僕の王子様

第7話 僕の王子様

『俺は……明菜が好きなんだ!!』

『正樹くん……』


 明菜は正樹の必死の告白を聞いて大粒の涙を流す。


『さあ!君の答えを聞かせてくれ!!』

『私は――』

『待って!!』


「明菜がそこまで言ったところで正樹の後ろから、恋のライバル『胡桃くるみ』が現れた……と。よし、今日の執筆活動はここで終わるか」


 現在、力を入れて書いている小説作品『恋の多角形トライアングル』の執筆が終了し、ふぅー、と息を吐く。


「もうこんな時間か……」


 パソコン画面の右下に表示されている数字は【2:15】。そろそろ寝ないと明日に響く。授業中に寝てしまったら堪ったもんじゃないから……


「……寝るか」


 呟き、パソコンの電源をシャットダウンしようとした瞬間、メールが来たことを知らせるアイコンが現れた。


 この時間にメールをする不埒な輩は一体誰ぞ!と思いながら確認する。


「……これは」


 Web小説サイトからの通知だった。


 ――このサイトからメールが来る事はなかなかないのだが……一体何事だ?もしかして無意識に違反行為をしてしまったか?もしそうなら早急に対処しないとだな。


 メールを開く。


【メッセージがあります】


 ――なんだ、ひやひやしたじゃないか。


 そう思いながらリンクをクリックすると、数秒後、メッセージの内容が表示された。


【いつも楽しく読ませてもらっています。『恋の多角形』とても感動します。もしかしてドラゴンさんは恋愛に詳しいんですか?──ライト】


「………」


 ――全く詳しくない!初恋の時、酷いフラれ方をした事が原因で暫く女性に興味を持てなくなっていたから寧ろ疎い方だ!なのでここは否定するとしよう!


【はい、詳しいです】


 送信ボタンを押す。


「……っ!」

 

【やっぱりそうですか!実は折り入って相談したい事があります!ですが今日はもう遅いので、また明日メールしてもよろしいでしょうか?恋愛関係で困っています!──ライト】

【分かりました。明日だったら午後六時にはパソコンの前にいるので、それ以降なら何でも相談してください】

【ありがとうございます!それではおやすみなさい!!──ライト】


 ライトさんからのメッセージを確認した後、パソコンをスリープモードにし、画面の明かりが消えた事を確認して、フッと笑う。そして右手を額に当てて心の中で一言──やらかした!!


「俺ってヤツはいったい何をしているんだ……」


 ――明日は無視するか?いや、でもそれはあまりにも薄情過ぎるし、相手が可哀想だからやらない方が良いだろう。となると、その悩みに真剣に答えるしかない!そう、例えそれが間違ったアドバイスだったとしても!!


 意味不明なテンションになった後、俺はゆっくりと夢の世界へとダイブするのであった。





 腹部に異様な重みを感じたので目を開ける。


「……っ!?」


 キラが俺に跨ってキスしようとしていた。


「ゴルァ!!」


 ドスの利いた声を出しながら、キラの顎に頭突きをくらわせる。


「ひぎぃっ!?」


 意味不明な単語を発した後、激しくヘドバンしながら悶絶するキラ。その様はまさしくパンク。これでデスボなんか出し始めたらどうしよう……って、今はそんな事どうでも良いわ!それよりも──


「──朝から人の寝こみを襲うな!てかどうやって部屋に入った!?鍵は全部閉めてあっただろ!!」

「ふっふーん!」


 キラは両腕を組んで不敵な笑みを浮かべる。そして……


「お兄ちゃん、ピッキングって言葉知ってる?」


 机の上に置いてあるスマホを取って110番に通話開始。コールが始まって僅か一秒で──


『こちら110です。如何なさいましたか?』


 ――早っ!?


「実は妹が犯罪者に──あっ」


 言い切る前にケータイを奪われた。


「俺は妹とセックスした!」

「お前なに言っちゃってんの!?」


 キラからケータイを奪い返す。


「すみません!いたずら電話です!!」


 それを聞いて電話の相手は長いため息を吐き……


『いいですか?110は本当に大事な時にしかしちゃいけないんです。何故だか分かりますか?それは──』


 話が長くなりそうなので、無言で通話を切る。


 ――ごめんなさい、オペレーターさん。


 心の中で合掌。


「……おい」

「なあに、お兄ちゃん?」

「デコピンとお尻ペンペン、どっちか選べ」

「胸を揉みしだかれる」


 自らの体を抱き、芋虫のようにくねくね動きながら頬を朱に染めるキラ。正直この動きは女の子としてどうかと思う。これじゃあまるで肉棒じゃないか。


「……分かった」

「えっ!?やってくれるの!?ヤッター!」


 部屋のドアを開ける。キラの襟首を掴む。彼女を持ち上げて部屋の外に出す。ドアを閉めて鍵も閉める。任務完了。


「お兄ちゃんのいけずー!!」


 がりがりとドアを引っ掻く音が聞こえるが、ここは無視だ。もしここでまたドアを開けてしまったら最悪な事になりかねないからな。


 ――さて、着替えるとするか。





「はよーっす」


 教室に到着したのでクラスメート達に挨拶。


 それに返事した皆の声を聞きながら自分の席まで行くと、カバンを机の隣に置いて椅子に座る。


「おう!おはよう、龍!今日も優等生ぶってるな!」


 今挨拶した男の名前は神崎亮かんざきりょう。思いっきりとげとげしい事を言いやがったが一応俺の親友である。性格はかなり明るくて変態。何事にも積極的で変態。故に結構な人気者──で変態。


「うるせ、俺は優等生じゃねえよ。ただそういう風に見えるだけだ」

「じゃあ童貞ぶってる?」

「何故そうなる。てかお前も童貞だろうが」


 それを聞いて亮は不敵な笑みを浮かべた。

 

 ――コイツまさか……


「俺を舐めるなよ?俺は最近、童貞を超えた存在、童帝になったんだ!!」


 だ!、だ、だ……と亮の発した声が教室中に木霊する。それを聞いたクラスメート達は数秒沈黙し、何事もなかったかのように会話を再開した。あー、また変態が下ネタ言ってる。まあ、変態だから仕方ないか。スルーしよう──と、クラスメート達は判断したのだろう。


「お前、残念な時は残念だよな」


 同情で涙が出そうだ。


「ホモのお前には言われたくないわ!」

「誰がホモだよ!?」

「お前、女に興味持ってねえじゃん。話しかけられても無表情だし、女の話になったら目が死ぬし。どう考えてもホモじゃん!それに……」


 亮がそこまで言ったところで教室のドアが開いた。


「男に好かれてるし」


 開いたドアから教室に入って来る男子生徒を見ながら、亮はゲスに笑う。


「「「キャー!!聖夜さまー!!」」」


内藤聖夜ないとうせいや


 彼は外国から来た留学生だ。長身且つすらりとした体型で、顔が黄金比か!と突っ込みたくなる程整っているのでかなりモテる。正直これ程チートなイケメンはこの世にいないと思う。


 だが問題は──


「芦屋さん、今日も可愛いね。放課後一緒にキスプリ撮りに行かない?」

「はう……」


 芦谷さんは顔を真っ赤にし、頭から湯気を出しながらぱたりと倒れた。因みにキスプリとは、接吻しながらプリクラを撮る事である。


「あれ?月野さん、5ミリぐらい髪の毛切った?」

「分かる?」

「ああ、僕は君の変化なら直ぐに分かるよ。だって君に夢中だから」


 月野さんも、芦谷さん同様赤面しながらパタリと倒れる。


 ──かなり軽い性格である事なんだよなあ……


 内藤は次々と女生徒を気絶させながら、こちらへ近づいて来る。


「ほら、王子様が迎えに来たぞ」


 亮はまたゲスに笑う。これで笑い声が『ゲースゲスゲスゲス!』だったら面白いのに。そしてもし亮がそんな笑い声を上げるようになったら、確実に俺は亮の顔面をぶん殴る、ムカついて。


「やあ、宮平君。今日も可愛いね、僕と結婚してくれないかい?」

「しねえよ」


 内藤は徐に俺の顎を摘まみ、クイッと顔を上げさせる。


「安心して、ちゃんと大事にするから」


 ――うわぁー、ムカつくわあ。コイツぶん殴っても良いかな?あー、でもぶん殴ったら女子に思いっきり睨まれそうだからなあ……よし、止めておこう。


「なあ、内藤」

「何だい?何でも言ってごらん、子猫ちゃん」


 内藤はまるで小動物を愛しむような目をしながら訊ねる。やっぱりムカつく。


「俺、ホモじゃないからこういうの止めてくれないかな?」

「そんな事分かっているさ。だから君と結婚したいと思っているんだ」

「全然分かってねえだろがいっ!!」

「うごぅっ!?」


 つい内藤の頭頂部に張り手をくらわしてしまった。


 直後、至る所から大きな舌打ちが聞こえる。


 これで更に女生徒に嫌われたかもしれない。だが恋愛に興味のない俺にとっては好都合だ……ううっ、ウソです。嫌われたくないです。だって女性の嫌がらせはネチネチしてて怖いんだもん。


「痛いじゃないか宮平君」

「わ、悪い、つい叩いてしまった。大丈夫か?」

「君こそ大丈夫かい?叩いた手の平とか」

「大丈夫だ」


 軽くヒリヒリはするが、これぐらいどうって事ない。


「そうか……これで君が怪我をしていたら、きっと僕は立ち直れなくなっていたよ」


 ――さいですか。


「はい、みんな席つけー!出席取るぞー!」

「「「はーい!!」」」


 内藤はクラスメート達と一緒に担任に返事すると、こちらにウインクして自分の席に戻って行った。


「はあ……」


 ――何でこうなってしまったのやら。

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