21話「芽依と僕・5」

 僕は意外な質問に麦茶を吹き出しそうになった。

 「は、はい」

 バレているようだし、隠していても仕方ない。

 「そうか。どこが好きなんだ?」

 春山さんの目は優しかったが、なぜか僕は緊張するしかなかった。

 なんて答えればいいだろうか。

 張り詰めた糸、という言葉があるが、それがおそらくこのことなんだろう。

 「優しい、ところです」

 結局、僕はありきたりな答えをしてしまった。

 「なるほど。正直言って、僕は勇気君と芽依が付き合ってることに反対はしない」

 春山さんの目は、僕にとっては刃のようだ。

 「芽依はずっと、想っていたようでね。まさか君だとは」

 僕の中の、1つの不安が消えた。

 芽依お姉ちゃんは、僕のことが好きだったんだ。

 ずっと前から。

 「ただ問題がある。あの子は、大人を怖がっている」

 「それは、どうゆう?」

 「聞いていると思うけど、芽依は虐待を受けていた。その時の記憶が蘇ったんだろう」

 春山さんは続けて言う。

 「芽依を立ち直らせてほしい」

 僕は驚いた。

 「え、なんで、僕が?」

 「確かに私の、父の仕事だ。だが、芽依は大人を怖れている。私とまともに会話できるようになるのも、時間がいるだろう。勇気君、君は子供だ、悪い意味じゃない。芽依と対等に話せるんだ。もちろん、愛の力もある」

 僕にできるだろうか、今の芽依お姉ちゃんを元気にさせることが。

 「頑張り、ます」

 僕はそう言って、芽依お姉ちゃんの部屋へ向かった。

 

 ドアを開けようよしたところ、春山さんの奥さんと会った。

 「あんまり、きついことは言わないようにね」

 そう言うと、春山さんの所へ向かった。


 僕はドアの前に佇む。

 どうしたらいいのだろう。

 ただそのことだけ、頭にあった。

 ここで悩んでいても、出てこない。

 僕はドアを開けた。

 「芽依、お姉ちゃん?」

 僕は、ベッドの上にうずくまる芽依お姉ちゃんに声をかける。

 近づくと、芽依お姉ちゃんは僕に抱きついた。

 「大人になりたくない」

 僕はまず、聞くことにした。

 「私、あんな奴らの血を引いてるなんて、思いたくない」

 詳しく何があったのかは、僕には分からない。

 それを聞くことはしないほうが良さそうだ。

 忘れたい過去なのだろう。

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