18話「芽依と僕・2」

 男性はため息を一つ。

 そして玄関の扉を開け、勢い良く閉めた。

 強く、勢い良く。

 

 芽依お姉ちゃんの両親は、安心したようだったが、話題はすぐに変わった。

 「お隣の勇気君だよね、どうしてここに?」

 「え、あ、その…」

 芽依お姉ちゃんのお父さんは座っている僕に手を差し出す。

 「ひとまず、勇気君のお陰でこの場を切り抜けた。ありがとう」

 僕はその手を握り、立ち上がる。

 「ただ、ここにどうやって?」

 僕は、その回答に困っていた。

 迷路にいるみたいだ。

 芽依お姉ちゃんに視線を送る。

 だが、芽依お姉ちゃんも困っているようで、目が泳いでいた。

 

 芽依お姉ちゃんのお父さんはそんな僕達を見て、何かを察したようだった。

 「彩香、まあいいだろう」

 芽依お姉ちゃんのお母さんはそれを聞き、しばらく考えた後、「ええ、そうですね」と言った。

 「ほら、家に戻りなさい」

 芽依のお父さんは、優しい顔で僕に言った。

 僕は玄関から出ようとしたが、自分が窓から入ってきたことに気付く。

 

 しばらくして芽依お姉ちゃんが部屋に来る。

 「あの人は?」

 「私のお父さんだって…」

 その顔は複雑な顔をしていた。

 「え、でも眼鏡かけた人が…」

 そう、春山さんは眼鏡をかけた比較的細めの、賢い感じの人だ。

 「うん。私のお父さんはあの人」

 「どうゆう、こと?」

 聞いてはいけないような気もしたが、芽依お姉ちゃんはなんともなく話してくれた。

 「私、小さい頃、虐待されてたの。ママに。だけどある日、こっちに来た。なんでかは覚えてない」

 「育ての親ってこと?」

 芽依お姉ちゃんは首を縦に振る。

 「じゃあ、あの人は?」

 「分かんない、あの人は私のパパだって言ってた」

 芽依お姉ちゃんは僕の部屋で縮こまっていた。

 

 それはいつもの芽依お姉ちゃんのようでなくて、怯える子供のようであった。

 

 僕は母さんの言っていたことを思い出す。

 「その子のことが好きじゃない」

 芽依お姉ちゃんは、大人に怯えてるのだろうか?

 大人に、なりたくないから、僕と、同じになりたくて?

 

 僕は怯えた。


 芽依お姉ちゃんを抱きしめる。

 芽依お姉ちゃんも、僕を抱きしめる。

 

 そこには確かに、安心感があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る