第8話 恋愛経験ゼロの俺が恋愛相談に乗る
「広島」
「はい!」
「深見」
「はい!」
――そういや、何故、内藤は俺を口説くのだろうか?
そもそもの話、彼が俺を口説くようになったのは、俺達が2年に上がって少し経った頃からで、そうするようになる切欠ははっきり言って一度も無かった。
――まさか一目惚れ……ではないよな?
一目惚れから始まる恋愛も少なくないと聞いた事があるが、それだとしても相手は同性だぞ?アイツ、おかしいんじゃないか?一度心療内科を勧めておくか。その方が俺の為にもなるしな。
「みんないるなー。じゃあこれから学園祭の出し物を決めるぞー」
「「はーい!」」
「何かやりたいのあるかー?」
――学園祭でやりたいものか……祭り事に関心を持たない俺からしたら、別にどんなものが出し物になっても良い。しかし、いくら関心がないからと言って、こういう時に限って調子に乗ったり、無茶ぶりする輩が現れるので、変な物にならないためにも、こちらが出し物を操作した方が良いだろう。となると最も良い方法としては……
「先生!俺が司会をやっても良いですか?」
直後、教室中がざわつく。いったいどうしたのだろうか?俺、何か悪い事したか?いや、してないよな?
「「「あの騒がしいのが嫌いな宮平が率先して司会を申し出ただって……?奇跡だ!!」」」
「お前ら酷くね!?てかみんな同じタイミングで同じセリフを言うって、どんだけ仲良しなんだよ!!一部の男女は仲が悪いって聞いたけど、もしかしてそれって俺の気のせいか!?そうなのか!?」
「「「えっ?コイツ何言ってんの?」」」
「そうですか!!仲良しですか!!ならいっそのこと男女一名ずつ付き合っちゃいなよ!!」
「「「え?イヤに決まってんだろこの童貞が!」」」
「何で勝手に決めつけてんのお前ら!?俺童貞じゃねえし!!」
「「「………………………」」」
教室中が一斉に静まり返った。あまりの静けさに、人がいないと勘違いした小鳥が教室に入って来る。しかしすぐに人がいる事に気付いた小鳥は、慌てて引き返し、外に逃げて行った。
「ああ!そうですよ!!俺は童貞ですよ!!なんだ!?悪いか!!?童貞舐めんなよっ!!」
怒鳴った後、内藤と目が合った。彼は笑顔でウインクし、右手を上げる。
「先生!僕も司会していいですか?」
「いいぞー」
きっと内藤は俺一人じゃ一向に話が進まないと思ったのだろう。癪だがこれは助かる。それに先程みたいな集団イジメには遭いたくないしな。
「宮平君、メモよろしく!」
「おう」
「じゃあみんな!何がやりたいか意見をくれ!」
「はい!お化け屋敷!」
クラス女子Aが提案。
「あたしの家、神社だからそういうの詳しいんだ!色々アドバイスも出来るよ!」
――ベターだな。取り敢えず黒板にメモっと。
「ふふふっ、そしてさり気なく禁忌の召喚魔法を使ってこの世界を崩壊させてやるのよおおおお!!」
「「「却下!」」」
満場一致のため、黒板にメモした内容を消す。
「はい!メイドカフェ!」
と、クラス男子B。
――これもベターだが取り敢えず、と。
「そして俺が女子共のご主人様になって夜な夜なあんな事やこんな事を……」
「「「却下!」」」
消す。
「はい!水着カフェ!」
亮が手を上げて提案した。
「「「却下!」」」
「待て、俺はやましい事なんか考えてないぞ!」
――いや、普通にやましいだろ。お前は変態と名高い生徒だ。そんなヤツが水着カフェって、どう考えてもな。
そう思っていると、
「よーく聞けみんな!まず男生徒からだ!お前ら……もちろん女生徒の水着姿を見たいよなあ!?」
「「「もちろんだ!同志よ!!」」」
さすが男というべきか、エロには正直である。
これはもしかしたら採用されるかもしれないので、取り敢えず黒板に【水着カフェ】と書いておくとしよう。
「はい、男生徒は満場一致!次は女生徒!お前ら……自分の体型に自信がないのか!?」
「はあ?バカじゃないの?あるに決まってんじゃん」
「死ねば良いのに」
「短小が何言ってんの?」
さすが女性、言葉が辛辣だ。そしてダメージを受けていないのか、飄々とした顔をしている亮君すげえ。てか亮のを実際に見たヤツがいるのかよ。
「なら水着カフェにしても良いよな?」
「「「ダメに決まってんじゃん!」」」
――まあ、そうなるよな。確実に男子にエロい目で見られるし、夜のネタにされかねないし。そこら辺は女じゃない俺でも気持ち分かるわ。
そして亮は最終兵器を出す。
「お前ら、内藤の水着姿を見たくないのか?」
「「「っ!!?」」」
女子が動揺し始める。ふと内藤を見ると、彼は大量の汗をかき笑顔だが顔面蒼白になっていた。
もしかして水着姿を見られたくないのか?いや、内藤は自分に自信を持っているヤツだから、裸を見られるのを怖がっているとは思えない……もしかして気分が悪いからそんな感じになっているのか?
「あたし、内藤君の水着姿を見てみたい!」
「ちょっと!抜け駆けしないでよ!私だって見たいわよ!」
そして最終的に内藤コールが始まって出し物は水着カフェとなった。
「疲れた……」
カバンを机の上に置いて、ベッドに飛び込む。
あれから細かい事を色々と決め、明日から学園祭の準備をする事になった。きっと看板や内装などでかなりの時間が掛かるだろう。だが最悪な事に出し物が決まったのは本日、学園祭の四日前。確実に忙しい日々が続く。これは怠け者の俺には酷だ。
「はあ……」
まあ、気分転換に小説の更新でもしよう。
ノートパソコンを開き、エンターキーを押す。前回使った後、スリープ状態にしておいたので、すぐにデスクトップ画面が現れる。そしてネットを開いたところでメールアイコンが現れている事に気付く。
きっとメルマガだろう。しかしこのメールがメルマガじゃなく、人から送られて来たメールだったら相手に申し訳ないので、アイコンをクリックし、内容を確認する。
【こんにちは、ライトです。もうお家にいますか?】
「そういやこの人の恋愛相談を受ける事になっていたんだっけ」
【はい、いますよ】
返信してすぐにメールが来る。
【良かったです。早速で悪いのですが、わたしには好きな男性がいるんです。あっ、もちろんわたしは女ですよ?】
――うん、分かってます。男が少女漫画風の小説を読むわけないし。
【それで、彼を落とす方法が知りたいんです】
――えっ!?彼のプロフィールは!?
【因みに好きな彼はどんな感じの人ですか?】
彼の情報が無いと何をアドバイスして良いか分からないので訊ねる。
【可愛くて、真面目で、素直じゃなくて、堂々としていて、勉強が出来て、優しい人です】
――なるほど、可愛いという言葉が気になるが、何となく落とし方は分かった。だが更なる情報が欲しいところだ。
【彼の趣味とかはありますか?】
【小説を書く事です。恋愛系ですね】
――ならそれ関係で釣るか?引っかかる可能性は高いよな?いや、でも彼は誰にもバレないよう、密かに小説を書いているかもしれない。となるとそこには触れない方が良い。かく言う俺も一緒だ。密かに小説を書いている。この事は家族にさえ教えていない。だからそこに触れたらどうなるか何となく想像はつく。ならどうするか……
【すみません、彼についてもう少し詳しく話しますね。彼は眼鏡で真面目で可愛い妹がいて、少女漫画風の小説を書いていて、怠け者だけどたまに積極的で、あっ、今日なんて学園祭の出し物を決める事になったのですが、その時自ら司会役を担ってくれたんですよ!もうツンデレか!って話ですよね。でもそういうところも私は好きで好きでたまらないんです】
――なんか最後らへんは惚気になってるような気がするのだが……もう寝ても良いかな?……いや、一度相談に乗るって決めたんだ。今更放棄するわけにはいかない。
【じゃあ次はライトさんの事を教えてください】
【私は女性を愛でる事が好きです──】
「はあっ!?」
――女性なのに女性を愛でる事が好きって何なん!?
【──あっ、でもユリではないですよ?ちゃんと恋愛対象は男性です。他は長身である事と、金髪碧眼である事。それと男と思われやすいけど女って所ですかね。これ以上は特にないです】
――うん、参考にならん。そしてどうしたものか……
【因みにですが、ドラゴンさんの好みの女性はどんな方ですか?】
――好みの女性……ないな。適当に近くの異性を上げておくか。
【わたしはツンデレで妹属性の女性が好きです】
送信ボタンを押した直後、猛烈に後悔する。何で俺は妹を好みの女性にあげているんだよ……バカ野郎。
あっ、急に眠くなってきた。目を瞑ったら三秒で眠りに就けそうだわ。明日から忙しくなるんだし、相談に乗るのはここまでにするか。
【すみません、そろそろ眠くなってきたので詳しいアドバイスは明日で良いですか?】
【はい!大丈夫ですよ!今日はありがとうございました!】
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