』


 拳で戦慄を鳴らしながら男の子に近寄る。


『待て、話は最後まで聞け』


 男の子は慌てて三歩下がる。


『……次くだらん事言ったら殺す』

『わ、分かった』


 そう言うと、男の子は一度咳ばらいをした。


『あー、私が神である事は確かだ。しかし元はお前と同じくだらない人間だった』


 ――コイツ、絶対に皮肉ってるよな?やっぱり殴ろうか?いや、相手は──見た目が──子供だ。あの成りのヤツを殴れる程俺はやさぐれていない。


『ある日、とある事が切欠で私は──っと、お前、誘導尋問が上手いな。まさかこの私がここまで喋ってしまうとは……』

『いや、俺は何もしてないから』


 というかお前が勝手にしゃべり出したんだろうが。


『まあ、私は神だ。これ以上はどうせ信じてくれないだろうから話さない』


 いや、話せよ。と言いたいが、彼がこれ以上喋りたくないのなら何も訊かないでおこう。それに突飛し過ぎているから、どうせ信じないだろうしな。


『おっと、もう時間だ。三人目を籠絡したらまた現れる。ではまた会おう』


 そう言うと、男の子の姿が一瞬で消えた。それを見て俺はため息を吐く。


 ――俺はこれから一体どうなるのだろうか?


 そう思うと再びため息が出るのであった。

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