14話「海」

 この時期の海。

 ビーチは賑わっていた。

 僕たちは着替え、シートを敷ける場所を探す。

 「どこがいいかな」

 僕は、海を見ていた。

 

 「しょうがない、ここにしよう」

 僕達は仕方なく、海から離れた場所にシートを敷いた。

 

 2人並んで座る。

 「水着、似合ってる」

 「そう?ありがとう」

 ひまわりの花が笑顔を見せる。

 僕達を見れば一見、姉弟だと思うだろうけど、それは違う。

 目の前の僕と同じくらいの男の子がこちらを見る。

 小太りでメガネをかけ、緑色の海パンを履いている。

 どこにでもいる子だろうが、僕は気付いた。

 智也だ。

 僕は見ないふりをして、芽依お姉ちゃんの方を向いた。

 芽依お姉ちゃんは「綺麗だね」と言いながら海を見る。

 「あっ、あれ翔平君じゃない?」

 僕はもう一度前を向く。

 本当だ。

 そして向こうも既に気付いているらしい。

 こちらへ来ようとする智也を必死に翔平が引っ張っている。

 2人は僕と芽依お姉ちゃんが付き合っているのを分かっている。

 だが、実際に2人に見られると、なんだか恥ずかしい。

 

 智也は翔平を振り切り、僕達の元に来る。

 そして僕の肩に手を回し、引き寄せる。

 「おい、お前はすごく勿体無い事をしているんだぞ」

 「え?な、何?」

 「あの胸が分からんか!いいか、あれは男の夢だぞ」

 「何言ってんの…」

 僕は半ば呆れた。

 「お前は男だ。そして芽依姉さんが好きだ」

 「う、うん」

 「あれは良いものだ。俺達にはない」

 僕は話を無視し、芽依お姉ちゃんのもとに戻ろうとする。

 智也はそんな僕の手を掴む。

 「魅力的なものだ。何でかわかるか?」

 「え?いや、分かんないよ」

 「ベールだ。花嫁のベールだ。秘密だ。特別な時、特別な相手にしか、あれは見れない」

 秘密…特別…。

 頭の中で何重にも響く。

 僕の鼓動が大きくなる。

 「欲があるのは悪い事じゃない。お前も本当は、知ってるはずだろ」

 智也は僕の手を離す。

 僕はゆっくりと歩き出した。

 蜜蜂のように花へと向かう。

 

 その後、僕と芽依お姉ちゃんは砂浜で遊んだ。

 海にも入った。

 楽しかった。

 この砂浜には本当に沢山の人がいたが、僕達2人だけのような、そんな感じがした。

 そしてその時間は、何倍にも感じた。

 確かに楽しかった。

 だけど、僕の心に一つ、今までと違う部分があった。

 僕は、芽依お姉ちゃんを見ていた。

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