第11話 王子様の秘密
「見たよね?」
「見てないっす!」
「何で敬語なの?」
「な、何となくっす!」
――マズい、このままじゃ殺される。どうにかして逃げないと!!ここは二階だから、窓から飛び降りたら骨折するかもしれない。なので窓からの逃走は却下だ。となると……
部屋のドアを見る。
――あそこから逃げるしかないか。
幸い、内藤はドアから少し離れた所に立っていて、僅かだが俺がギリギリ通れる程の隙間がある。スタートダッシュを決め、隙間をすり抜ける事が出来れば、もしかしたらここから逃げる事が出来るかもしれない。
――よし!行くぞ!!三!二!
そこまでカウントダウンしたところで、内藤は俺の思考を読んでドアの前に立った。
「逃がさないよ?」
――もう……降参するしかない。
「分かった。もう煮るなり焼くなり好きにしろ!」
そう言って土下寝をする。
「宮平君」
「な、なんすか?」
「僕がライトだよ」
内藤は頬を朱に染める。
まあ、気持ちは分からないでもない。ドラゴンの正体を知らずに俺に恋愛相談をしていたんだ。恥ずかしいにも程がある。
「因みに君がドラゴンだって事は分かっていた」
「…………は?じゃあ分かっていて俺に相談したって事か?」
「ああ、そうだ」
「何故直接リアルの俺に相談しなかった?ドラゴンに相談してもリアルの俺に相談しても別に変わらんだろ」
というかドラゴンに相談するより、リアルの俺に相談した方がかなり効率的だ。メールを開いたり、文字を打つ時間のもったいなさを考えると尚更である。
「リアルの君に『君の事が好きだ!君を落とす方法を教えてくれ!』と訊ねられるわけがないだろう!そんなの恥ずかしいにも程がある!」
「だからこのサイトを利用して、さり気なく俺の好みの女性を聞くべく、コンタクトを取ったのか。だが気になる事がある」
「気になる事?」
「何故俺がこのサイトを利用している事が分かったんだ?」
俺がこのサイトで小説を書いている事は家族以外知らない。それなのに何故分かったのだろうか?
「たまたまだ……たまたまスマホでこのサイトを閲覧している君を見て、君の見ているのがどんなものなのか気になり、このサイトを探していたら、君のプロフィールを見付けたんだ」
――なるほど、つまり俺の責任というわけか。やらかしたな、今度から学校では何もしないでおこう。でも内藤の言い方的にはまだ作品は読まれていないようだから安堵――
「いやぁー、恋の
――出来ないぃー!!
「これを読む前は君の事がちょっと気になるだけだったのに、読んでからは本気で好きになっちゃったよ!こんな話を書ける宮平君はきっとピュアなんだろうなあ……なんて可愛いんだ、キュンキュン!!みたいな感じでね!」
――マズい、勝手な解釈をされている。いや、まあピュアなのは自覚ある……童貞だし。だからこそ【恋の多角形】を楽しく書けるわけだが、それが災いしてしまうとは。てか、まさかだが……
「もしかして昨日今日のお前の奇行って、俺のアドバイスのせいか?」
「そうだよ!君が『ツンデレ妹属性が好き』『おバカなドジッ娘が好き』とか言うから、僕は頑張ったのに……何故君はほぼ無反応なんだよ!!」
「いや、あれ適当に言った事だし」
「そ……んな……」
内藤はあまりのショックにふらりと揺れ、這いつくばった。いや、まあ、悪いのは俺だけど、そこまでショックを受けるものか?
「この妖怪ほら吹き小僧が!!」
「どんな妖怪だよ!!てかそんな妖怪存在するのか!?」
――もしいたら見てみたいぞ!!
「んなわけないじゃん、君はバカなのかい?」
――うわぁー、コイツむかつくわぁー。
「まあいい。話を変えさせてもらう。お前、女か?」
チンが無くてパイがあったんだ。女じゃないわけがない。しかし見間違いという可能性もあるので、取り敢えず確認しておく。
「ああ、そうだよ。僕は女だ」
「じゃあなんで男の制服を着ているんだ?」
「女だとバレたらマズいからだよ」
「バレたらマズい?」
「僕、実はとある国の第一王女なんだ」
「殺されたい?」
嘘にしてはバカ過ぎる。今すぐぶん殴りたい気分だ。
「待ってくれ!この状況で嘘を吐いて何の得があるのさ!?」
「……それもそうだな」
内藤は仕切り直しをする為に咳ばらいをする。
「僕は現王の娘なんだけど、その現王の子供は僕一人しかいないんだ。理由は母親が大病を患って子宮を摘出しちゃったからなんだけど、それが原因で王を継ぐ者がいなくてさあ」
――いや、お前がいるじゃん。王を継ぐ者いるじゃん。
「お前がいるじゃんって思ったでしょ?」
――鋭いなコイツ。
「けど僕の国、女が王になる事は出来ないんだ。お国柄そういう決まりになっている」
「だからお前は男として生きていると」
「そうだよ」
王を継ぐことの出来る王子がいないのなら作れば良い。しかし王の正妻が子供を産めないからそれは無理。だったら聖夜を王子にすれば万事解決するじゃないか、という考えに至ったから内藤は男として生きている、と。これは酷だ、酷過ぎる。
内藤だってみんなと同じように可愛い服を着たいと思っているはずだ。それなのにお家事情に巻き込まれて、その思いを押さえつけられて……可哀想にもほどがある。
「でも……」
「ん?」
何故だろう、イヤな予感がする。こう、背筋に戦慄が走るようなイヤな予感が……
内藤は俺の肩に両手を置いた。そして俺を抱き寄せて――――キスをする。
――嗚呼、またキスされちゃったよ。気持ち良くて何も考えられない。あまりの気持ちよさに脳が溶けそうだ。そして最終的に俺と内藤の身体が完全に溶けてそのまま二人は一つになって……
という所まで考えたところで内藤は重ねていた唇を離す。
「でもさ、宮平君が僕と結婚してくれたら、僕は女として生きれるようになるよね!」
「……内藤」
「なんだい?」
「は、や、く、俺、から、離れろ!!」
相変わらず俺を抱き締める内藤を何とか突き飛ばそうとするが、お前は本当に女か!と突っ込みたくなる程力が強くてそうする事が出来ない。
「はっはっはっ!宮平君はツンデレさんだなあ!でも僕と結婚してくれるって言うなら放しても良いよ?」
「しねえよ!!」
というやり取りをしながらも、何とか離れようとする俺と、逃がさまいとする内藤の激しい攻防は続く。
――仕方ない、相手は女だけど!!
両手で内藤の頭を掴む。そして上半身を後ろに反らし、思いっきり勢いを付けて頭突きをくらわす。
「ぐほぁっ!?」
内藤は激痛で反射的に両手を放し、額を押さえた。ここで更なる追い打ちを掛けるように渾身のドロップキックをお見舞いする。
「うぎゃあああ!!あべっ!?」
内藤は蹴り飛ばされた勢いで、背後にあった壁に激突した。それと同時に後頭部も強打し、畳の上をのたうち回る。だが意外と身体が頑丈に出来ているのか、すぐに立ち上がった。
「な、なかなかやるね。さすが僕の旦那だ!」
「黙れ、てか絶対にお前とは結婚しないからな」
「やっぱりツンデレさんだな!」
――もう何発か殴っても良いかな?かな?
「それよりお前どうすんの?」
「何がだい?」
「水着カフェだよ。お前、女だってバレちゃダメなんだろ?」
内藤は女だから水着といえばどうしてもビキニになる。もし男性のように上半身裸で人前に出たらいったいどうなるか?それこそ混沌である。
「ああ、それか!もちろんサボるに決まってるだろ!」
――うわぁー、コイツ、端から学園祭に参加する気ねえ、最低だ。
腕組みして自信満々にフフンと鼻を鳴らす内藤をジト目で見ながらそう思う。
「お前なあ……こういうビッグイベントは学園生活で三回しかないんだぞ?」
もちろん俺が言っている〈こういうビッグイベント〉とは、年に一度しかない学園祭と体育祭の事だ。これらは一つでもサボったら、学園を卒業した後絶対に『何で参加しなかったんだ!』と後悔する。それなのにコイツは――
「それは分かっているさ。でも仕方ないだろう?どうしようもないんだし」
「確かにそうだな……だが俺に考えがある」
「考え?どんな?」
聖夜はキョトンとした顔で首を傾げる。
「そう早まるな。その前にお前に訊きたい事がある。お前の親、お前に甘いか?」
「激甘だよ。それはもう僕が欲しいと言った物は何でも買ってくれる程に」
――なるほど、それなら問題ないな。
「よし、じゃあ考えを話すぞ」
「~~というわけだ」
「えっ?でもそれって上手く行くのかい?」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
「う、うん……」
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